63話
学園祭が終わって、後処理も終わると生徒会はだいぶゆったりとした時間を過ごせるようになる。私は生徒会室で赤坂と一緒に薄茶を飲んでいた。
……なんで赤坂が生徒会室にいるんだろうか。
気にしたら負けだと自分に言い聞かせてスルーしてきたが、気になるものは気になる。そしていつもなら机で真面目に仕事をしている兄が私の隣で団子を食べているのも珍しくて気になる。というか二人に両脇を固められた。逃げられない。
「……赤坂くん、なんでいるの?」
「今更?」
「いや、気にはなってたんだけどね」
「今日はマサと帰ろーって思って、教室で待ってると……こう……女子が来るから、適当にぶらついてたらフラフラの間切先輩を見つけてな?」
「連れてきた、と。そしてついでに休んでいっていると」
「そゆこと!」
なるほど。で、何があったかはわからないが兄は疲れ果てているから私の隣で団子を食べてるわけね。
ちらりと団子を食べている兄を見ればなるほど疲れ果てた顔をしている。
「そういえばマサが言ってたんだけど」
「んー?」
「2学期に入ってから戸柄先輩? に付きまとわれてるらしいな、間切」
「は!?」
ぼんやりとしていた兄がいきなり大声を出した。驚いたよ。
「波留、戸柄に付きまとわれてるのか!?」
「毎日昼休みに来るけど」
「通りで最近昼休みを悠々自適に過ごせると思った」
「そんでお菓子くれる」
「餌付け」
「美味しいよ」
「食べてる」
「ちなみに今日はマロンケーキだった」
「……」
「……」
無言で私の頬をむにむにしないで欲しい。
「夏樹ー?」
「あ、マサ」
「お待たせ。帰ろう」
「おう!」
「……間切さんと先輩は何をしているの?」
「なんかむにむにしてる」
「仲良いね」
見てないで助けてほしい。さっきから兄が無表情なんだ。家ではほぼ無表情だけど、外では珍しい。怖い。
「じゃ、お先に失礼します」
「間切先輩、失礼します! 間切もまたな!」
私を放置して行くか。
「二人とも気をつけて帰ってね」
にっこりと、愛想よく笑った兄がそう言うと二人は生徒会室を後にした。部屋には私と兄しか居ない。
「……他、何もされてない?」
「平気。兄さんこそ顔色悪いよ。無理してない?」
「まだ大丈夫」
酷い顔色で兄が微笑む。大丈夫そうには見えない。
顔色の悪い兄を説得し、私と一緒に帰ることとなった。なんか凄く渋られたし拒否されたので地味に傷ついている。今更になって兄の思春期が来たのだろうか。そういえば兄については思春期、反抗期がきていたのを見たことがない。圭はどっちもきてたっぽい時期があったんだが……両方一週間もせずに終わってたな。たしか。
「じゃ、俺はこっちから帰るから」
「帰る家同じなのに!?」
帰り道、何故か兄が度々私と別ルートで帰ろうとする。そこまで私と一緒にいたくないか。泣くぞ。
別の道に進もうとする兄の腕を掴み、進めないようにしていると背後で静かな足音が聞こえた。別に今は夜中ではないし、学生や社会人が帰宅する時間なので何ら不思議ではない。が、何故か耳に残る。
「……」
そっと後ろを振り返るが、特に気になる人影はない。いつも通りの帰り道だ。しかし、なぜだろう視線を感じる。
「兄さん、早く帰ろう今すぐ帰ろう」
「え、は、波留? うわっ」
兄の手を引き、急ぎ足で家への道を進む。兄がなにか言っているけど聞こえないふりをした。
「ただいま」
「……た、だいま……」
「おかえりー!」
「おかえり。もうすぐ夕飯できるけど……二人とも大丈夫?」
駆け込むように家に入ればエプロンを付けた圭と父が出迎えた。そうか、今日は父が夕飯を作ってくれるんだった。夕飯は何だろう。
家に着くと安心感を覚えて手足から力が抜ける。へたり込むのはなんとか踏んばって阻止したけど、今すぐベッドにダイブしたい。
「大丈夫」
「そう? 最近寒くなってきたし、風邪も流行ってるから体調には気をつけるんだよ?」
「はーい」
父に言葉に返事をしながら部屋へ上がる。着替えてご飯食べよう。
次の日から戸柄先輩は来なくなり、兄の顔色はさらに悪くなっていった。




