61話 2年学園祭
とうとうやってきた学園祭当日、私はクラスの前で辻村と受付を担当していた。何故私が彼とペアでやっているかといえば簡単な話、他の人がやりたがらなかったのだ。というか、やりたいけど二人で受付となると隣に座らなければならないし、恥ずかしい、恐れ多いというところだったのだろう。なかなか決まらないシフトに焦れた委員長が部活の出し物とか一切ない暇人の私をここに組み込んだわけだ。
「間切さん何やってるの」
「鶴折ってる」
「暇なの?」
「暇」
角なんかがズレないよう気をつけながら着々と鶴を折り続ける。受付には二人しかおらず、今は取り巻きたちも居ないので辻村からの言葉にも普通に返せる。気楽で良い。
それに学園祭初日の朝一番なのでまだ人が少なく、今はお客も途切れているのでのんびりと折り紙をやって遊ぶことができる。
「折り紙好きなの?」
「普通かな。手持ち無沙汰な時にやるくらい」
「へぇ。1枚貰ってもいい?」
「1枚と言わず。なんかノリで買っちゃって、使いきれるかわからないんだよね」
「じゃあ遠慮なく」
鶴が1羽出来上がった。隣に座る辻村も何か真剣に折り始めている。次は何折ろうかな。あ、足の生えた鶴折ろう。
「何してるの?」
二人で折り紙をしながら、時折来るお客の対応をしていると頭上から声が降ってきた。久々に聞く有村さんの声だ。
顔を上げると有村さんと千裕さん、茜さんが3人揃って目の前に来ていた。相変わらず美男美女。眩しい。
「足の生えた鶴折ってました」
「間切さんそんなの折ってたの?」
ほれ、と見せると隣の辻村が驚いたように声を上げた。そんな辻村の手元には立体的な花。まだ途中のようだが、充分すごい。
「うわ、凄く器用」
「頑張ってみた」
「弟と後輩が可愛い」
「可愛い」
「可愛いは正義」
なんかお三方が携帯を構えながらなにか言ってるけど気にしないでおこう。次何折ろうかな……。いやそれよりも。
「皆さんは中に入られますか?」
「はいるー!」
「三人でも大丈夫かしら?」
「え、俺も?」
「ちゃんと守りなさいね。……脅かし役の子たちを」
どういうことだろう。
深くは突っ込まず、受付を済ませて三人を中へと案内する。中の案内はその係の子がやってくれるので私の仕事はここまでだ。
「できた」
「何折ってたの?」
「薔薇」
「とても立体的」
黙々と作業を進めていた辻村の前には立体的な薔薇が。折り紙何枚使ったんだろう。というか本当に器用だな。
「そういえばさっき千裕さんが有村さんに『脅かし役の子を守れ』的なこと言ってたけどどういうこと?」
「姉さんたち、脅かされると反射的に反撃するから」
「うわつよい」
あの美人が反撃してくるとか。極一部の人間にはご褒美になりそうだ。
「じゃあ君も?」
「反撃するのは別に親からの遺伝じゃないよ。僕は反撃しない」
「そうなんだ……」
「なんでちょっと残念そうなの」
いや、少し見てみたくて。
暫くして出てきた有村さんの両側には辻村姉妹が引っ付いていた。
「両手に花ですね」
「血流が止まりそう」
「誰がゴリラですって?」
「言ってない! 言ってないです!」
曖昧に笑って私の言葉に返した有村さんは悲鳴を上げた。どうしたのか。
「姉さん、結構力あるんだよね」
「あぁ……」
強い力で腕を握られたらしい。
未だ締め上げられている有村さんを横目に、人が増えてきたのと比例して増えるお客の対応を進める。隣の辻村の笑顔がとても良い感じなので全て彼に任せてダラダラしたい。なんかもう遠巻きに辻村を鑑賞している人もいるし、たぶん辻村目当ての人間もいるだろうから私いなくてもいいのでは。




