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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
132/232

53話



「戸柄千依よ、よろしくね。間切波留ちゃん」




 きた。



 新学期が始まってすぐ。戸柄先輩は私のもとを訪れた。相良先輩の読み通りだ。今日のところは挨拶だけで帰って行ったが、今後はどういった行動に出るのか。



「ということで電話しました」

『やっぱり来ちゃったかぁ』

 家に帰り、一通りのことをやってから部屋で相良先輩に電話をかけた。今日の出来事を話せば電話越しの相良先輩があちゃーと声を漏らした。


「なんで私なんですかね」

『どういうこと?』

「圭の所には来ていないらしいんです」

『間切さんの方が攻略しやすいからじゃないかな』

 つまりチョロいと。失敬な。

『間切くんは明るいし話しやすいけど、警戒心が強いからね』

「そうなんですか。……私は?」

『……無表情で絡みにくいけど、警戒心ほぼ無いよね、君』

 あるよ。警戒心あるよ。ちゃんと警戒してるよ。

『何はともあれ君のところに来たなら警戒しなさい。あの子の考えることは私もよくわからない。斜め上にぶっとんでるからね』

 そんなぶっとんだ人に兄は付け回され、私はこれから関わらねばならないのか。憂鬱になるな。


『何かあったらすぐ言うように。いいね』

「相良先輩って何気優しいですよね」

『可愛い後輩のためですから。あと君に何かあったら間切くんが怖い』

 その間切くんは兄と弟どっちですかね。……兄かな。たぶん兄だな。

「ヤバそうだったら言いますね」

『うん。何事もないことを願うよ』


 本当、何もないといいけど。恋に盲目な人間は何しでかすかわからないからね。用心しとこ。








「これおすすめのチョコなの。美味しいのよ」


「今日はクッキー持ってきたわ。レーズンは食べられる?」


「お煎餅好き?」


「栗羊羹と芋羊羹ならどっちが好きかしら。どっちも持ってきたの」






「餌付けですかね……」

『餌付けだね。確実に』

 どうやら私は餌付けされているらしい。動物か。

 人のこない裏庭の木の上で相良先輩と電話越しに会話をする。戸柄先輩は毎日昼休みに来るので午前の授業が終わり次第速攻でここに逃げてきた。今日は弁当持参してるし、ここで食べようかな。……いや、やめとこ。落としたらやだし。折角裏庭に来たんだからあの東屋で食べようかな。


「どう対応すればいいんでしょう」

『今の所は全て店で購入したものなんだよね? なら何かを混入させてはいないだろうから、まだいいんじゃないかな』

「手作りがきたら?」

『信用できない人間の手作りは食べないほうが良いと思う。何が入ってるかわかったものじゃない』

 そういや初等部の時、バレンタインのチョコに爪やらなんやらを混入させてる子いたな……。なるほど。食べないようにしよう。

『……口に入れてから気がついた時のショックは大きいからね……』

「実体験ですか」

『実体験です』

「イケメンも大変ですね」

『私そこまでイケメンではないけどね。目立つけど。あとモテるかって言うと凛太郎の方がモテるね。本命と言う名のとても重い愛情入りのものをもらうよ』

「私から見たら二人ともイケメンですよ。取り敢えずもうしばらく様子見ます」

『ん。気をつけてね』


 電話を切る。それにしても今日は良い天気だ。まだ気温もそこまで下がっていないし、過ごしやすくて良い。いやちょっと暑い。



「間切?」

「篠崎くん」


 下から呼ばれて振り向けば私を見上げる篠崎がいた。


「何してるんだ……?」

「……木登り?」


 正直、電話だけなら木に登る必要は全くない。授業中ではないから別に普通に携帯だって使って問題ない。外に出る必要すらないのだ。気に登っているのは登りたいから登っただけで。意外とすんなり登れた。


 木の上も堪能したので枝から飛び降りる。そこまで高いところに登っていたわけではないのでとくに問題はない。下は柔らかい地面だし。


「恥じらい!!!」

「いきなりどうしたの」

「スカートじゃん! 間切スカート履いてんじゃん!! 恥じらいを持てよ!!」

「……いきなりだなぁ」

 顔を両手で覆い隠して叫ぶ篠崎。元気なことだ。ところで恥じらいとは。私何かしたかね。木から飛び降り……あぁ。


「下に短パン履いてるから問題ない」

「大アリだ!」

「次からは気をつけるよ。ところで篠崎くんは何でこんな所に?」

 ここは裏庭で、めったに人が来ないところだ。昼休みになんでこんな所に来ているんだろう。いやまぁ私が言えたことではないが。ところでそろそろご飯が食べたい。今日は父が作ってくれたんだ。


「……教室、居づらくて」

 私から視線をずらして、ボソリと言う。そういや前にもなんか似たようなこと言ってたね。

「君のクラスって外部生何人いるの?」

「オレだけ」

「少な。あ、お弁当はもう食べた? 私まだなんだけど」

「オレもまだ」

 篠崎が弁当を見せてくれる。なら一緒に食べよう、と誘って東屋へと足を進めた。教室にいると戸柄先輩が来るので外に出たが、一人で昼飯を食べるのは味気ないと思っていたところだ。



「なんだこれ」

「今はあまり使われてない東屋。許可は取ってあるからここで食べよう」

「こんなのあるんだな。初めて知ったわ」

「私も使うのは初めて」

 今度また土弄りを手伝ってお礼を言おう。そう言えば植えた落花生がいい感じになってきている。


 適当に腰掛けて、二人で弁当を広げる。おっと。ハート型の卵焼きだ。そしてたこさんウィンナーだ。全体的に可愛らしいぞ。

 ちらりと篠崎の弁当を覗く。そぼろだ。


「間切の弁当美味そう」

「なんか交換しようよ」

「卵焼きくれ」

「何くれる?」

「うーん……あ、カボチャの煮付けオススメ」

「じゃあそれで」

「どーぞ」


 篠崎の弁当からカボチャの煮付けを貰って食べる。篠崎は私の弁当から卵焼きを取っていった。カボチャの煮付け美味しい。


「間切の家の卵焼きは甘いんだな」

「篠崎くんの家は違うの?」

「うち塩」

「なるほど」


 二人でご飯を食べながら他愛もない話をする。ご飯美味しい。




「で、教室に居辛いって言ってたけど、イジメ?」

「いや、何もされてない。けど、なんかな。一部のクラスメイトがオレを見てヒソヒソ話したり……まぁ、居心地が悪いんだ」

「お昼はいつも誰と食べてたの?」

「外部生仲間。今日は少し一人になりたかったから、こっちにきた」

 なるほど。一人になりたいのなら裏庭はもってこいだ。人がいないんだもの。


「……私いないほうが良かった?」

「いや?」

「ならいいや。ごちそうさま」

「ごちそうさま」


 弁当箱を片付けていく。そういえば戸柄先輩は教室に来たんだろうか。



「教室戻るかぁ」

「そうだねぇ。無理しないようにね」

「おー」


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