42話
パァーンという軽快な音を響かせて秋田くんは出迎えられた。恐る恐る扉を開けた彼の目が大きく見開かれている。
「え、なに? 何事?」
「クラッカー鳴らすの楽しいな!」
「そっかー。……で、なんで波留さんまで混ざってるのかな!?」
「楽しそうだったから」
「子供か!」
子供だもの。
「はる……?」
「波留さん……」
「……」
クラッカーを持ったままの三人が私と秋田くんを呆然と見ている。なんだろう。
「間切の下の名前ってはるだったのか……」
名乗ったはずである。忘れられていたのか。
「二人とも仲良いね」
「7年間同じクラスだからね」
「それは凄い。秋田くん、僕は辻村雅直。よろしくね」
「秋田湊です。よろしく……」
秋田くんの笑顔が引きつっている。大丈夫だろうか。
「秋田くん、私は木野村夏鈴ですわ。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ!」
ヤケクソだね、この子。
挨拶もほどほどに、中へと足をすすめる。木野村は私の後ろをついてくる。
「……はる、ちゃん?」
「ん?」
名前をよばれたので振り返ればびっくりした顔をする木野村がいた。君が呼んだんだろうに。
「はるちゃん」
「うん?」
「波留ちゃん!」
「どうしたの?」
私が返事をする度に木野村の表情が明るくなってくる。どうしたんだろう。
「波留ちゃん! 紅茶飲みますか!」
「いただきます」
「淹れてきますわね!」
軽快な足取りで木野村が去っていった。何だったんだろうか。
「あら、初めて見る子ね」
通された部屋には制服を身にまとったいつもの東雲先輩がいた。
「秋田湊です。こんにちは、東雲先輩」
「こんにちは。私のこと知ってるのね」
「生徒会会計の方ですから」
「それもそうね」
ちなみに私は役職なしである。まぁ1年生だし当たり前なのだが。
辻村に促され、二人で和室の座布団の上に正座する。
「なんか、意外と普通の建物だね?」
「そうだね。普通の一軒家みたいだよね」
まぁ、学校の敷地内にこんな建物がある事は普通ではないと思うが。
三人と山内くんが席を外しているのをいいことに二人で話す。目の前に東雲先輩がいるけど、なんか優雅にお茶を飲んでいるし、まぁ気にしなくても大丈夫だろう。
「それはそうでしょうね」
予想外に、東雲先輩が声をかけてきた。吃驚。
「えっと、それはどういう?」
ビクビクしながらも秋田くんが尋ねる。
「ここは、私達が寛ぐためだけに作られた場所ですもの」
寛ぐためだけに。理事長が必要だからと言っていたけれど、なるほどそういうことか。昔から大変だったんだろうな。
東雲先輩が丁寧な動作で湯呑みを置く。様になるなこの人。
「さて、私はこの後用事がありますのでこれで。お二人はゆっくりしていってくださいな」
そう言った東雲先輩は荷物を手に持ち、去っていった。あの肩から下げている大きな紙袋にはあのきぐるみが入っているんだろうか。
「ねぇ波留さん」
「んー?」
「なんで俺ここにいるの?」
「赤坂くんに呼ばれたからじゃないかな」
「あーー、なんか戻れないところまで来てる気がするーーー」
そんなこと言ったら私は当の昔に戻れないところまで来ていることになるな。
「死なば諸共だよ秋田くん」
「不吉なこと言わないで!?」
一蓮托生のほうが良かっただろうか。




