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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
113/232

36話



「おはよう」

「おはよう波留」

「兄さん、母さんおはよう」


 朝起きると台所に兄と母がいた。どうやら二人でお弁当を作っているらしい。


「今日のお弁当何?」

「お昼になってからのお楽しみよ」

「わかった、楽しみにしてる」








 そんなやり取りをした日の昼休み、とうとう昼食の時間である。今日はこの時間を楽しみに生きてきたと言っても良いくらいだ。どんなんだろう。


 秋田くんたちが食堂で各々お昼ご飯を買ってきてから、お弁当の蓋を開ける。




 つぶらな瞳と目があった。




 蓋を閉じた。



「波留さん食べないの?」

「あぁ、いや、食べる」


 きっと気のせいだ。これは普通の弁当のはず。今までと同じ、美味しいお弁当だ。うん。

 意を決してもう一度蓋を開けた。



 可愛らしいクマがいた。



 気のせいじゃなかった。なんだこの可愛らしい弁当は。何があった。取り敢えず写真撮っておこう。

 蓋を開けたそこには所謂デコ弁と呼ばれるものが収まっていた。可愛いクマが顔をのぞかせているのがとても印象的である。


「波留ちゃんのお弁当凄いね!?」

「そだね……」

 これは一体どちらが作ったんだろうか。母だと信じたい。

 カメラと携帯の両方に写真を収めてから、箸を手に取る。……これ、どうやって食べればいいんだろう。

 取り敢えずクマは後回しにと、周りの部分に箸をつける。あ、美味しい。







「……」

「……」


 裏庭に来たら軍手して花壇の土を弄っている兄がいた。あれ、兄は美化委員か何かだったろうか。そんなわけないな。生徒会だし。


「おや、君も来たのかい?」

「理事長、こんにちは」


 兄と無言で見つめ合っていると何やら大きな袋を抱えた理事長が姿を現した。相変わらずジャージを着ているのに優美である。何故だ。


「こんにちは。兄妹揃うなんて珍しいね」

「兄もよくここに来るんですか?」

「たまにね」

 知らなかった。いつの間に。

「むしろ波留がここに来ることの方が意外だったな、俺は」

 作業をしながら兄がそう言った。それと同時に理事長が軍手を渡してきたので身につける。この人軍手常備しているのかな。

「たまにね。ここ人来ないし」

 静かで良い。土いじりも中々楽しいし、理事長も優しいから。まぁ生徒会や家のこともあってあまり来られないけれど。

「いいよな、静かで」

「ねー」

 軽く雑談をしながら二人で理事長の手伝いをする。もうここに植えられていた花々も枯れてしまって、寂しい光景になっている。花綺麗だったのになぁ。


「二人は次植えるとしたら何がいいと思う?」

「落花生ですかね」

「じゃがいもがいいです」

 トマトとかでもいい。

「食べる気かな」

「花も楽しめて胃も満たせる。最高ですよね」

「できたら下さい」

「君たちね……」


 理事長は苦笑いしながらも手を止めなかった。あ、さつま芋でもいい。大学芋とかスイートポテト作って食べたい。


「にしても、なんで落花生?」

「落花生の名前の由来は花が落ちたあと子房の下の部分が伸びて地面に潜って実が生ることって聞いてな」

「へぇ」

「それが凄く見たい」

「私も見たい」

 落花生は袋詰めされてるのとかしか見たことないからなぁ。そんな実のつきかたをするならぜひ見てみたい。

「じゃあ次は落花生にしようか」

「「やったー」」

「まぁ来年の話だけど」

 落花生って春に植えるもんね。仕方ない。ところで上手く育てられたら落花生を少し分けてくれたりしないかな。食べたい。

 それから暫く作業して、そのまま帰宅となった。久しぶりの兄と一緒である。一宮さんは部活だそうだ。



「そういえばお弁当がえらくファンシーだったんだけど、母さん作?」

「俺」


 兄があのファンシーな弁当を作っているところを想像して吹き出してしまったのは仕方ないと思う。私悪くない。


「次は兎な」

「勘弁してください」

 可愛いと食べ辛い。

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