32話 1年学園祭
忙しさに追われる日々を終え、今日は学園祭当日である。
そして、生徒会メンバーは生徒会室で屍と化していた。
前日に劇で使用する機材の調子がおかしくなったというので、それの確認、予備の貸出。当日の朝だというのに備品が足りないと言い出すクラス、部活への備品の貸出。更に校内を周って規則に反している展示物などがないかの最終チェック。確認しているとき行く先々で呼び止められるのでそれの対応。まぁ要するに学園祭が始まる直前まで働いていたのだ。疲れた。
「……お疲れのところすまないのだけれど、生徒会は当日もお仕事があります」
少し疲れた顔をした相良先輩が屍になっているメンバーに携帯を配っていく。何故に。2つ折りのその携帯を開くと、中にはいくつかの番号が書かれていた。
「学園祭は一般開放してるから人が多くてね。問題が起こりやすいんだ。だから先生方、生徒会は見回りね。中にどの番号押したら誰に繋がるか書いてあるからそれ見て」
「わお」
「各々が好きに学園祭を楽しんでくれて構わない。その傍ら、先生がいないと解決しなさそうな揉め事、それと体調不良の人を見つけたときにこれで先生方に連絡」
「……まぁ、基本的には先生方がどこかしらにいるし、私達がこれを使うことはないよ。万が一のため。数は多いほうがいいから持たされるだけだ。気にせず遊んできていいよ」
解散、という相良先輩の声を聞き、それぞれ生徒会室を後にする。私と篠崎も廊下へ出た。生徒会室のある階は関係者以外立入禁止区域となっているので静かだ。
「学園祭って一般開放してたんだな」
「まぁね。おかげで人が多いんだ」
「みたいだな…………縁日みたいだ」
隣を歩く篠崎は窓から外に出ている屋台をキラキラとした目で見ていた。その顔がなんか可愛かったので思わず写真に収めてしまった。よく撮れている。満足。
「今撮った?」
「撮った。ほれ」
撮った写真を篠崎に見せる。そして流れるように写真を消された。
「綺麗に撮れていたのに!」
「俺なんか撮って何が楽しいんだ?」
「綺麗なもの見ると撮りたくなるんだよね」
「? それで、何で俺を撮るんだ?」
「君が綺麗だからだけど」
「きれっ……………………ソウデスカ」
一瞬どもった篠崎はため息をついてカメラを私に返してきた。消されてしまったものは仕方ない。諦めよう。
「そういえば篠崎くんは祭りとかよく行くの?」
「まぁ。夏とか」
「夏祭りか、いいね。楽しそう」
私行ったことないや、と続けると篠崎は驚いた顔でこちらを見てきた。
「そんなに驚く?」
「…………いや、間切ってエスカレーター組の中では庶民寄りっぽいから、夏祭りとかも行ってそうなのにな、って」
「あぁなるほど」
「怒らないのか?」
「事実だから」
たしかに私は基本的に庶民ですからね。
他愛のない話をしながら歩き、適当なところで篠崎と別れる。メールで連絡を取り、早苗ちゃんたちと合流すれば、3人ともわたあめを頬張っていた。なんかカラフルなんだが。
「随分とカラフルなわたあめだね」
「シロップ? なんか色素で色つけしてた。食べる前は可愛いパンダだったよ」
「私のはうさぎ!」
「俺のは犬」
「へぇ。今年のは凝ってるね」
去年までは普通の雲みたいなやつだった。
感心していると秋田くんがズイッと袋を渡してきた。わけもわからずにそれを受け取る。すごく軽い。
「波留さんの。普通のやつだけど」
「おっ、ありがとー」
わたあめの代金を渡してそれを食べる。甘い。
「当日になるとやっとひと息つけるよね〜」
「あー、浅田さんは演劇部だっけ。準備忙しかった?」
「まぁね。子供って何やらかすかわかんないし」
年齢だけ見れば私達も子供ではある。そうか。美野里ちゃんは演劇部だったか。なら相当忙しかったんだろう。特に初等部の演劇の準備はずっと見ていなければならないし。そう思うと私達のときに面倒みてくれた先輩方には感謝してもしきれないな。
「でも早苗ちゃんも忙しかったでしょ? 手芸」
「私は自分の作品作って展示するだけだから……」
「展示してるのか。後で見に行こう」
「そんな大層なものは飾ってないよ……!?」
「俺も見たい」
「私も見たい!」
「よし行こう」
わたわたしながらも抵抗する姿勢の早苗ちゃんの手を取って手芸部の部室へと歩き出す。今年は圭が研究発表だから時間を気にせずにまわれる。楽しみだな。




