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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
101/232

24話 1年夏休み4


「これがわらび餅」

「ほう」

「こっちが柏餅」

「ほほう」

「そしてこっちがあんころ餅」





「なんで子猫の名前が全て餅なんですか」





 ある夏の日の夕方、今日もふと思い立って公園へ行けば鳩のお兄さんと出会った。相変わらず鳩に群がられていた。私はそんなお兄さんとまた他愛もない話をしている。お兄さんの家には前に話していた犬の他に子猫が3匹来たらしい。笑顔で写真を見せてくれた。可愛い。



「うちの親がこの子達を見て思い浮かんだ名前らしいよ」

「餅……」

「可愛いでしょ」

「可愛いけども」


 子猫は可愛い。三匹まとまって寝てる写真なんて最高。ずっと見ていたいくらいだ。この写真欲しい。


「小さい動物は癒やされるよね」


 お兄さんは他にも親戚が飼っているという鳥などの写真を私に見せてくる。どれも可愛い。もふもふしたい。我が家は何も飼ってないからなぁ。仕方ないけど。親は共働きだし、私も兄は生徒会あるし。圭も来年は中等部に上がってくるから部活に入ったりもするだろうし。世話が出来ないしなぁ。



 日陰にあるベンチで今年もまた他愛のない話をする。お兄さんの携帯の写真フォルダは動物の写真でいっぱいだった。飼い猫、犬が可愛くて仕方ないらしい。








「今日はこれあげる」


 日が傾き始めたので帰ろうとすると今年もお兄さんが何かを差し出してきた。



「飴と……クッキーですか?」

「そう。そこのパン屋さんで売ってたんだ」


 美味しいから食べて、とお兄さんが私の手に未開封のクッキーの入った袋を乗せる。お兄さんが指したパン屋には行ったことがない。今度行ってみようかな。因みに飴はブルーベリー味だった。え。



「普通の飴だ」

「最近、斬新な飴少なくなってきてるんだよね」

「売れなかったんですかね」

「かもしれない」


 変な味の飴はインパクトはあるだろうが、リピーターは少ないだろうからなぁ。


「また面白そうなの見つけておくね」

「普通でいいです」



 笑うお兄さんと別れ、外に出たついでに買い物をしてから帰ると、兄がリビングで勉強していた。兄は基本自室で勉強するが、たまにリビングでもやっている。そっちのほうが集中できるときがあるらしい。



「波留おかえり」

「ただいま兄さん。圭は……あ、今日習い事か」

 リビングに入って兄の方へと足をすすめる。圭は習い事で不在だ。帰ってくるのはもう少し後だな。今日の夕飯係は兄。夕飯は何だろう。

 兄の隣の椅子に腰掛け、兄を見やる。すると兄は手を止めてこちらに視線を向けた。


「どうした?」

「兄さんこれあげる」


 鳩のお兄さんからもらったクッキーを差し出すと兄はそれを一枚食べた。私も食べる。なかなか美味い。


「これどうしたんだ?」

「貰った」

「………………あぁ、鳩のお兄さんか」

 少し考えた兄は合点がいったのか、納得したように頷く。私が毎年飴をもらって帰ってくるものだから覚えたようだ。因みに一宮さんには毎回知らない人から食べ物をもらうなと怒られる。


「クッキーとは珍しい」

「飴はネタ切れらしいよ」

「珍妙な味ばかりだったもんなぁ」


 もらった飴のいくつかは兄も食べているので味を思い出したのだろう。遠い目をしていた。


「凄く今更だが、その鳩のお兄さんって誰なんだ?」

「名前は知らない」

 どこに住んでるかも、何をしている人なのかも知らない。知っているのはよく鳩に囲まれていること。犬と猫を飼っていることくらい。そう言うと兄は微妙な顔をした。なんだよ。


「波留……何回も会ってるのに、それしか知らないのか」

「夏休みにたまに会うだけだからね」

 二人で少し話すだけだから、名前を聞く必要性もない。

「それもそうか」

 兄は随分あっさりと納得したようだ。


 お兄さんと私は何か約束をして会っているわけではない。タイミングが合わなければ会えないし、どちらかが公園に来なくなれば会うことはなくなる。実際、公園に行ってもお兄さんがいなかったことは何回もある。いつ終わるかもわからない、浅い関係だ。……考えたら少し寂しくなってきた。なんだかんだお兄さんと話す時間は好きだ。次会ったときは、名前を聞いてみようかな。答えてくれるかわからないけど。


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