第二十話・壮絶な対決
「えー、それじゃあ今日の体育は、一、二組合同でやる」
いかにも熱血そうな体育教師の話を聞き流しつつ、丈二は隣にいる直人に声をかける。
「結子は三組かぁ。残念だったな」
「ちょっ……丈二君っ!」
結局、光助と丈二にはバレてしまっていたらしい。
「大丈夫だって。俺も光助も、人の恋路の邪魔はしない主義だからさ」
「お、おおおお願いっ! 平崎さんには秘密にしといてよ!」
直人が必死になるほど、丈二の表情はイタズラっぽくなるなる。
「どーしよーかな〜」
「丈二君っ!」
「うるさいぞ、そこぉ! 今説明してるだろうがっ!」
「す、すみません……」
教師に怒鳴られ、ようやく二人は静かになった。
「男子はバスケ、女子はバレーだ。クラス対抗で試合しなさい」
「はーい」
と、返事をし、生徒達が散らばっていく。
「クラス対抗で試合かぁ……僕、こういうの苦手なんだよね」
「俺も。ま、大抵の奴らは適当に遊ぶだけだろ」
「そうだよね。マジメに試合する人なんてあんまり……」
そんな話をしていると、二人の背後から声がかかった。
「よぉ、ナオ」
「あ、かず君」
一組の和仁だった。
「授業はマジメに受けようぜ?」
直人の肩に手を置き、笑顔をつくる。
「だ、だってかず君が相手じゃ、勝ち目ないし……」
直人がそう言った瞬間、丈二が声を張り上げた。
「おおっと、コイツはどこの運動バカだったかな」
「あ? お前、この間の……」
和仁と丈二の視線がぶつかる。その間に挟まれ、直人は元々小さい体をますます縮める。
(ひえええ……。そういえばこの二人、仲悪いんだった……)
「探偵ごっこ君には、バスケの高尚さが理解できねーか?」
「バクチで負けてひーひー泣いてたのは、どこの誰だっけ?」
二人は火花を散らせて睨みあう。まる、生涯の天敵同士のようだ。
「えー、それじゃ試合を始めるぞー」
体育教師がボールを持ち、フィールドの中央に立つ。
「各クラス、ジャンプボールは誰だ?」
『オレがしますっ!』
和仁と丈二が同時に声をあげ、睨みあったままフィールドの中央で向かい合う。あまりの剣幕に、他のクラスメート達は戸惑うばかりである。
「何か、妙な気迫を感じるが……。とりあえず、試合開始ッ!」
教師がボールを高く投げ上げる。
『おおおおっ!』
二人は同時に跳び、ボールへ向けて右手を伸ばす。滑稽だと笑う事も出来ないくらい、真剣な表情であった。
50分後。授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「ハァ、ハァ、……どうした。最初の威勢はどこいったんだ?」
「ハァ……」
二人は他のクラスメートと交代せず、授業時間いっぱい勝負し続けていた。丈二はスコアボードを忌々しく見つめつつ、それでも口元に笑顔をつくって言った。
「ハァ……。ま、一応、バスケ部のエースって……呼ばれてる奴に、華を持たせて、やった、んだよ……」
「へっ、なに言い訳、してやがんだ。カッコわりぃ……」
「ふ、二人とも、大丈夫?」
呼吸すら普通にできない状態でなおも口ゲンカをする二人を心配し、直人は声をかけた。
「大丈夫に、決まってんだろ? こっちは……毎日、鍛えてんだぞ」
「全然、まだまだイケるぜ……。なんならあと一時間でも……」
「なぁ〜にバカなこと言ってんの。もう授業終わってんだけど」
高い、透き通るような声が割り込んできた。
「平崎さん」
「次は三組が体育なんだから、一、二組はさっさと帰りなさい」
しかし、その言葉は直人にしか届いていなかった。
「トランプが趣味のネクラ野郎には、せいぜいこの程度が、限界だな」
「その、ネクラ野郎に……負け金回収してもらった奴が、ナニ言ってんだ?」
「んだとぉ!?」
「おぉ? もう一試合やるか!? そしたら今度は俺が勝つぞ!?」
再び睨み合い、フィールドの方へ戻りかける。
「いいから、早く戻れってば!」
「うげっ!?」
結子が後ろから丈二のえりを掴む。そのまま後ろへ引っ張り、体育館の外へ連れて行こうとする。
「積里君。そっち、お願い」
「あ、うん」
「おいっ、ナオ!? オオおお……」
後ろからえりを掴まれては、丈二も和仁も抵抗できない。結局、体育館を出て校舎の入口まで連れて行かれた。
「いつまでケンカしてんのよ……。さ、ここまで来たら大人しく教室に戻りなさい。積里君、あとはよろしくね」
「うん。それじゃ、体育頑張ってね」
未だに反目しあう丈二と和仁を後に、結子は体育館へ戻って行く。
「あ〜あ、なんで理由もなくケンカしたがるのかなぁ、男って」
クラスメート達はすでに体育館に行っており、周囲に人はいない。結子は少し歩調を早める。
「……?」
ふと、結子は視線を感じて立ち止まった。直人達ではない。三人はすでに校舎の中へ戻っている。
(嫌な予感……)
その予感が的中することを、結子は数秒後に思い知らされた。




