対決
わたしは気合を入れて床をドスンと踏み鳴らし、
「行こう。あいつらに、道を譲らせるんだ」
と、肩を怒らせて歩き出した。親衛隊は、互いに不安そうに顔を見合わせていたが、置いていかれるのがイヤなのか、みんな、わたしの後についてきた。
マーガレットの御大もこちらに気付いたようだ。御大と取り巻きの和やかなお喋りの雰囲気が一変し、御大を先頭に、隊列を組み直した。
程なくして、わたしとマーガレットの御大は鉢合わせた。まずは、わたしから、
「どいてくれ。廊下いっぱいに広がって歩いてるなんて、非常識だね……」
「それはお互い様じゃなくって?」
御大が言うと、取り巻きは、仲間同士で何やらヒソヒソと話し合い、露骨にこちらを指差して、嘲笑しているような仕草を見せた。こういう動作は日頃の訓練の賜物だろう。
「お互い様? 勘違いも甚だしいね。まさか、あなたごときが、わたしと対等だとでも思ってるの?」
「どういう意味かしら?」
「わたしがご隠居様にお願いすれば、あなたはすぐにでも、このお城から追い出されるわ」
うわさでは、わたしは「すごくインランな魔女で、ご隠居様を寝技でたらしこんで、意のままに操っている」ことになっているので、それを利用して、いきなりハッタリをかましたというわけ。
しばしの沈黙を経て、御大の額から脂汗がにじんだ。そんな根も葉もないようなうわさ話を御大が本気で信じているとは思えないが、反対に、うわさ話を偽と断定する根拠もまた存在しない。御大の頭の中には、「もし、万が一、うわさが本当だったとしたら」という疑念が駆け巡っているだろう。御大は、やや上ずった声で、
「冗談は、ほどほどにした方がいいわ」
「本当に冗談だと思うの?」
わたしが御大のもとに歩み寄り、顔を近づけると、御大は、二、三歩後ずさった。表面上はどうにか微笑を絶やさずにいるものの、態度の端々から内心の動揺が見て取れる。取り巻きも、身を寄せ合い、御大に隠れるように小さくなっていた。これは、とりもなおさず、わたしがうわさどおりの悪女だと認識されたことを意味している。
わたしはニヤリとして、御大の耳元でそっと囁く。
「それに、この前のことがご隠居様に知れたら、どうなると思う?」
「この前のこと?」
「今はまだ、ご隠居様はご存知ないわ。わたしが訴える場合には証拠は不要だから、もし訴えたらどうなるか、見ものだと思わない?」
この前のこととは、わたしが地下道につながる巨大井戸のようなものに突き落とされたこと。御大は、多分、こう考えるだろう。「いくら自分と取り巻きが口裏を合わせても、このインランな魔女(つまり、わたし)がご隠居様の側仕えに任じられた今、ご隠居様は聞く耳を持たないであろう」と。
「行きましょう」
マーガレットの御大は、くるりときびすを返し、もと来た廊下を反対側に歩き出した。取り巻きは、われ先にと御大の後を追いかける。それを見た親衛隊からは、歓声が上がった。めでたしめでたしと言いたいところだが、わたしへの誤解は更に深まったことだろう。ああ……




