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ザ☆旅行記Ⅰ ご隠居様の城  作者: 小宮登志子
第4章 父と子の宿命
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側仕えの仕事と派閥の集会

 側仕えとは、一言で言えば、ご隠居様のお茶汲みと秘書と参謀を兼ねたようなもの。メイドとしては役に立たなかったわたしだから、やはり、お茶汲みは失敗続きで、お茶をこぼしたり、ご隠居様にひっかけたり、マンガのごとく。しかし、不思議なことに、ご隠居様は、ただ、「しょうがないやつだ」と笑っているばかりだ。むしろ、わたしの失敗を楽しみにしているようにも見える。

 あるとき、すべって、しりもちをついて、頭からお茶をかぶったわたしを見て、ご隠居様は感慨深げに、

「そういえば、あいつもおまえと同じくらいのドジっ子だったなあ」

「あいつ?」

 ご隠居様はお答えにならなかった。隻眼の黒龍が言ってた「エリザベス」だろうか。無理に聞き出すのは気が引けるのでやめておいたが、何だか気になる。

 なお、念のために付言しておくと、ダメダメなのはお茶汲みだけで、ほかの仕事は割りとうまくこなせていた(と思うけど、確実に請合えるわけではない)。


 わたしは側仕えの仕事を続ける一方で、派閥の集会にも出席しなければならなかった。でも、それほど大層なものではない。親衛隊の会合には、一応、わたしがいなければまずいというだけだ。肝心の集会の中身といえば、内容のないお喋りがほとんど。派閥とはそういうものだろうか。

 その日も集会が終わり、わたしはぞろぞろと親衛隊を引き連れ、廊下を歩いていた。無意味な話につき合わされると、単に座っているだけでも疲れる。

「総大将、ファイト」

 エレンが耳元でささやく。ファイトはいいけど、たかだか後宮候補生みたいな小さい世界で派閥をつくって意味があるかどうか、そもそも論で疑問が残る。社会的動物は群れるのが好きなのだろうか。

 立場上、仕方がないので、貴族階級出身の後宮候補生にはガンを飛ばしながら歩く。これでは、かつて「スケバン」と呼称されていた人種ではなかろうか。

「あれを見て。ちょっと、まずいかも」

 不意に、エレンが言った。お城の長い廊下の前方から、わたしたちと同じような団体さんがこちらに向かって歩いてくる。その団体さんとは、即ち、マーガレット及びその取り巻き。

「どうしよう……」

 エレンは弱気になっていた。他の親衛隊の連中も動揺している。マーガレットの御大がいないところでは威勢がいいが、本人を前にすると、話は別のようだ。まあ、人とはこんなものだろう。

「何をぐずぐずしているの? 行くよ」

 わたしが怖気づくようなら、この場で親衛隊は瓦解するだろう。そうなってくれた方が面倒がなくていいが、総大将を引き受けたからには、退くわけにはいかないのだ、オラオラ。

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