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ザ☆旅行記Ⅰ ご隠居様の城  作者: 小宮登志子
第3章 隻眼の黒龍
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隻眼の黒竜

「気をつけてよ。火傷しちゃったじゃないか」

 漆黒・隻眼のドラゴンは言った。体色が闇と同じ色なので気がつかなかったが、ぶつかったのは、象くらいの大きさのドラゴンの体だった。ぶつかった拍子にトーチの火を押し付けてしまったようだ。

「すいません。道に迷って、さまよってたのですが、気がつかなくて……」

「そうなの。でも、後宮候補生が地下道に何の用?」

「実は、かくかくしかじか……」

 わたしはそのドラゴンに、野外実習に出てから今までの経緯を説明した。しかし、そもそも……

「どうして後宮候補生をご存知なのですか?」

「ボクは、ご隠居様の家の代々の当主に仕えてる黒龍だからね」

 隻眼の黒龍は、単なる伝説ではなかった。黒龍の話によれば、ご隠居様のご先祖様に「見事に右目を射抜ければ家来になって、子々孫々に至るまで仕える」と約束したら、見事に右目を射抜かれたので、その約束に従って、今でも仕えているということだ。

「律儀ですね」

「約束だからね」

 人(龍?)がいいドラゴンだ。話によれば、代々の当主ともうまくやっているらしい。特に、今のご隠居様は、よく暇つぶしに来るそうだ。ご隠居様の話の中で、わたしの名前も上がっていたとのこと。「『エリザベス』とよく似た新人が入って、楽しみが増えた」とおっしゃっていたそうだが、

「エリザベスって、どなたですか」

「ご隠居様からきいてない?」

「はい。あまり話をする機会がありませんでしたから」

「そうか。でも、ボクの口から言わないほうがよさそうだな」

 教えてくれないと余計に気になるが、そのうち誰かにきいてみよう。

 

「そろそろおいとましなければ」

 かなり時間がたっているので、そろそろ戻らないと大騒ぎだ。既に大騒ぎかもしれないけど。

「帰るのか。それは残念。でも、時間があれば、いつでもおいでよ。ボクもヒマだし」

「ありがとうございます。実は、その帰り道が問題なのですが……」

「それなら、この光の球が案内してくれるよ」

 すると、部屋の天井付近にあった数個の光の球の一つが、ふわふわと、わたしの目の前まで降りてきた。そういえば、さっき、急に明るくなったのは、隻眼の黒龍が魔法で天井付近に光の球を出現させたからだろう。降りてきた光の球は、ふわふわとゴム風船のように部屋の出口に向かっていく。

「あれについていけばいい。城に帰れるから」

「ありがとうございます」

 わたしは隻眼の黒龍に礼を言い、光の球を追った。

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