暗闇の先には
わたしはバックパックからナイフとトーチを取り出した。左手でトーチを持ち、右手でナイフを構え、ゆっくりと地下道を進む。トーチの明かりでは遠くまで照らすことはできない。ナイフは気休め程度。RPGのように敵キャラが現れたら、即、ゲームオーバーだろう。
レンガ造りの地下道は、どこまでも続く。とりあえずは一本道が続いているようなので、ありがたい。しかし、そのうち、分岐ができて、さらにその先にも分岐が……
しばらくして、わたしは、例によって道に迷ったことに気付いた。まずいことになったが、しょうがない。これも運命なら、南無阿弥陀仏か。
しかし、その時、
「あれ? これは……」
かすかに地下道の奥から音が聞こえた。聞き覚えのある音だ。わたしは耳に手を当て、じっと耳を澄ました。ゴォーという、以前、地下道で迷ったときに聞いた音だ。間違いない。しかし、今はともかくも出口を探すことが先決で、構っている暇はない。ただ、そうはいっても、どうにも気になって仕方がない。
わたしは好奇心を抑えることができず、その音の方向に行ってみることにした。こういう野次馬的な性格は欠点となる場合が多いけれど、今回は、どう出るか……
進むにつれ、音はだんだんと大きくなっていく。発音源が近いのだろう。今は、はっきりと聞こえる。音は、「グォオー、グォオー」という規則正しい4分の4拍子。
やがてわたしは、広々とした大部屋のような区画(と思われる場所)に出た。左右にレンガの壁が見えず、暗闇が前方かなり先まで続いているようだ。
音は、ますます大きく、うるさいくらいになっていた。冷静に考えれば、これは、巨大生物のいびきのように聞こえないではない。もしそうなら、音の正体が分かれると同時に、わたしは巨大生物の口の中でボリボリと噛み砕かれることになるかもしれない。
「失敗だったか……」
わたしが後悔してつぶやくと、同時に、ムギュっと、それほど硬くない壁のようなものにぶつかった。
すると、
「あちっ!」
という声が聞こえ、辺りが急に明るくなった。
「うっ、まぶしい」
わたしは思わずトーチを放り投げ、両手で目を覆った。闇の中にいたところ、いきなり、真昼のような明かるさに包まれたから。
しばらくして目が慣れてきたところで、恐る恐る手をどけてみると、目の前には、大きい顔があった。大きいといっても、尋常ではない。巨大爬虫類か怪獣か、つまり、暗闇のような漆黒の体色をした隻眼のドラゴンが、その左目を欄々と輝かせて、ジーっと、わたしをにらんでいたのだ。




