ライバル登場か?
後宮候補生の日常は、結構、ハードだった。早い話が、文武両道、知・徳・体すべての面で一流でなければならない。このため、毎年、少なからぬ落ちこぼれが出ているという。授業も、講義形式のものだけでなく、実技講習あり、フィールドワークあり、その他諸々、変化に富んでるらしい。
成績順に序列があり、序列に従って、いろいろな役職が割り当てられる。わたしは入ったばかりなので、最下位からスタートとのことだ。ルームメイトのエレンは48人中24位という中間で、可もなく不可もなくといったところか。序列1位になると、後宮候補生総代とか自治委員会委員長とか、いろいろな役職や肩書きが付いてきて、今は、騎士の娘、マーガレット・アンジェラ・クリスティアーナ・バスターブレイカーが総代を務めているとのこと。生徒会長みたいなものだろう。
早々に、そのマーガレット・アンジェラ・クリスティアーナ・バスターブレイカーが、取り巻きを連れてやってきて、
「カトリーナさん、後宮候補生への編入は滅多に認められることはないのですが、よほど優秀な方とお見受けいたします。候補生一同を代表して、挨拶させていただきたく存じますわ」
その時は、その人が総代とは分からなかったので、つい、
「あの……、すいません、どちらさまでしたっけ……」
その瞬間、取り巻きは、さっと色めき立ち、一緒にいたエレンは、びっくりして、わたしのメイド服の袖を引っ張った。喧嘩を売っているように見えたのかもしれない。しかし、さすがにマーガレットの御大は眉一つ動かすことなく、
「そういえば、自己紹介がまだでしたわね。あなたのお顔は何度か拝見しているので、つい、知り合いになったつもりでいましたわ」
そういえば、マーガレットの御大は、砂金鑑定の時も、弓の実技訓練場でご隠居様が激怒された時も、隠居様の傍らに伺候していたような……
わたしたちは、一応、慇懃に挨拶を交わした。エレンによれば、マーガレット・アンジェラ・クリスティアーナ・バスターブレイカーが貴族階級出身の後宮候補生のボスということだ。いつもご隠居様の近くにいたのは、ご隠居様の側仕えも務めているからだという。
ファーストコンタクトがこんな調子だから、彼女は、わたしに良い印象を抱いていないだろう。いるはずがない。うっかりとはいえ、まずいこと言っちゃったものだ。
夕方、部屋に戻り、疲れたのでベッドで横になっていると、エレンがニコニコして、
「カトリーナさん、やっぱりすごいね。総代のマーガレットが相手でも、全然、動じないなんて」
「よく知らなかったからね。でも、知ってたとしても、ボケをかましたくなる場面だったけど……」
「われらが大将(^^)」
「やめてよ」
しばらくは、精神的にも疲れる日々が続きそうだ。




