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ランナーズ・プルガトリィ  作者: 草場 影守
1章 再起動する魂たち
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34話 戦意が青く輝く

「潮時だ。PES、起動!」

「了解。PESエフェクト、起動します。剣に鞘を、世に平穏を」


 同時に三機。しかも、どれも精緻な操作を要求される。

 失敗は死。


「死ぬのはごめんだ」


 死ぬのが嫌なら、殺すだけ。戦場で()それしかできない。


「違うか。生き続けるなら、殺すこともある。それだけだよね」


 うまく立ち回れない、不出来な人間の行い。

 悲しいかな、アレックスはそうなのだ。

 五感の復元。人間としての再起。

 今の自分に、希望をあきらめることなど出来はしない。


 《マーベリック》の両目が青く光りを出し、その粒子が大気に舞い溶ける。

 その目を見た《ブラックナイト》、ライアーが反応し、高らかに笑った。


「PESなぞ起動してどうなる。俺にはきかないぞ」


 知っている。やはり敵はPESの存在を知っている。

 アレックスの意識が、戦場を漂う。

 そして、搭乗者を失った鋼の人型へと入り込む。


「そうだね。でも、この子たちはどうかな?」


 《サーベラス》に倒された三機のうち、立ち尽くしていた二機が再び動き出す。

 一度入ったことのある《ブラックナイト》。

 操作はたやすかった。だが、手と頭を失い戦力になりはしない。

 しかし、死んだはずの味方機が敵として立ちはだかったとき、人は平常心を保てるのか。


「キサマァ!」


 激昂。少なくとも、ライアーは平常でいられなかった。

 アレックスは囮の二機を、ライアーの前に立たせる。ここからが本番だ。

 二機を操りながら、《マーベリック》を移動させる。

 《ランケア》がPES有効圏内に入った。


 ライアーの視線をかいくぐり、切り札の槍へ、《ランケア》へと意識を向ける。

 ライアーは元味方ブラックナイトを前に、斧を振り上げたまま硬直している。

 IFFが邪魔をしているのだろうか。

 いや、違う。きっと感情がそれを許さないのだ。


 《ランケア》を操るためにPESを介して、脊椎ユニットにアクセスを試みる。

 さらに思考が並列化する。アレックスの意識は今、戦場に四つある。

 四分割ではない。四つあるのだ。


 二機の《ブラックナイト》はアレックスにとってはただの囮だが、ライアーにとっては友人だった。

 手を下すのに抵抗があるのは当然だ。

 それも、片方はコクピットをむき出しにして、命の残りかすをシートに滴らせている。


 友人だったもの。そのなれの果て。


「あああああああああ!」


 ライアーはアレックスの非道に再度激昂した。

 勝つためなら何をしてもいいのか、と。

 奇しくもそれは、ライアーがユンカースに対して行ったそれと同一だ。


 《ランケア》の中に、アレックスの意識が入り込む。

 機体に施された疑似PESエフェクト無効化は簡単だった。

 こちらの方が上位らしい。しかし、問題は別にある。


 たとえ《ランケア》を制御化に置いたとしても、アレックスの操縦技術で《ブラックナイト》を倒せるのかということだ。

 戦闘の素人が、槍を使って鋼の鬼を砕けるのか。

 戦闘技法を得るために、《ランケア》の脊椎ユニットに累積された戦闘データを参照する。


 すると、アレックスはそこに自分以外の何者かの意識を感じた。

 プログラムの枷をはめられた、無形の意志。

 レイチェルに良く似た感覚。

 そして()()は、アレックスの侵入を拒もうと立ちふさがる。


 まるで、主の家を守る番犬のように


「いや、イノシシか」


 そうだ、『彼女(ランケア)』の力を借りるとしよう。


「こんにちは《ランケア》。僕はアレックス」


 《ランケア》の膨大な戦闘データを管理し、扱う、戦闘意識。

 きっと自律型AIだ。


 GLWの制御系にAIを組み込むことは、過去の事件から禁忌とされてきたはずだ。

 もしかしたら、Aが要らない存在なのかもしれない。人工(アーティフィシャル)でない知能(インテリジェンス)

 直感がそう語る。どちらにせよ、現に『彼女』はそこに居る。そして要る。

 今はそれだけが重要だ。


 話しかけられた《ランケア》は、戸惑いの意志を見せる。

 一体、自分はどうやって彼女に話しかけているのだろう。

 レイチェルと違って《ランケア》は会話用インタフェースを積んでいないらしい。

 では、自分が使用しているこの『言語』は何なのか。


「ねぇ、《ランケア》。司令の仇を討ちたくない?」


 機械に話しかけるなんて滑稽に思えるかもしれない。

 だが、アレックスの体は脳以外機械だ。

 正直、人と会話するより親近感がある。そして何より、懐かしさを感じる。


 《ランケア》の態度が変わった。パイロットの状態を理解してはいるらしい。

 レイチェルのように言葉を介するわけではないが、わかる。

 お互いに『言語』を介して、理解できる。

 これが、PESの本質なのだろうか。解析はアレックスの領分ではない。


「このままじゃ、みんな殺されちゃう。でも君が手を貸してくれれば、アイツを殺せる。君の相棒の戦いを汚したアイツを、僕は殺したい。だから力を貸して《ランケア》」


 《ランケア》が猛る。

 彼女もまた、泣き寝入りするような女々しい女ではないらしい。

 操縦権がアレックスに渡された。

 獰猛な鋼のイノシシが、ゆっくりと首をもたげた。


 デュアルアイに戦意の青色が輝く。

 未だライアーには気付かれていない。

 《ランケア》からマニューバの提案を受ける。ユンカースの切り札。

 本来はロックがかけられている一撃離脱、必殺の機動。


「いいの、《ランケア》?」


 肯定の意。目に物を見せなければ、気が収まらない。

 そう吠えている。ユンカースの影響なのか荒々しい。

 理解してマニューバを読む。


「派手でいいね。やってやろう! え! いや、操縦は僕がやるの! だめだったら! ……そうだよ、ぎりぎりまで気づかれないように、ね」


 アレックスは機体を勝手に操作しようとする『彼女』を必死になだめた。


「GLWをAIだけで動かしちゃいけない理由がなんとなくわかったよ。これは手を焼く」


 これが特殊な事例であることは重々承知したうえで、そうぼやく。

 《ランケア》の戦闘意識が昂ぶる。『彼女』とは気が合いそうだ。

 斧が閃き、一機が叩き伏せられた。


 アレックスはマニューバを理解した。これはタイミングが重要だ。

 再び斬撃。今度は胴が両断された。

 脊椎ユニットが破壊されたことにより、二機に施されたPESエフェクトが消失する。

 囮が破壊された。もう時間は残っていないようだ。


 《ランケア》がバックパックから槍を取り出す。

 殺された友人を、もう一度殺したライアーの瞳には《マーベリック》しか映っていない。

 だが、好都合。希望は見えた。お膳立ても済んだ。


「仲間を殺した気分はどう?」


 できるだけふざけた風に言い放つ。相手の感情を逆なでするように。


「キサマ、このような非道がゆるされるとおもっているのか」


 だいぶ正気を取り戻しているようだ。薬効がきれたのか。


「僕が殺したわけじゃないよ。斬ったのはお前。ああ、その前に死んでたか。それに、非道ならお互い様だよ。そうだろ、英雄殺しの卑怯者」


 相手をあおるために、一句ずつ強調してセリフを吐いていく。

 切っ先を向け、剣を後方へ引き、突きの構えを取る。

 まだ気取られてはいけない。


「言わせておけば!」


 《ブラックナイト》が斧を上段に振りかぶり、一歩で跳び込んでくる。


 狙い通り。


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