30話 理性ある暴虐の牙
ライアー機を挑発しつつ、《サーベラス》小隊は自らの獲物の前へと進み出る。
「さーて、いっちょう片付けますか」
リリスはコクピット内で、ぺろりと唇をなめた。
「フォーメーションは?」
プリシラから通信が入った。
「いつも通り。臨機応変、変幻自在」
「電光石火、ね?」
「そういうこと! オウカも頼むぜ」
オウカ機が高周波ブレードを持つ右腕を振って応える。
左腕に装着されたのは異形の武器。
砲の先端に握り拳を巨大化したような形状。
試作兵器、短射程衝撃砲ブラストナックル。
装甲を穿つ、という概念を棄て衝撃力により根こそぎ圧潰するという非常識な兵器だ。
輪胴、装弾数が三発なうえ、射程距離が接射でないと威力が出ない欠陥兵器。
オーガスト基地の廃棄品。
こういった、いかれた試作兵器の回収がシュラウドの副任務でもある。
《マーベリック》もその一つ。
《ブラックナイト》たちから声がかかる。
「女ども。死にたくなかったら、そのままそこに突っ立っていろ。俺たちゃ隊長があの英雄に勝ちさえすればいいんだ。無駄な殺しはしたくねぇ」
投げやりな口調。なめられている。女だからと、見下されている。
GLWに乗れば、そんなものは無関係だというのに。わからないやつらだ。
「回りくどいな。殺されたくないなら、最初から殺さないでくださいって言えよ。腰抜け」
リリスは外部スピーカを起動する。宣戦布告だ。
「……なんだと?」
「お前ら全員、殺してやるって言ってんだ。ほら、早く来いよ。玉無し」
銃を振って、手招きする。
「言わせておけば!」
「おい、ガキの挑発になんて乗るんじゃねぇ」
「水を差されても面倒だ、やっちまおうぜ」
「ちっ……、仕方ない」
三機が色めき立つ。各々が剣を抜いた。
一機、抜くのが遅い。乗り気ではないようだ。
最初の獲物はこいつだ。
リリスは《サーベラス》を駆動輪で走らせる。
合図も無しにオウカとプリシラも続く。
両手の五五ミリ機関砲の弾頭、硬芯徹甲弾は満載。
回収した腕を解析した結果判明したが、《ブラックナイト》の装甲は堅牢で至近距離でしか装甲を貫通できない。
たとえ貫通できたとしても、張り巡らされた通電中の人工筋肉自体が相当の剛性を持つ。
だが装甲を貫通できないとしても、打ち出された弾丸の衝撃力を殺すことはできない。
つまり、狙うなら頭部か腹部。強度はあるが人工筋肉のない部分。
衝撃力による複合センサの破壊か、パイロットへの微々たる間接攻撃が有効となる。
欲を言えば高価な成形炸薬弾が欲しい。
GLW相手に使うにはいささか過剰ではあるが。
「くらえ」
標的、固定。
近距離まで走り、剣を抜き斬る前の《ブラックナイト》に銃弾を浴びせる。
狙いは付けない。そもそも、剣を抜く腕が邪魔で腹部は狙えない。
頭部を狙わないのはこちらが与し易い相手と思わせる意図がある。
退かれては困るのだ。
ならばなぜ、この機体を狙うのか。答えは明白。
この期に及んで戦う意思を示せないようなボンクラは、喰われる。
弱肉強食だ。
「うぉっ!」
撃たれた《ブラックナイト》は後ずさる。
剣を抜かず、柄に手をあてたままだ。
リリスが標的の横を走り去り、他二機へと発砲し牽制する。
後を追ったオウカがブレードで装甲の隙間を縫い、右手首を切断した。
柄に手がぶら下がる。
そして右のブラストナックルを敵機の左肩に打ち付ける。
トリガが引かれ、炸薬に着火する。
爆音が鳴り響き、先端から放たれる衝撃波が、《ブラックナイト》の肩関節を粉砕した。
オウカはとどめをささず、リリスにならい牽制に移る。
最後のプリシラが左のブレードを首にねじ込み、切り落とす。
そして、右のブレードをコクピットに突き立てた。
超振動による切削効果で火花を散らし、強固な腹部装甲が穿たれていく。
「やめろ! やめてくれ!」
パイロットは半狂乱に陥っていた。
手先を失った右腕が《サーベラス》を払いのけようと振るわれる。
「あらあら」
慌てるでもなく装甲を削るブレードを一旦放し、踊るように一回転。
流れる動作で左のブレードが右肩関節にねじ込まれ、斬りおとされる。
そして先ほどと全く同じ部位、胸部コクピットへと右ブレードを突き直した。
深くえぐりたてる。
「言ったでしょう? 殺されたくないなら、最初にそう言いなさいって」
プリシラがささやくように語りかける。切削音がうるさい。
「し、死にたくない!」
「だ~め」
刀身が一気に中へと押し込まれた。
装甲を貫通しコクピットへ到達したようだ。そのまま内部をかき回す。
パイロットの声が聞こえなくなった。超振動を止める。
ブレードが引き抜かれた。
刀身にこびりつく、油とも血ともつかぬ、液体。
プリシラは動かなくなった《ブラックナイト》を蹴飛ばす。
まだSWSが生きているようで、うまくバランスを取り、直立を維持する。
首と両腕を失った巨人の像が完成した。
そしてプリシラは、汚れた刀身を残りの二機に見えるよう、ひるがえした。
トリガを引き、超振動を起こす。
汚れは一瞬で消し飛ぶ。
飛沫が、純白の機体に飛び散り、不気味な化粧となる。
「貴様ァ! よくも――」
銃声が天に鳴り響く。
リリスだ。銃弾は地面に向かって放たれた。
流れ弾による被害を考慮した威嚇射撃行動。
「どっちだ?」
「何?」
「次に食い殺されて、飛び散りたいのは、どっちだって聞いてんだ」
リリス機が両銃の弾倉を交換する。
冷淡な声の中に抑えきれぬ興奮が聞き取れる。
プリシラとオウカの機体が横に滑り込む。
二挺の機関砲。高周波ブレード二刀流。
そして、ブレードと異形の拳。
凶悪な戦闘集団の本性が表れた。
リリスたちの残虐さに恐れおののき、《ブラックナイト》たちは後ずさる。
圧倒的な脅威を持って今、彼女たちはこの戦場を支配下に置いた。
後は簡単だ。
喰い殺すだけ。
「逃げるのか? お仲間の仇も取らずに」
「そんなわけがあるか!」
また一匹、獲物がかかった。
リリスの挑発にまんまと引っかかった。恐怖に平静さを欠いている。
《ブラックナイト》は大上段からの大振りの一撃で、リリス機を破壊しようとする。
感情に任せた攻撃というものは隙が大きい。
それがたとえ選択されたプログラムであったとしても、発動のタイミングが狂うのだ。
それを逃すほど《サーベラス》は甘くない。
オウカ機が動輪走行形態で一気に距離を詰める。
ブラストナックルの輪胴が回り、次弾が装填される。
振り下ろしきる前、剣の柄頭に向けてブラストナックルを打ち当てる。
そして炸裂。
「おおおっ!」
爆音とともに、《ブラックナイト》の手首から先が吹き飛び、反動で肩までもがひしゃげる。
宙に舞った剣が、すくんだままのもう一機の足元に突き刺さった。
オウカは続けて、ブラストナックルを敵機の腹部、コクピットに叩き付ける。
見せつけるように輪胴が回転していく。
がこんと、ひときわ大きく装填音が響く。
まるで断頭台の音。命を奪い去る、衝撃の刃。
「や、やめ――」
執行。三度目の爆音。
《ブラックナイト》のコクピットは、轟音と共に圧潰した。
ずいぶんとスリムになったその痩身は、自らの自重に耐えきれず腰を折る。
今度はシステムに損傷を受けたようで、傾き始めた機体がゆっくりと地面に仰向けで倒れた。
体に遅れること、数瞬。腕が地面をのたうって、止まる。
「あとは」
「あれだけね~」
オウカ機が弾を撃ちきったブラストナックルを切り離す。
三機は最後の獲物へと狙いを定める。
残忍にして、凶悪。敵へ容赦しない。徹底して殲滅。
それこそが《サーベラス》。
地獄の番犬の名を頂いた、シュラウドの攻撃部隊が一。死の化身。
今や最後となった《ブラックナイト》は、課された任務も、友の仇も忘れ、ただ恐怖した。
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