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ランナーズ・プルガトリィ  作者: 草場 影守
1章 再起動する魂たち
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22話 つぎはぎ兵器 2/4 

 話が大きくなってきた。


「どういうこと? だって、近距離でしか操れないし、操れないのもいたよ?」

「距離が短いのは出力の問題だろう。機体の電力消費が異常だった。それよりも、操れなかったっていうのはおそらく――」


 ヒュージはマリーを見やる。マリーが続ける。


「対抗策がすでに確立されている。あの黒いGLWは戦場でのPES使用を前提としていた。逆説的にとらえるなら、すでに技術がある。または、PESを持っている」

「対抗策のない、世の中にあるGLWを操れるってこと? でもあっちはこっちを操ってはいなかったよね。〈ヴァンガード〉破壊してあったし」


「そこまではわからないけれど、少なくとも武器は使用不能にされていたって話でしょう? あれだって、電子制御されているとはいえ、ネットワークに接続されていないのよ。

 今の戦場でそれをやられたら、一方的な戦況になるでしょうね。《サーベラス》小隊は、電子制御部品のない旧世代火器を持ってきたみたいだけど、正解ね」

「武器が使えないのはジャミングってやつじゃないの?」


 ヒュージに聞いてみる。


「ジャミングっていうのはレーダー妨害をするだけで、装置そのものを使えなくするような、とんでも機能は持ってない。だからPESの特異性が目立つ」

「うーん……。確かに大変だけど、向こうも同じ装置持ってる可能性が高いんだよね? でもそれなら《マーベリック》を奪いにくる必要はなかったんじゃない?」


「そこなんだ。技術が確立されているなら、わざわざ奪う必要はない。だが、あいつらは来た。PESか五感の再現、どちらが欲しいかはわかんねぇが、それだけの価値があるらしい。余計に奪われるわけにはいかなくなったってわけだ」


 《マーベリック》の簡易組み上げが終わった。

 あとは細かな調整をして本組み上げだ。


 GLWを構成するADMフレームは各関節パーツを比較的簡単に取り外せる。

 フレーム強度は下がるが戦地での整備の容易性が高められた結果だ。

 今や、二足歩行ロボットは戦場の主力。

 開発時に現地改修も視野に入れられている。


「とにかく、安全性が確認できるまで、そのどちらも使って欲しくはないわ。シュラウドに戻るまでは、ろくに解析できそうもないから」


 それらに関しては仕方がない、とアレックスは納得するしかなかった。

 いくら人の感覚を取り戻せるからと言って、廃人になるようなことになれば本末転倒というものだ。


「ところでさっきから、何をやっているんだ?」

「これ? 《マーベリック》用のマニューバを組んでいるのよ。システムのロックが外れたから、通常操縦もできるようになったしね」


 ヒュージがパソコン画面に目をやる。


「……コードに無駄が多い。いや、丁寧というべきなのか。容量を食いすぎだ。これだと反応速度に若干の遅れが出る。ってか、一から書いているのかコレ」

「仕方ないじゃない。わたしは本職じゃないのよ。組めるだけマシだと思って」

「俺がやるよ。《マーベリック》自体のマニューバが搭載されていないとはいえ、手足は〈ヴァンガード〉だ。ならコードは流用できる」


 そういってヒュージは、ポケットから小さなメモリデバイスを取り出し、パソコンに接続した。

 席をマリーから譲られ、座る。

 生暖かい彼女の体温を感じた。


「それは?」


 椅子の背に手をやり、ヒュージに覆いかぶさるように画面を覗き込むマリー。

 香水だろうか、甘い香りがする。

 近い、と抗議しようと目を向けると、ブラウスの襟から胸元が覗いていた。

 大きすぎず、小さすぎず、といったところか。


 ヒュージは慌てずに、画面に顔を向ける。

 上下ともピンクで統一しているようだ。


「……各GLWメーカーの基本動作プログラムが入っている。まぁ、趣味みたいなもんだ」


 細かくファイルわけされており、持ち主の性格がうかがい知れる。

 マリーはそのファイルの中に、あるはずのないものを見つけてしまった。


「ちょっと待って……。今、〈ヴァンガード・サーベラスカスタム〉ってなかった!?」

「気のせいだろ」


 ヒュージは素知らぬ顔だ。

 〈ヴァンガード・サーベラスカスタム〉はシュラウドで改造した機体であり、そのマニューバも独自で開発されている。

 公開されておらず、一般人が手に入れられるものではない。


「とんでもないわね。あなた、何者なの?」


 マリーは改めて、ヒュージに興味を抱いた。


「ただの機械屋だよ。ちょっとネット技術に詳しいだけの、な」

「ヒュージはぱそこん得意なんだよ!」


 今まで話に入って来られなかったアレックスが得意気に答える。

 彼が褒められると、自分のことのようにうれしい。


「なんでお前が喜んでんだよ」

「えへへ」


 ヒュージが《マーベリック》用のコードを書き込む。

 マリーも目を見張る早さだ。


「よし、基本動作はこれでいい」

「もう終わったの!?」


 驚きを隠せないマリー。

 自分なら、三〇分はかかったはずだ。


「こういうのは慣れだよ、慣れ。それに俺は本職だ。アレックス、何か追加したい行動あるか?」


 問われたアレックスは、《ブラックナイト》の剣礼を思い出した。


「騎士が剣を顔の前に掲げるアレ、わかる?」

「剣礼か。あんなもん入れる必要ないだろ。戦うわけでもないし、そもそも必要性が感じ――」

「――ヒュージ、お願い」

「……わかったよ。入れてやる。でも理由ぐらい聞かせてくれ」


 アレックスは逡巡した。

 特に意味などないのだ。

 強いてあげるとするならば――。


「あいつらに出来て、僕ができないっていうのが悔しいから、かな」

「ふむん」


 納得したような、そうでないような生返事。

 少し間をおいて、キーを叩きだす。


「まあいい。ならついでに剣技のマニューバも入れてやる。剣礼ができて剣が振れないなんてお粗末だからな。……使っていいって意味じゃねーぞ?」

「ありがとう、ヒュージ」


 もしものための、彼なりの保険だ。

 生き延びるための選択肢は多い方がよい。


 格納庫のすみに、外した《マーベリック》の四肢と奪った剣が置かれている。

 打ち捨てられた巨大な四肢は、なかなかに猟奇的なたたずまいを見せる。

 ヒュージはその剣を眺めながら、画面すら見ずに入力を続ける。


「武器の詳細情報も無しに、どうやって数値を入力しているの?」


 マリーが疑問を投げかける。


「どうって、さっきの戦闘で《マーベリック》があの剣振っただろ?」

「ええ、それがどうかしたの」

「累積メモリ内から、重量やら反動係数を参照させている」

「なるほど。でも腕は〈ヴァンガード〉よね?」

「ああ、そこは実際に持たせてみないと補正が効かない。四肢は継ぎ接ぎ(パッチワーク)だし、全部が全部プログラムでは御しきれない。剣は手で振るうものじゃないしな」

「違うの?」


 ヒュージは一旦手を止め、席を立った。


「これはアレックスも聞いておけよ」

 二人の会話についていけず、アレックスは格納庫すみ、手の空いたもので解体している《ブラックナイト》の左腕を眺めていた。

 そういえば、頭部が見当たらない。

 敵が回収していったのか。


 意識がぼんやりと流れる。


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