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ランナーズ・プルガトリィ  作者: 草場 影守
1章 再起動する魂たち
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22話 つぎはぎ兵器 1/4 

 第四格納庫に、マリーの車で乗り付ける。

 もちろん運転はヒュージ。アレックスは定位置。


 外に〈タイタン・プラクティ〉が一機、無造作に捨て置かれていた。

 こちらからは見えないが、おそらくコクピットが破壊されているはずだ。


 格納庫内に入ると〈タイタン・プラクティ〉が七機、昼と同じように直立していた。

 違うのは先ほどと同様、皆コクピットを破壊されている点だ。


 外に捨て置かれた機体のハンガーには、四肢を外された《マーベリック》が、クレーンで吊るされていた。

 その開いている腹部コクピットから、ケーブルが伸びている。

 あまり見ていて気持ちの良い姿ではない。

 アレックスは昔、事故でこれよりももっとひどい姿だったらしい。

 ゴダート医師が言っていた。


「おかえりなさい。遅かったわね」


 マリーがケーブルの先、パソコンの載った机に両肘をつき、中腰でキーを叩きながら言った。

 こちらを向いていない。必然的に、白衣に包まれた尻が突き出される。

 体勢を変えるたび右へ、左へ形を変えながら揺れる。

 ヒュージが目を逸らし、離れて行った。

 アレックスは特に気にしている様子はない。


 おかえり、と言われることが心地よい。

 第四格納庫は二人にとって、帰るべき家だ。


「司令に呼ばれて、事情を説明してたんだ」

「そうだったの。わたしが行けばよかったわね」

「修理があったんだから、僕が適任だったんじゃないかな。ね、ヒュージ?」

「そうだな」


 パイプ椅子を一つ持ってきたヒュージが答える。

 そしてマリーに座るようにすすめる。

 彼女は困惑しながら座る。

 アレックスはおかしくてしょうがなかった。


「……ならいいけれど。司令は何か言っていた?」


 ユンカースの言葉を思い出す。不安が一瞬広がる。


「明日の朝、敵は必ず来る。そう言ってたよ」

「どっから来るんだその自信」

「GLW乗りの長年の勘、というやつかしら。いずれにせよ《マーベリック》は動かせるようにしないと」


 吊られた《マーベリック》の下に、手足が運ばれてくる。


「許可が下りたから、〈ヴァンガード〉の手足を貰い受けたの。これなら全力で逃げても破損はないと思う」


 クレーンで持ち上げられた手足を、キャットウォーク上の整備士達が取り付けにかかった。


「しかし、いいのか。皆に触らせているが。機密だったはずだろ?」


 取り付中の同僚をあごで指しながら、ヒュージはマリーに問う。


「本来なら断りたいけれど、理由を問われると説明しなければならないでしょう? それなら修復もかねて受けた方が賢明かとおもって。いい部品もいただけたことだし」

「……戦闘も、できる?」


 アレックスは、おずおずとマリーにたずねる。

 マリーは一拍置いてから応える。


「前回もそうだけど、戦闘をする必要なんてないのよ。今回は《サーベラス》小隊もいる。この補修も、あくまで離脱用なの」


 ヒュージが割って入る。


「アレックス。お前が、ああいう無法者を許せないのはわかる。だからって、無茶していい理由にはならないだろ。……あんまり心配させないでくれ」


 二人に咎められ、少々落ち込む。

 そうではないのだ。


 状況が変わったから、はいそうですかと気持ちが切り替えられるわけがない。

 今のアレックスにとって情動は人としての拠り所なのだ。

 それを諌められたら、自分は何を以って人だと誇示すればいいのかわからない。


 もちろん、二人が正しいことはアレックスにだって理解できる。

 先ほどのように、自衛する必要もない。

 戦ってくれる人がいるなら、任せればいい。


 それでも、納得はできない。


「それにね、アレックス。言いにくいのだけど、《マーベリック》のシステムに異常性が見つかったの」

「異常性?」

「ええ……。接続した人間の脳に作用して、無理やり恐怖心を無くす。一種の催眠ね。下手をすれば、廃人になりかねないわ」

「となると、戦闘用なのか。俺の思い違いだったか」


 アレックスが感じた違和感。その正体が、それだ。

 自らの感覚を機体に同化させることによる、意識の肥大化。

 自分が強くなったと錯覚させ、全能感を与える。

 初めて武器を持った人間が陥りやすい、一種の病気だ。


 《マーベリック》は接続した人間に、それを作為的に発露させるらしい。

 だが、感覚共有による操作を用い、直感での反射行動で戦闘するような機械に、嗅覚はまだしも味覚や痛覚が必要なのだろうか。


「……ほんとうにそうなのかな?」

「何か、思い当たる節があるのか」


 ヒュージに聞かれるが、直感でしか答えられない。


「《マーベリック》は、戦闘するための機械じゃないと思う。たぶん、きっとそう」


 マリーのキーを叩く手が遅くなっていく。


「乗ったアレックスがそういうのなら、違うのでしょうけど。ああ、謎ばかりね」

「それを研究するんだろ?」


 ヒュージに言われて、マリーはそれもそうだと思い直す。


「あ、そうだ。マリーに伝えなきゃいけないんだった」


 周りに三人以外いないことを確認して、小声でPESが起動したことについて話す。


「レイチェルから報告があったから知っているわ。メインシステムのロックも解放されたし。でもPESに関してはお手上げ。アクセスできない」


 よかった。壊れていなかった。

 アレックスは安堵した。

 《マーベリック》のシステムがダウンした際、そのことだけが気がかりだった。


「じゃあ、敵を操れたのもわかんないのか」


 アレックスがぽつりとつぶやく。


「待って。相手のGLWを操ったっていうの?」


 キーを打つ手が、完全に止まる。


「記録を見たんだろ? 映像が残ってないのか」

「記録に残っているのは、PESが起動してロックが解除されたってことだけ。……録画機能すら、搭載されていないのよ」


 本当に何も搭載されていなかったらしい。


「それより、どういうことなの。操ったって」


 ぼんやりとした表現でしか説明できないが、マリーに伝える。


「それは、かなり危険な話ね」

「……そうなの?」


 マリーの深刻な表情にアレックスはたじろぐ。


「ADMフレームの中枢、脊椎ユニットは強固なの。それは機械構造のみではなく、システムにも至っている。完全に独立しているの。どんな外的要因でも奪えない制御システムよ。ヒュージは知っているわよね?」

「ああ。電子防護(EP)も完璧だ」


 ネットワークに接続されていない、いわゆる独立稼働(スタンドアローン)

 電子情報網制御システムの高度化が行き過ぎた末、たどりついた結論が孤立。

「でも、GLWって情報共有(データリンク)できるよね?」


 アレックスのなけなしのGLW知識で反論する。


「それはコクピットに、後付けの専用機材が積まれているだけ。脊椎ユニットには接続されていないわ」

「戦闘中の脊椎ユニットに干渉できるのは、コクピット内の操縦桿、制御パネル、ユニバーサルコネクタ、この三つだけのはず。もっとも、脊椎ユニットは未だに用途不明な部分も多い。前提条件が違う可能性もある。だが、《マーベリック》は敵の脊椎ユニットを掌握した」


 話がややこしくなってきた。

 アレックスは、そろそろついていけない。


「あー、つまり、だ。システム的に、外部からパイロットの操縦権限を奪うことなんてできないって話だ」


 ヒュージが、かいつまんで説明をする。


「じゃあ、僕が幻覚でも見ていたってこと?」


 あの光景が嘘だったというのか。

 自然と、左肩を押さえる。


「いいや。状況を鑑みるに、それは実際に起きたんだ。じゃなきゃ今ここにお前はいないよ。そしてその機能こそが、あいつらの狙いだろう」

「そう。世界のパワーバランスがひっくり返る可能性もある機能よ」


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