表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランナーズ・プルガトリィ  作者: 草場 影守
1章 再起動する魂たち
22/48

19話 引きずられる感覚

 そういえば、二人はどこまで走って行ったのだろうか。

 それに、いつまで経っても回収班とやらが来ない。


「わかったわ。一応上と掛け合ってみる。でも期待しないでよ」

「ああ、期待してるよ。でなきゃ俺は野垂れ死にだ」


 ヒュージが投げやりな返事をした。

 マリーはやれやれといったように肩をすくめる。


「おはなしはおわったかしら?」


 三人の背後に、リリスを肩に担いだプリシラが立っていた。

 気配を全く感じなかった。リリスはぐったりとして動かない。


「相変わらず気配を殺すのがうまいわね。どこから聞いていたの?」

「その二人がシュラウドに入るってところからね~」


 プリシラはリリスを担いだまま、二人に手を振って答える。

 決して軽いわけではないだろうに、軽々としたものだ。

 アレックスは手を振りかえす。


「まだ入ると決まったわけじゃないわ。クイーンがなんていうか」

「えー? 絶対二つ返事でオッケーだよ~」

「……そうね。そんな気がするわ。ダメなら、そうね。わたし個人で雇いましょう。とりあえず《マーベリック》を移動させなきゃ」


 車としては時代遅れの内燃機関が放つ音。

 回収車だろうか。それにしては小さい。

 こちらに向かってくる。というよりこれは――。


「ちょっと。あれレッカー車じゃないの!」


 車が後退しながらクレーンを《マーベリック》に向けた。

 人が降りてくる。シモン整備長だ。


「おう、なんだお前らこんなところにいたのか」

「シモンさん、無事でよかったです」

「オッサンのことだ。心配はしてなかったが。まぁ、よかった」


 シモンはアレックスとヒュージに手を上げるだけで答える。

 そしてクレーンの先端、フックを引っ張り出す。


「驚いたぜ。まさかアレックスがGLWでドンパチやらかすとはなぁ」

「いやぁ。僕も驚きました」


 アレックスは苦い笑いをしているつもりで応えた。


「サルセドさん。これはどういうことですか? それでは機体を安全に運べませんわ」


 マリーがレッカー車を持ち出してきたシモンに食って掛かる。

 あれは牽引車でGLWを搭載することなど到底できない。


「これくらいしか無事なもんがなかったんだよ。それと、ユンカースからの指示でその機体の補修を急いでやれとよ」

「またどうしてそんな」


 マリーは困惑している。


「さぁな。もしかしたらユンカースのやつ、敵さんがまだあきらめてないと思ってるんじゃねーか?」


 言いながらも《マーベリック》の機体と、ついでに《ブラックナイト》の左腕と剣をクレーンのワイヤに巻きつけていく。


「さ、乗りな嬢ちゃん。嬢ちゃんがいないとシステム周りの補正ができねぇんだろ?」

「わかりました。プリシラ、オウカ、周辺警戒をお願い」


 オウカの乗ったGLWは、こちらにピースサインを出し、二指を閉じたり開いたりしている。


「じゃあ行ってくるわね、二人とも。行先は――」

「第四だ」とシモン。


 第四格納庫。古巣だ。


 レッカー車が唸りを上げて発進する。

 低速で引きずられる機体の背中や足が、盛大に火花を散らす。

 仮にも感覚を共有した機体だ。その様を見て、背中が痛くなる。

 いや、痛くなれればよかった。


 車が徐々に加速していく。

 擦り切れてなくなってしまうのではないかと眺めていたら、左足首が取れた。

 地面を削る騒音の中、マリーの悲鳴が聞こえたような気がした。




 未だに担がれたままのリリスを見て、ヒュージが言った。


「大丈夫なのか、そいつ?」

「いつものことだから~。リリスちゃんってしつこいから最後はいつもこう、ね?」


 手刀を振り下ろす仕草をする。

 存外に暴力的なようだ。


「コクピットに突っ込んでおけば、そのうち目を覚ますわよ~」


 プリシラはにこやかに言ってのける。


「そう……」


 怖い。アレックスとヒュージは、怒らせてはいけない人だと心に刻んだ。


「あっちの人は? オウカって言ったっけ? 降りてこないけど」

「オウカちゃんは人見知りでね。外では滅多にGLWから降りてこないの」


 そういうとプリシラは、降着姿勢の《サーベラス》一号機のコクピットに、リリスを座らせた。

 操縦桿にヘッドギアが引っかけてある。

 心配になったアレックスは、リリスの顔を覗き込んだ。

 その顔は苦悶の表情とは程遠く、心地よさそうに眠っていた。


「えぇ……」

「眠っているからって、いたずらしちゃだめよ?」


 コクピットから降りたプリシラがヒュージに向かって言う。


「……なんで俺にだけ言うんだ?」

「アレックス君はともかく、ヒュージ君はリリスちゃんを女性として意識しているみたいだからよ。こんな小さい子に欲情しちゃダメよ~」


 小さいとは言っても小柄なだけで、年はそんなにかわらないだろう。

 それはプリシラにもいえることだが。


「……はぁ。肝に銘じておくよ」


 ヒュージはため息をついて答える。

 本気で言っている訳ではないと思いたい。


「それじゃ、わたしもおしごとしなくちゃ。またあとでね~」


 プリシラが自機に戻り、武器を携えこの場を去っていく。

 一時の静寂を破るように、一連の会話を聞いていたアレックスがたずねる。


「……ヒュージってちっちゃい女の子が好きだったの?」

「ちげーよっ!」


 彼は珍しく大声で否定した。むしろその態度があやしい。

 アレックスはそう思ったが、黙っていることにした。


 リリスをこのまま放置してもいいかどうか考えていたが、オウカがまだこの場に残っていることに気が付いた。

 待機状態のGLWは静音性が高いので、動作をしていないと存在が希薄だ。

 もしかしたら、単にオウカの存在感が薄いのかもしれない。


「リリスが目覚めるまで、見ていてもらってもいいかな?」


 《サーベラス》二号機に話しかける。

 声こそ返ってこなかったが、その手はオーケーサインを作っていた。

 そんなマニューバまで入れているのか、とヒュージは呆れ顔だったが、データリンクも無線も使えない特殊な状況下なら、ハンドサインの類は有効なのかもしれないと思い直した。


「シュラウドってのは、変人のあつまりみたいだな」

「……僕ら、その仲間になるってわかって言ってる?」


 オウカの機体が、両手で指鉄砲の形を作りこちらに向けた。


「『その通り』って言ってるのかな?」

「案外、『くだらないこと言っていると、撃ち殺すぞ』って意味かもな」


 オウカ機は片手でヒュージを指さすと、もう片方の手を左右に振って否定した。


評価していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ