16話 援軍
カール・ライアーは劣勢ながらも、心躍る戦いに打ち震えていた。
「英雄と呼ばれるだけはある! なんたる強さだ!」
槍の一撃一撃が必殺の威力を秘めている。
少しでも反応が遅れれば、その切っ先で命が貫かれる。
その様が、ありありと目に浮かぶ。
「ペネトレイター・ユンカース! その名に偽りなし!」
コクピット内で叫ぶ。
そんな無駄なことを、と思われるかもしれない。
だが、声を張り上げなければ、相手の強さに圧倒されてしまう。
ライアーたちには為さねばならぬ任務がある。
ここで果てるわけにいかない。信号弾はまだ確認できない。
何度目かの打ち合いのあと、目標が同志に追い詰められているところを視認する。
これで任務も完了だ。
その時、警告音が鳴った。
「PESエフェクト確認。カウンタAESエフェクト、アクティブ。無効化完了」
男声の電子音声が告げる。
そんなはずはない。
よしんば機体は動かせても、PESの起動は不可能なはず。
報告と違う。
だがAESを積んでいる《ブラックナイト》なら問題はない。
そこで気づいた。
「頭部破損!? まずい!」
AESユニット本体はコクピット側、脊椎ユニットに搭載されているが、その媒体は頭部に収められている。
つまり、頭部が破壊されているあの二機はPESエフェクトの効果を受ける。
「間に合えよ!」
ライアーは槍での突撃の瞬間を見計らい、《ランケア》との戦闘を切り上げ、同志の救出に向かう。
駆動輪全開。
不意を突かれた《ランケア》は《ブラックナイト》の動きについていけない。
時間稼ぎのため、すり抜けざまに《ランケア》の頭部に閃光弾を叩き込む。
「なんだと、貴様!」
ユンカースの怒号が響く。
《ランケア》搭載のアイ・コンタクトはその特性上視界が遮られるとシステムが強制的に通常モードに移行されてしまう。
つまり、穂先の動きが鈍るのだ。
《ランケア》は予想外にもその場で動きを止めてしまった。
頭部からの視界に頼り切りなのか。
焦りながらも敵機の分析は怠らない。
だが、次に生かせる機会があるとは思わない。
思った通り、首のない二機は《マーベリック》に操作されているようだ。
二機をPES効果範囲外まで連れて行くよりは――。
「壊れてくれるなよ」
――《マーベリック》を弾き飛ばした方が早い。
早々に結論付けると、動輪走行の勢いを殺さず、その大盾で機体をすくい投げる。
それは《ランケア》の突撃に通ずるものがあった。
舞い上がる機体。そして受け身も取らずに地面へと叩き付けられた。
転がった《マーベリック》は動かない。
PESエフェクトも機能を停止した。今なら回収できる。
全機、稼働に問題はないはず。
片腕になった機体と分担し、機体の腹を抱えるように腕を固定して二機を回収する。
操られた二機は駆動輪を動かせるようで助かった。
動体探知センサに感。接近警報が鳴る。
《マーベリック》の状態に気を取られた瞬間、空から銃弾が降り地面が穿たれた。
「そこのくろいGLWたち~。とまりなさ~い」
スピーカから気の抜けるような若い女の声。
空を見上げると、三機の白く美しい〈ヴァンガード〉がGLW専用の長距離航行空輸機から、それぞれ発砲、抜剣しながら降下してくるところだった。
形状が若干違う。カスタム機だろうか。
デフォルメされた犬のエンブレム。
その口でくわえられる、一から三の英数字。
ライアー達は二手に散開してこれを回避していく。
「ええい、どこの所属だ! AESが効いていないのか!?」
ライアーは降りしきる銃弾の雨をかいくぐりながら、制御モニタを確認する。
モニタには、AESエフェクト正常稼働中の文字。
だとするならば。
「旧式の火器を持ち出してきたか。柔軟な良い部隊だ。女でなければな!」
GLWの操縦適正に男女の差はない。
十分な訓練を積まない少年少女であろうとも、戦力となる。
それこそが昨今の紛争問題の核心であり、ライアーが最も嫌うものだ。
バックパックから撤退の信号弾を射出。
痕跡を消してもらっていた、残り二機の同志にも伝わっただろう。
切り落とされたあの左腕は回収できない。
三機の〈ヴァンガード〉は着陸の瞬間、各部に増設されたブースタを噴射。
まるでハリネズミのように推進剤が噴き出る。
衝撃を限りなく抑え、接地すると同時にブースタを切り離す。
駆動輪を駆使し、追撃開始。
「止まれって言ってんだろ、ゴラァ!」
先ほどとは打って変わって粗野だが、幼さを感じさせる女声がGLWから響く。
両手の銃から発射された銃弾が機体を何度となくかすめ装甲の上で跳ねる。
いい腕だが、また女。
「戦場に女を立たせるなどと……。度し難し!」
操縦桿を掴む手に力が入る。
感情的になってはいけない。
そう自分を落ち着かせる。
もう一機、こちらはまったくの無言で追い立ててくる。
左手に持つ、旧式の高周波ブレードが狙いを定めている。
目くらましの閃光弾を背後へ射出。
間隔を開け、ありったけの煙幕弾を放ち視界を遮る。
これで時間が稼げるだろう。
はるか後方から、まだけたたましい声が聞こえる。
基地施設から即座に離れていく。
同志は全員無事だろうか。
自機は多少破損しているが、運用に問題はないだろう。
同志が輸送機をすべて破壊しているはず。
標的を運び出す術はない。
簡易補給をほどこしたら追撃作戦を立てねばならない。
ユンカースとの勝敗の行方が気がかりだが、そうは言ってはいられない。
《マーベリック》を手に入れなければ。
我らが本物の騎士と成るために。
ライアーの意志は固い。
評価いただけるとうれしいです!




