表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中  作者: ユーコ
楡の木荘の春と夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/153

15.チキンのトマト煮込みとコーンスープ

「まずは片付けだな」

 騎士達が出て行った後、テーブルには大量の食器が残っている。

「リーディア」

 隠れていたブラウニー達が顔を出す。


「お前達、ちょうどいいところに来たな。お昼をご馳走するから片付けを手伝ってくれないか?」

「メニューは何?」

 と灰色のブラウニーが聞いて来た。

「そうだね、お腹が空いたからすぐ食べれるものがいいな。ソーセージにマスタードをたっぷり添えて。パンの代わりにマッシュポテト、キャロットラペにピクルスってところだね」

 三人は頷いた。

「よし、手伝ってやる」


 ブラウニー達と共に片付けを終えて、次に私は食べ尽くされたパンを作ることにした。

 ライ麦パンだけではなく、時々小麦のパンも焼いている。

 次回パン用の酵母にと庭で採れたすももの種を発酵中である。

 酵母が仕上がるのに後一日くらいかかるはずだったが、このところ気温が高く冷暗所に置いておいたのに発酵しすぎてしまった。

「今日使わないといけないな」と思っていたので、ちょうどいい。ライ麦半分小麦半分のすもも酵母のパンにしよう。


 パン作りを開始して発酵を待つ間、私はもらった蹄鉄を持って食堂に行った。


「この辺かな」

 目立ちそうな場所を探して、飾り付ける。



 熊男は私にこの蹄鉄をくれた。

 つまり地元騎士団に私という存在が認識されたわけだが、熊男は私がセントラル騎士団の元魔法騎士リーディア・ヴェネスカであることをおそらく知らない。

 この蹄鉄を渡したのがその証だ。

 野中の一軒家で一人で暮らす私を彼は訳ありと見なしたが、冒険者家業が盛んなゴーラン地方には訳ありの住人は多い。

 怪しい動きをすれば熊男は私の素性をとことん洗うだろうが、そうでもなければ熊男は私を放っておくだろう。

 諜報の人間は独特の「匂い」がする。素性を隠したいだけの私はこの匂いがないのだ。

 むしろ庇護すべき女性と熊男は判断したのだろう。


「ゴーラン騎士団か……」

 私が勤めたセントラル騎士団とはずいぶん違うな、と思った。

 セントラル騎士団の役目は王のために戦うこと。戦争で敵を殲滅する華々しくも血なまぐさい活躍を求められる。

 ゴーラン騎士団の目的はこの地の平和を守ることだ。同じ戦闘要員でも彼らの方が民に寄り添う存在である。






 そんなことを思いながら、もらった蹄鉄をぼんやり見上げていると、

「あのう、誰かおりませんか?」

 遠慮がちにドアが開き、若い男性が入ってきた。

 今日はずいぶん客が多い一日だ。

「はい、何かご用でしょうか?」


 声を掛けると男性はほっとした様子で破顔する。

「ああ良かった。少し休ませてもらえませんか?暑さに子供がバテてしまって……」

「そりゃ大変だ、中にどうぞ」


 やってきたのは若い家族連れで、妻らしい女性と四歳くらいの女の子とそれから一歳くらいの赤子。

 全員疲れ気味でぐったりしている。

 聞けば夫は隣国の人間で、妻の実家に帰省する途中らしい。馬車で来たそうだが、山越えは馬車に乗ってでも一苦労だ。



 子供には冷たいミルク。

 夫婦には冷たいお茶でも出そうとしたが、子供がごくごくミルクを飲むのをうらやましそうに見ていたのでミルクにした。

 赤子も一歳過ぎているのでミルクも大丈夫らしい。一家揃って美味そうにミルクを飲んだ。


 アーモンド粉と小麦粉を混ぜて作ったクッキーを食べさせると幼児はすぐに眠ってしまった。

 赤子も爆睡し、母親も赤子を抱きかかえながら、寝落ち寸前だ。


「おい、お前達……」

 若い父親は困り果てた顔になる。

 時刻は夕方で、今発てば暗くなる前にフースの町に行けるだろうが、これだけ寝ちゃうともう起こすのかわいそうだろう。

「あの、良かったらうちに泊まってきませんか?」

 私がそう言うと、彼はパッと顔色を明るくした。


「よろしいんですか?」

「大したもてなしは出来ませんが、広い家なので全員分のベッドは用意出来ますよ」

「ありがとうございます。大変助かります」


 そうと決まれば客室の準備をしよう。

 二階に上がるとブラウニー達が待っていた。

「リーディア、あいつら泊まるんだろう?」

「手伝う」

「僕も」


 妖精とは子供が好きらしい。

 子供好きが講じて「可愛いからさらう」こともあるため、用心しないといけないが、基本的には子供を助けてくれる存在である。

 そんな子供好きの彼らなので世話を買って出てきた。

 部屋を掃除して、寝具を新しいものと交換する。


 リネン室には古い子供用のパジャマやおしめも保管してあった。

 きちんと洗濯したが知らない家の古着は嫌かもなと思いながら一応声を掛けると、「使わせてもらいたい」という返事だった。

 旅先では洗濯も結構大変だから喜ばれた。

 夏なので一晩あれば洗濯物も乾く。ここで汚れ物は洗濯していってもらおう。

「私が……」

 と若い母親が立ち上がってやろうとしたが、私はそれを押しとどめた。

「お嫌じゃなければ任せてください」

「ですが……」

 子供抱えた長旅だ。子供も大変だろうが、親だって疲れている。

 父親の方は今、馬の世話中だ。

「今日はゆっくり休んでください」


 洗濯をしようとした私だが、

「リーディア、手伝ってやってもいいぞ」

「いいぞ」

「いいよ」

 とブラウニー達がやってきたので、任せることにした。



 さて、夕食はどうしよう。

「子供が好きそうなメニューは……?」と考え、チキンのトマト煮込みとコーンスープを作ることにした。


 まずコーンスープから。

 畑でもいできたコーンを半分はすりおろし、半分は包丁で実をそぎ落とす。

 こうするとつぶつぶコーンスープになる。

 つぶつぶじゃないコーンスープを作る場合は全量すりおろすが、私はつぶつぶの方が好きなのだ。

 すりおろしのコーンは口当たりをなめらかにするため、ざるで濾す。

 すりおろしのコーンにつぶつぶコーン、すりおろした玉葱、バター、鶏肉のフォン、塩コショウ、ミルクを入れて煮えたら完成だ。


 お次はチキンのトマト煮込み。

 一口大に切り、塩コショウした鶏肉をフライパンに入れ、皮を下にして焼く。焼き色が付いたらひっくり返し、薄切りにした玉葱と同じく薄切りにしたポルチーニ茸、みじん切りのにんにくとざく切りのトマトを入れて炒める。

 夏は意外ときのこがよく採れるシーズンで、森では色々なきのこが採れるが、一番美味しいのはポルチーニ茸だ。香り高く、食感もいい。

 火が通ったら水、鶏のフォン、砂糖、ローリエを入れて二十分煮たら出来上がり。


 前菜はハム、チーズ、塩漬けのオリーブ、レバーパテの盛り合わせ。それとボウル一杯の畑でとれた野菜のサラダに焼きたてパンだ。

 食後のデザートはすももの蜂蜜コンポートにした。

 半分に割って種を取ったすももを蜂蜜と水で煮た簡単メニューだが、甘酸っぱくて夏のデザートにちょうどいい。


 夏バテで食欲ないかと心配したが、女の子は「美味しい!」と料理をパクパク食べた。特にコーンスープが気に入ったようだ。

 食事の後はお風呂に入ってもらい、就寝。

 しっかり眠れたらしく、一家は翌朝、朝食を食べて元気に出て行った。


「どうもありがとうございます。本当に助かりました」

 父親からは礼を言われて、「受け取ってください」と彼の家で作っているというレモンをもらってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中
2025年2月28日、発売!
di93g8su9ufw4zvlerzdbnf2cwa3_fzj_rs_13i_ag3b.jpg efngc0b51o1skkfj89se65c2x0s_vvb_rs_13i_ajax.jpg
退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中 上
退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中 下
― 新着の感想 ―
子供好きブラウニー達がせっせと世話を手伝うほのぼの情景。チキンのトマト煮込みとコーンスープ美味しそうで食べたくなります
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ