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退役魔法騎士は辺境で宿屋を営業中  作者: ユーコ
楡の木荘の春と夏

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11.マスタード作り1

 小麦の収穫が終わったが、それですぐに小麦が食べられるわけではない。

 まず収穫した小麦を干すのだ。大体三週間くらい。


「……え?」

 それを聞いて私は驚愕した。

「そんなことするのか?」

 私は思わず教えてくれた町の少年、ジミーに尋ねた。

 ジミーは怪訝そうな顔でこっちを見上げる。

「リーディアさん、大人のくせにそんなの知らないのかよ」

 私は首を横に振った。

「知らない」

 常識なのか、それ?


 今日脱穀して明日には挽いて小麦粉にしてもらえるくらいの気分でいたが、そういうものではないようだ。

 麦刈りのやり方は事前に少年達からレクチャーを受けていたが、その先の工程は作業をしながら教えてもらうことになっていた。

 ちなみに今、我々は昨日収穫してとりあえず納屋に積んで置いた麦を干す作業をしている。

 納屋中に物干しみたいなものを設置し、麦穂をかけて干す。

 この家の広い納屋はこの作業のためのものらしい。

 麦刈りの翌日、大粒の雨が降っていたが、ジミーとノアは麦を干すためわざわざ町から来てくれた。

 外で干すと品質が悪くなったり、麦から芽が出てしまうことがあるそうだ。

 皆、家の中を頑張って片付けたり、ひさしを作ったりして収穫した小麦が雨などで濡れてしまわぬように工夫する。


「なんで麦を干すんだ?」

 とジミーに聞くと、ジミーは首をかしげた。

「さあ、しらねぇ」

 知らないらしいが、作業の手は早い。パッパッと手際よく麦を干している。

 そんな我々にノアが教えてくれた。

「水分を抜かないと上手く脱穀出来ないからだよ」

「ふうん、そうなんだ」

「ノアは物知りだな」

 私とジミーは感心した。


 三週間干して水分が抜けたところで、次に小麦粒を穂から取り離す脱穀する。

 だがこれで作業は終了ではない。

「脱穀して玄麦にした後も乾燥させるんだ。そうすると次の年まで保つんだって」

 またしてもノアが教えてくれた。

 きちんと水分を抜かないと、カビたりするようだ。

 なるほど、保存のためか。


「次の年の収穫まで保存出来ないと困るもんなぁ」



 既に前年の小麦の種まきの時、先の住人達は農業の規模を縮小していたので、我が家の今年の小麦の収穫は並の農家より少ないはずだ。

 それでもすべての麦を干すのに三人で一日がかりだった。






 ***


 二人にお風呂をすすめて、その間私は料理を用意する。

 メニューはチーズフォンデュだ。

 材料はチーズに小麦粉、オリーブオイル、ミルク。

 粗くすりおろしたチーズと小麦粉をよく混ぜ合わせ、鍋に大人なら白ワインだが、ノア達と食べるのでミルクを入れ弱火で温める。そこにオリーブオイルと先ほどのチーズと小麦粉を入れてチーズが溶けたら出来上がりだ。

 具にするのは蒸した野菜ときのこ、ベーコン、そしてパン。手早く作れるので、こんな忙しい日はありがたい。


 二人が風呂から上がり戻ってきた時、ちょうどチーズフォンデュも出来上がった。

「はー、やれやれ助かったよ。どうぞ、二人ともお疲れ様。たっぷり食べてくれ」

「うわっ、旨そうな匂いがする!」

「おいしそう」

 重労働で二人は少し疲れた様子だったが、チーズフォンデュを見ると途端に笑顔になる。


 皆でもりもりと食べなから、語るのはやはり農業のことだ。


「じゃあさあ、リーディアさん、アレ、五日後でいい?」

 ジミーがそう尋ねる。

「うん、頼む」

 雨がやみ、二日続けて晴天が続いた次の日に私達はここに集結する。一応五日後に設定したが、条件が揃わなければ雨天順延だ。

 アレの収穫は晴れてないと駄目らしい。


「いつもの奴だけじゃなくて、来たい奴は連れてきていい?」

 ジミーはお調子者だが、少年達のリーダーでもある。調整はお手のものだ。

「いいぞ、たくさんあるからね。皆でやろう」




「ありがとう! リーディアさん、またね」

「ありがとう。おやすみなさい」

「はい、二人とも今日はどうもありがとう。おやすみなさい」


 二人を馬車で町まで送り届け、私も長い一日を終えた。







 ***


 引っ越し後、毎日の仕事は多々あれど、現役騎士時代に比べればまったり過ごしてきた私だが、ここのところはすごく忙しい。

 小麦に加え、夏野菜も収穫の時を迎えたのだ。


 夏になり、気温が高くなると育てていたトマトが一斉に熟れ出した。

 山裾の我が家は夏の訪れも少し遅く、先に収穫が始まった周辺の人々から「トマトが採れて採れて」とお裾分けを頂いていた。ありがたいが、ちょっとうらやましくもあった。

 私も「いやぁ、トマトが採れて採れて」と言ってみたいと常々思っていたが、実際にその立場になるとこんなに採れるものかと驚いた。

 トマトは私がここに越してきてから苗をゆずってもらい、自分で植えたものだ。

 欲張ってたくさん植えた苗は、いっぺんに実を付けたのである。


 トマトサラダ、トマトスープ、ブルスケッタ、カプレーゼ、トマトパスタ、ミネストローネとトマト料理を楽しんだが、さすがに飽きてきた。消費しきれない分は、保存することにした。

 まずはドライトマト。

 薄切りにしたトマトをオーブンで焦がさないように一時間ほど低温で焼く。さらに風通しの良い場所で完全に乾かすと出来上がり。

 上手く水分を抜いたドライトマトは一年以上保つらしい。


 次はケチャップ作り。

 一番のポイントは、熟れすぎなくらい赤くなったトマトを選ぶことだ。

 みじん切りにしたトマトを2/3量になるまで中火で煮詰め、濾し器で濾す。

 すりおろした玉葱とニンニク、お好みで唐辛子を入れて弱火でじっくり煮詰めた後、濾したトマトと酢、砂糖、塩胡椒、シナモン、オレガノ、ローリエなどのハーブを加え、汁気が半分になるまで煮詰めると出来上がり。

 瓶と蓋をぐらぐらと十分ほど煮てしっかり煮沸。ケチャップを詰めた後、また瓶を十分ほど煮て空気を抜く。こうしておけば長期保存出来る。


 出来上がったケチャップは、オムレツの上にかけて試食した。初めてにしてはこれは上出来ではないだろうか。

「ふむ、悪くないな」


「ああ、悪くない」

「うん」

「おいしい」


 ブラウニー達も一緒に試食したが、彼らの評価も上々だ。




 そして、数日後。

「リーディアさん、来たよ!」

「マスタード作ろうぜ!」

「よし、やろう」


 晴天の日に、少年達は再び我が家にやってきた。

 マスタード作りが始まった。


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― 新着の感想 ―
トマトよりヤバいのがキュウリですね。アレは畑に放置すると、(巨大化するだけならまだしも)熟れて食べられなくなるので。普通は、熟れたら美味しくなるものなのに、熟れたら食べられなくなるなんて……
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