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1日目終了

「お前、お前、帰ってきてたのか!?」

「あ、ああ、だからそんなにくっついてくるなって……おいどこ手入れてんだ!!」

「いいだろ別に!!久しぶりなんだから!!!減るモンでなむぐゥッ!!?」



 再びの邂逅を原因に興奮し、白野にベタつく冥王ラヴィ。

 その行為をラヴィの首根っこを思いっきり引っ張ることで止めたのは、どこか冷めた目でラヴィを睨むレイヤであった。

 当然、ベタつくのを止められたラヴィはレイヤに対して激怒する。



「何をする!!レイヤ!!」

「我が主にそうベタベタベタとくっつかないでください。……我が主が貴方と言う成分で穢れますので」

「本音が出てるぞ!おい!!」

「五月蝿い方ですね。静かにできないんでしょうか」

「このメイド風情め……」



 取り出したハンカチで手を拭きつつも未だ冷めた目でラヴィを睨むレイヤ。

 そのレイヤをギリギリと歯を噛み締めながら睨むラヴィを横目に白野は考えに耽っていた。



(あの程度で苦戦するレベルの主神が何故あそこまでに粋がったんだ?……そして、あの最後の余裕、俺にも通用する隠し玉でもあったか?……一体何だ?)



 最後に襲撃者が見せた余裕そうな笑みとギラついた目。

 あれは自らの勝利を確信していたものであった。

 そしてあの状況での襲撃者の勝利条件は白野からの完全な逃走。

 つまりは襲撃者は、あの時点で最終的な勝利を、あの場からの逃走が成功する、という何かしらの確信があったということ。



(俺に本能的危機感を一瞬でも味あわせる、神殺しに通ずる何か隠し玉が……)



 と、そこまで考えたところで横から声がした。



「お、おい!」

「……ん?」

「お前も、お前もレイヤに何か一言ぶつけてくれぇ!」

「……これは、どう見ても、やりすぎだろ……レイヤ」



 白野が考えに耽っている間に数々の多彩な舌技でボロクソに、それも反撃を許されないほどの連射力で、翻弄されたのであろう、涙目でこちらに訴えてくる冥王の姿がそこにはあった。

 ラヴィはその性格こそ残念である部分は存在するが、これでも見た目は妖艶な美女である。

 その妖艶な美女たる彼女が涙目で訴え続けてくる。

 やりすぎだろレイヤ、と若干汗を浮かべる白野にラヴィは縋り付く。

 涙目の美女とはいかにも男心を擽られるものなのだが……。



「頼む、何かぁ、言い返して、くれ」

「そんなマジ泣き3秒前みたいな顔で訴えられてもなあ……レイヤには筋の通ったことしか通じないし、言い負かすのは至難の業だしなー」

「当たり前です」

「……たまに筋が通ってても通じない時とかがあるけど」



 その白野の台詞には顔を背けるレイヤ。

 完璧メイドたるレイヤもやっぱり白野には弱いのだ。

 ちなみに冥王たるラヴィが素を晒したり、甘えたりするのも白野だけであったりする。



「ったく、どうしょうもない奴らだな……」

「これからどうするおつもりで?」

「……もうそろそろ帰ろうと思うんだがなあ」

「もう帰るのか!?」



 もう帰るということを知って未だに泣きそうな顔のラヴィが大声を上げる。

 本来、白野は少し話して帰ることを予定としていた。

 だが、予想外の戦闘に想定以上の時間を食われてしまった為にそろそろ御暇しようかと思っていた。



「まあ、こっちにも用事があるしなー。それより近衛やらは全員死んでるし、城は燃えてるしだが……大丈夫なのか?」

「ズズッ、それは心配ない。近衛兵達や補佐官達は程なく魂の修復が終わって復活するだろうし、壊れてしまった城は大量の腕のいい大工達の魂でも大量に呼び寄せて三日三晩、徹夜でもさせれば十分だろう」

「……鬼だなお前」



 そう、この程度の些事は冥王の権能をフルに使えば本当にたいしたことはないのだ。

 冥王直属の配下は死んでしまったとしても、その魂が自動的に修復され次第復活するため消滅することはない。

 冥王よりも上の力を持つ者に殺された場合を別として、だが。

 先程の襲撃してきていた神は確かに衰弱していた今現在のラヴィよりも力が上に位置する神ではあったが、配下はあの襲撃者の側近らしき存在に消し飛ばされている。

 その側近も主たる襲撃者の離脱と同時にその存在をこの城内から感じ取れなくなっていた。

 おそらく、同様に離脱したのだろう。

 その側近は衰弱していた冥王よりも力が下であったため、不幸中の幸いと言うべきか、側近達はその自らの魂を消滅させるようなことは無かった。

 しかしながらも、ラヴィよりも弱いとはいえ、冥王の精鋭たる配下達よりも強い側近を相手は数多く持っている、と言うことが判明したわけだ。

 今後とも、油断はできない状況にある、といったところであろうか。

 ……ラヴィに呼び出されるであろう大工達に至っては天災にでも遭ったとして泣き寝入りしてもらうほかに無いだろう。



「……リヴ様の御処へは赴かれないので?」

「ああ、残念だが時間が無いし。またの機会にしよう」

「わかりました。それでは、王城へと戻りましょうか」



 白野の返事に対してどこか嬉しげな表情のレイヤはいつもより早い速度で地に魔法陣を、転移の術式を広げていく。



「お前達、王城って……白領域に帰るんじゃないのか?」

「ああ、ま、いろいろあってな」



 どこか不自然な白野の返事に目を細めて首をかしげるラヴィ



(敵地ど真ん中の人類の王城に召喚されちゃったよー……なんてばれたら心配されるし、黙ってても……いいよな?いいよな?俺、悪くないよな?)



 と、数秒で頭の中で結論付けた白野は黙って両手をひらひらと振ってさよならをすることにした。

 手を振る白野に何かに勘付いたのかラヴィはこちらに駆け寄ってくる。



「おい!もしかしてお前達どこかの王城にッ」



 ラヴィの言葉が唐突に途切れた、と思ったら既にラヴィの姿はどこにも無く、人類の王城の中でも白野に割り当てられていた部屋に立っていた。

 きっとこれ、たぶん、いや、確実に……レイヤのわざとである。



「ったく、相変わらず仲が悪いようで安心した……こっちは疲れるけど」

「……もうお休みなさいますか?」

「……ノーリアクションなのね」



 あくまでもこの話題には触れない、という態度のレイヤに対して白野は苦笑する。

 そして自身はベッドに潜り込んでレイヤに声をかける。



「ああ、いい夢を」

「お休みなさいませ」



 レイヤは大の字でベッドに潜り込んだ白野にお辞儀をする。

 そして部屋の明かりの役割をしていた照明魔具の発光を止めると真暗な室内より、静かに別の異空間へと退室した。

 そして、白野にとって異世界へ帰還後のようやくの1日目を終えることになる。

本来、白野は明るい性格なんだけどその機会を生かす場面はまだ来ないのでこのままキャラが無口クールな影薄いマンになることが怖いのです。

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