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93話 勇敢






「ロイズ先生………あの………」


「ん?」


「フェリナ先生とは親しいんですか?」


「んーまぁあいつが新任のときはよく飲み行ったりして愚痴を聞いてたなー」


「最近は行かないんですか?」


「ん?あー、最近はないな。あいつは光魔法と火魔法の適性があって結構才能あるんだがなー昔はなよなよしてて………生徒にどう向き合えばいいかっていつも………」


「先生………光魔法と火魔法の適性しかないんですか?フェリナ先生って」


「あぁ………ない…………ん?」


「え、でも、フェリナ先生って闇魔法の先生じゃ?」




 その会話にルフリアが首を傾げた。

が、ロイズも首を傾げている。




「この書類見比べてみて下さい」


「……」


「行方不明事件があった時必ず寮に待機していたのがフェリナ先生です。なぜ、フェリナ先生を不審に感じなかったのです?」


「………なに……」




 ロイズはアルスに言われて書類を見比べる。

確かに一昨日のマナリノの時も他の行方不明の時も毎回フェリナが寮にいる。

ロイズはそれを見てごくりと唾を飲んだ。




「光魔法と火魔法の適性しかないはずのフェリナ先生が闇魔法の先生になってるのも変ですよね?」


「………あぁ………いや、なんで」




 適性は先天的なもので基本的に変わらないとされている。

なのにフェリナは闇魔法の先生を務めている。




「ロイズ先生……」


「待て………ちょっと考えさせてくれ」




 ロイズは黙り込んで何かを考えている。




「フェリナは………ベジタリアンだった」


「え?」


「創造神様を信仰している信徒であり、動物を食すことを禁じていた………はずだ。だが、最近のやつは………肉を食べていた」


「………」


「あいつは、光魔法と火魔法にしか適性がなかった。が、その2つで類稀なる才能があり学園に赴任したと言っていた………なのに闇魔法が使える。そもそも最近あいつが光魔法や火魔法を使っているのを一度も見ていない………」




 ロイズはアルスを見つめた。




「あいつは………誰だ」

















 慌ててポリオ達を探す為に寮を出た。

通り掛かった人に聞いても場所は掴めない。

ポリオ達が危険なことになっている可能性が高い。




「クソッ………なんで俺は気付かなかった」


「先生だけじゃないです。他の人もです。何かの魔法でしょうか………考えられるのは洗脳………」


「学園の全員にか?」


「わかりませんが、一番妥当です」


「フェリナ自体が隠していたのか………それとも…」


「どちらにしてもかなり黒に近いですね。とりあえず探しましょう」
















「ガハッ………」




 口から血を流すミーナ。

それをフェリナは不敵な笑みで見つめていた。

攻防は経験の差でフェリナに軍配が上がっていた。

いくら才能があろうとミーナは本気の死線を潜ったことはない。




「ミーナさん!!」


「下がって!!………こいつ、やばい」


「教師をこいつ呼ばわりですか?いけない子ですね」


「教師が生徒を殺そうとするほうが問題でしょ!」




 口ではまだ勢いがあるミーナだが、勝ち目がないのは後ろから見ているポリオにも分かっていた。




「闇よ………彼の者の視界を奪い、暗黒に引きずり込みなさい!!!」


「なっ!?」




 ミーナが周りをキョロキョロと見渡す。

が、ポリオから見ればフェリナはピクリとも動いていない。

視界が………奪われた?




「さぁ、あなたの死ぬ時間になったみたいね」




 フェリナが魔力を高める。

身体から溢れる黒い靄が死の気配をばら撒いていた。

ポリオは生唾を飲む。

“僕に何が出来るのだろうか…”

でも、それでもポリオは何も考えずミーナの前に立った。




「あらあら………魔法も使えないドワーフの王子が………その子を守れると?」


「守れるかどうかじゃない。守りたいかどうかだ」


「ふふっ………格好いいじゃない……王子様」




 ポリオは目をフェリナから外さずに集中した。

何度も何度もアルスと練習した。

そして、最近新たに右腕に風魔法も刻んだ。

使える魔法は二系統。

相手は魔法を使えないと思っている。

一瞬、相手がそれを理解して動き出すまでの一瞬で倒さなければ勝つことは出来ない。




 ポリオはフェリナに向かって走った。

武器があるわけでもなく、はたから見れば捨て身の特攻。

フェリナはそれを見て鼻で笑った。




「フンッ あなた自殺願望でもあるのかしら?」


「うるさい!!」




 ポリオは走り………そして跳躍する。

その行動にもフェリナは嘲笑う顔を向ける。

魔法も使えないドワーフが素手で特攻?しかもなんで跳んだの?阿呆なのかしら?



 しかし、跳んだ空中でポリオは両手をフェリナに向けている。

何事かと訝しむフェリナ。



 そもそも、ポリオも火魔法と風魔法の複合には成功していない。

だが威力を考えればそれしか勝ち目がない事はわかっている。




「頼む…………成功してくれ」




 ポリオの両腕が光りだした。

そして、その腕に魔力が集まっていく。




「え?それは……」




 フェリナが呆気にとられるなか、ポリオの起死回生一撃が確かに放たれようとしていた。




「風よ………砲台となり火を包み、火よ………風を纏い炎となり敵を射抜け!!!!!火炎砲!!!!!」


「なっ…………!?」








ドガーーーーーーーーンッッッ!!!






 凄まじい威力の砲撃がフェリナを襲う。

まさかポリオが魔法を使うなど思ってもなかったフェリナにその魔法は直撃した。






 凄まじい土煙を拭き上げ、吹き飛ぶその光景にポリオ自身が困惑していた。

成功した余韻を感じながら、しかし敵の姿が見えるまで見つめ続ける。



 ミーナの掛かっていた魔法も消え、突如眼の前で爆炎と爆風が起こった事に驚愕している。

が、前を見ればポリオが居てそれをポリオが成したと理解した。

魔法を使うことが不可能と言われていたドワーフでありながら、アルスと共に新たな道を模索しそしてそれを叶えた少年。

その叶わないはずの希望が、ちゃんと形となって敵を襲っていた。




「す、凄い………」


「僕も驚いてる……」




 後ろから聞こえてきた声にポリオは安堵し、そしてその感想に苦笑する。

彼自身驚きである。

なんという威力なんだろう。

さすがはアルスが教えてくれた魔法である。




 後ろを振り返って困惑した顔のポリオ。

それを見て、ミーナも苦笑した。




 が、ミーナの目はすぐに驚愕に変わりごくりと唾を飲み込む。




 いつの間にか現れたフェリナが後ろを向いたポリオに肉薄し、そして先程まではなかったはずの手に握られた剣がポリオの腹を突き抜けていた。




「………ガハッッッ」


「驚いた。魔法が使えるドワーフ………それは予想外」


 


 剣を引き抜くフェリナはとても驚いたという顔をしている。

が、その身体に怪我はなかった。

 



「でも、そんなんじゃ私には通用しないよ………ごめんね大人気なくて」


「………くそ………」




 剣を引き抜いてから少し下がったフェリナをポリオが睨みつける。

強すぎる………あれで無傷?



 それでもポリオは倒れない。

腹部から滴る血液を感じながらも、後ろには同じく怪我をしているミーナ。

ここで引くわけにはいかない。




「あら、勇敢ね………でも、勇敢と無謀は紙一重よ?」




 フェリナが剣を振り上げる。

その刃が天から差し込む光に照らされてキラリと光った。

ポリオは“あぁーここで死ぬのか”と少し冷静に思っていた。

夢であった魔法を使えるようになって、ここからもっとアルスと研究を続けたかった。

前までは一人ぼっちだったけど、今は友人が居てその心地良い空間が続いてほしかった。




 でも、親友だと思っているアルスに………

ここで、ミーナを見捨てたら顔向けできない。




「ごめん………アルスくん。でも、僕は最後は勇敢に死にたい!!」




 ポリオはこの場にいないアルスにそう言葉を残し、魔力を高める。

どうせ死ぬのなら最後まで足掻こう。




 ふらつく足、身体の傷、口から滴る血液、それでもミーナも動こうとした。

このままではポリオが死んでしまう。








 二人が死を覚悟しながらも、仲間を助けようと動き出す。

それは、まるで物語の1ページのような。

とても勇敢で、とても尊い、瞬間だった。












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