91話 調査
次の日は学園内を2チームに分けて捜索する事になった。
チーム分けはアルス、ルフリア、ロイズとポリオ、ミーナ、フェリナである。
グーとパーで分かれたわけだが、この世界でもその分け方あるんだ……とアルスは内心思っていた。
「で、今日はどこを探すんだ?」
「やっぱり寮ですかね………一番怪しい」
ロイズの質問にアルスが答える。
アルスは今日も寮を探すつもりだった。
「いや、でも昨日何もなかったぞ」
「………んー」
思案しながらも足は寮に向けている。
ルフリアは黙ってついてきていた。
「寮であと探していないのは………」
「寮母さんの部屋と、職員が臨時で泊まる部屋か………」
「職員の部屋………ロイズ先生も泊まったことあります?」
「もちろんあるぞ。変なところはなかった………はずだ」
寮母さんに許可を取って先に寮母さんの部屋を調べさせてもらった。
「何もないですね……」
寮母さんの部屋は四畳半の寝る部屋という感じで、ベッドと本棚や小さい机しかない簡素なものだった。
特にこれといって変なところはない。
「ありがとうございました。次は先生達用の部屋行きますか」
「いーえ、でも本当に寮に何かあるのかねー」
「わからないです…」
寮母さんも捜査には前向きで、色々教えてくれるがやはり変なところはないという。
アルス達三人は寮母さんの部屋から少し離れた場所にある先生達の待機部屋に向かう。
中は寮母さんの部屋と殆ど変わりがない。
のだが………アルスはすぐに違和感を感じた。
「ん?………なんだろ」
しかし何が変なのかはよく分からない。
「いや、待て………ロイズ先生。」
「ん?」
「なぜこの部屋は防音の魔法が掛けられてるのですか?」
「え?」
「私には分かりませんわ………」
「俺にも分からないが、そうなのか?」
「はい………。ん、これは魔導具………?」
アルスは隅々まで部屋を見て1つの置物に目を向けた。
よくある木彫りの熊である。
「前はこんなものなかったな」
「この木彫りの熊………魔導具ですね防音の」
「いや…この部屋に防音魔法なんて聞いたこと無いぞ」
「………ここに泊まる先生は決まっているのですか?」
「前までは交代制だったが、今は数人しか泊まってないな。周りに軍の兵士達が警邏してるから我々が居てもあまり変わりないからな」
「なるほど………先生ちょっと最近この部屋に泊まった先生方の表みたいなの持ってこれます?」
「あー、確か教官室にあったな。わかった。取ってくる」
部屋を出ていくロイズ。
アルスはさらに隈なく部屋を探っていく。
「あのー、殿下。犯人はもしかして学園の先生なのでしょうか?」
「可能性は高いな……生徒に警戒されない上に寮の中にも入れるしな。それにこの部屋は防音………外には声も漏れない。」
「なるほど…」
「もう少し見てみよう」
アルスは壁を叩いて耳を当てたり、床も調べている。
ルフリアは部屋にあるモノを物色している。
「ん………」
「どうしたのです?」
「ここ…音が違う」
「え?」
ベッドをどかして床を調べていたアルスがルフリアを手招きする。
そして床を叩く。
他の場所はコンコンッと同じ音、なのに確かにアルスが訝しんだ所はコーンッコーンッと少し響いた音がする。
「中に空洞があるな………」
「隠し部屋………?でしょうか?」
「わからん………そもそも開け方が……」
その音が響く場所を叩きながら調べていくとどうやらその空洞は1メートル四方の正方形である事が分かった。
が、周りを触っても押してもそこが開く気配はしない。
「持ってきたぞ!」
そこにロイズが現れた。
手にはなにやら書類を抱えている。
「あ、ありがとうございます。とりあえずそれを確認しよう。ルフリアこっち頼めるか?」
「分かりました!」
「ん?なんかあったのか?」
「床の下に空洞があります。多分地下に繋がってるかと………ただ開け方が不明です」
「んじゃ……俺も手伝う」
ルフリアとロイズに床は任せてアルスは移動したベッドに腰掛け書類に目を向ける。
直近の寮で待機していた先生のリストである。
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○月○日 ✕
○月○日 ✕
○月○日 フェリナ
○月○日 ルース
・
・
・
・
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なるほど………誰もいない日には✕と書かれているのか。
ん………………?
「ロイズ先生もう一回だけ用事任せてもいいです?」
「………今度はなんだ?」
「生徒が行方不明になった日を把握できるものはありますか?」
「ああ、業務日報を見れば分かるぞ」
「では、お願いします」
「………俺はパシリか。はぁ~まぁいいすぐ持ってくる」
再びロイズ部屋を出ていく。
アルスは改めて書類を見つめる。
「あ、開いた!!開きましたわ!殿下」
「え?」
「ここを少し押したら開きましたわ」
「凄いなルフリア」
「ふふ」
確かに床が開いていた。
中を覗くと階段が見える。
やはり地下は存在したようだ。
「とりあえずロイズ先生を待とう」
「分かりましたわ!それより何を調べているんです?」
「ここにやはり地下の隠し通路か隠し部屋が存在したなら……間違えなく犯人に繋がる情報だよ。とりあえずロイズ先生の書類を待とう」
しばらくして“はぁはぁ”と急いだのか肩を揺らしながらロイズが入ってきた。
手にはアルスが頼んだ書類である。
「持ってきたぞ…………って、開いたのか?」
「ルフリアが開けました!」
「おいおい………まじで地下に繋がる階段が………」
「先に下見に行きますか」
先頭にロイズ、真ん中にアルス、一番後ろにルフリアの順で地下に向かう階段を進む。
中は本来真っ暗だったがアルスが光魔法で照らしているのでかなり明るい。
「拓けたな………って」
「ロイズ先生………」
階段を降りた先には割と広い空間があった。
そして、アルスの想像通り………
「やっぱり転移魔法陣ですね」
部屋の真ん中の床に幾何学に描かれた術式は転移の魔法陣だった。
アルスは本で読んでそれを知っている。
が、この魔法陣は基本的には一人では扱えないとされている。
膨大な魔力が必要だからだ。
「………んー………なるほど」
「なんかわかるのか?」
「これはこっちから起動させるものじゃないです」
「それはどういう……」
「多分向こう側に何人かの魔導師が居て、その者らが起動させて、こちら側から向こうに行けるようになる………っていう感じですね」
「見ただけでそこまで分かるのか?」
「起動の陣が刻まれてないんで……多分あっち側で起動すればどちらからでも移動できるように作られています。」
「行き先まではわからないか?」
「さすがにそれは……」
「でも、逃げた方法はわかったな。で、こっちから起動させるのも無理なのか?」
「…………不可能ではないですが、時間は掛かりますね。そもそもこっちから起動させるつもりがあって作ったわけではないはずなので。その間に気付かれてあちらの魔法陣を破壊されたらもう無理ですね」
「なるほど………」
「あ、先生………さっきの書類貸してください」
「お、おう」
一旦階段を上がって部屋の中でまたアルスはベッドに腰掛けて書類を見る。
新たな書類と先程まで見ていた書類を見比べているようだった。
ロイズとルフリアは黙ってそれを見つめる。
しばらく黙っていたアルスは、一度書類を自分の横に置き思案顔で天井を向く。
「ロイズ先生………あの……」
そしてロイズに質問した。
その質問を聞いてロイズは不思議そうに首を傾げたのであった。




