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65話 岩石鎧





 少し離れた場所に移り、相対するガイゼンと黒仮面の少年。




 ガイゼンはハイヒューマンとなった自身の力を存分に試せるなと不敵に笑っていた。

そもそも巨人とのハーフであるガイゼンは他の人族より身体能力面ではかなり高かった。

が、創造神の力によりハイヒューマンとなったガイゼンは持ち前の巨人の血も相まって凄まじいポテンシャルを得ていた。




 2メートル以上の大柄だったガイゼンはすでに身の丈4メートル程に成長している。

身体も筋骨隆々であり、赤髪赤目ということもあり鬼のようだとアルスにからかわれていた。

だが、ガイゼンは今のこの身体を気に入っている。

主を守る盾にも、武器にもなる自身の身体。

鍛えれば鍛えるだけ以前より成長する加護。

あぁ自分は恵まれている。

そう感じざるを得なかった。





 身体強化によってさらに筋肉量が増しミシミシと鎧が軋むガイゼンを見て、黒仮面の少年はゴクリとつばを飲む。

先程仲間の一人が一瞬で葬られた後だというのも恐怖の対象であった。

が、この目の前の男は何者なのだろうか?巨人?明らかに人の身体ではない。




「さぁ、始めよう坊主」

「俺は………子供じゃない」

「……へっ。そうか」

「殺してやるよ……」 




 少年が双剣を構える。

邪神の使徒で転生者である少年はそもそもの魔力量が多かった。

そして、前世のゲーム知識もある。

ただ足りないのは実践経験だろう。

それが、ガイゼンとの戦いにおいては致命的な問題なのだが。




 少年は自身に俊敏強化、身体強化などを掛け火弾をガイゼンに放ちながら右に左に蛇行しながら進む。

その速度は一般的に見て明らかに凄まじい速度であったが、しかし大魔帝国で魔族と訓練を重ね、ハイヒューマンに進化したガイゼンには遅いとすら感じる動きであった。




「使徒といっても所詮子供だな」



 ガイゼンは実践経験が明らかにない少年に少しばかり罪悪感を覚えながら、自身と同じくらいの大きさの大斧を木の棒でも振るうかのように軽々と振るう。




ドッッズバーーーーンッッッ!!!




 吹き飛ぶ少年は巨人は遅いという認識を改めた。

自分が知ってるゲームの巨人ではない。

あんな速度で動けるなんて……


 そして、攻撃の重さにも驚愕した。

すでに腹部から大量の血が流れ吹き飛んだ事によってかなりの骨が折れてるのがわかる。


 なんだよ……クソッッ

使徒だぞ??俺は!!!!

と歯噛みするが、しかしまだ少年は諦めていない。

自分には神から貰った敗戦の勇者という固有スキルがある。

攻撃は喰らえば喰らうだけいい。




 致命傷を与えたと思ったガイゼンは血を流しながらも諦めた感じではなく普通に立ち上がる少年に違和感を感じた。



 再び斬り掛かってくる少年、先程よりも速度が速い。

普通なら怪我を負って寧ろ遅くなるはずなのだが。

しかし、ガイゼンはそれを難なくかわして斧で袈裟斬りにする。



「グウッッ」



 少年は呻いて膝をつく。

が、その口元には笑顔が浮かぶ。

ガイゼンはやはり変だなと感じるが正体はわからない。



 少年がムクリとまた立ち上がる。

そして動き出したその速度は明らかに先程までとは別人だった。




「どういう手品だ?」

「ふふふ これは俺のスキルですよ。」




 ダメージを負うごとに強化されるスキルか?

やっかいだなー、とガイゼンはため息をつく。




 どんどん速くそして精度を増していく少年の攻撃が僅かながらガイゼンに傷を負わせ始める。



「ほらほらーどんどんいくよー」

「るせぇな……」



 

 このままいけば勝てるな。

と少年は内心ほくそ笑む。

しかし、ガイゼンからいきなり魔力が溢れ出す。

そしてガイゼンの周りに岩が次々に現れガイゼンを中心に回転していく。



 魔法攻撃?と訝しむ少年。



 これはガイゼンがハイヒューマンとなり新しく得た力である。

どんどん量を増していく岩石は次第にガイゼンに引き寄せられ岩巨人とでもゆうべきフォルムに変えていく。

その岩はただの岩ではなく魔法で生み出した金属よりも硬い頑丈な岩である。

岩石の鎧を纏ったガイゼンはふた回りほど大柄になり、身の丈も巨大化していた。

これがガイゼンの新たな力、固有魔法[岩石鎧]である。










  少年はその恐ろしいほどの防御力に驚いていた。

袈裟斬りも、左右からの攻撃も、魔法攻撃も斬撃も、全てが通じない。

普段ならここまでスキルの力が効いていたら間違いなく相手に致命傷を与えられる。

が、眼の前の岩石巨人となった男には一切攻撃が通じない。

それどころかその巨体からは想像もできないような速度での攻撃は自身の身体に明らかな致命傷を与えてきていた。



 喰らえば喰らうだけ強くなる。

が、不死身ではない。

このままこれが続けば死ぬのは目に見えていた。





 少し離れた場所では共に転生してきた少女が明らかに力負けしているのが分かる。

俺等は神から力を与えられた使徒で、世界最強だと自負していた。

現に今まで負けそうだと感じたことはなかった。

だが、この今相手にしている敵達は明らかに常軌を逸した力の持ち主だ。



 最初に仲間を一瞬で葬った者も見掛けでは大した巨体でも無いにも関わらず、強さの底が全く見えなかった。

自分が虎だと勘違いした猫であるとすれば、眼の前の相手は象で、あの最初の人はドラゴンだ。

あんなのに勝てるわけがない。



 少年はゲームのような異世界に嬉々としていた。

異世界で無双!!と使徒の力でゲームの敵を倒すように命を奪ってきた。

たが、ここにきて初めて自分の死を感じてここはゲームなんかじゃないと実感した。



 身体から吹き出す血。

限界を超えてすでに立つことも出来ない身体に焦りを超えた恐怖を感じる。

あぁ俺等はここで死ぬ。

そう思うのは、数分先の未来の話なのだろう。















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