58話 長閑な休日とは!?
すでに栄えていた魔国は、俺が内政に関わりだしてからさらに発展を遂げ、現在帝国は産業の発展が凄まじい。
その中でも帝都は城下町ということもありかなりの賑わいを見せている。
「兄上〜、これ買ったほうがいいと思います!!」
帝都の露店の前でニコニコしながら、カチューシャのようなものを俺に見せてくるメル。
買ってほしいのだろう。
「あぁ、そうだな。メルにとても似合うと思うぞ…。じゃあおじさんこれください」
「はいよ〜」
露天のおじさんは俺が皇太子で、メルがその妹であり、そのそばにいるのが皇太子直属の軍 蒼天の総帥だとは理解していないだろうが、市民からすればかなり高価なそのカチューシャを当たり前に買ってあげる俺を見て良客だと思ったのか営業スマイルが1割増しになっていた。
「え?兄上……これはローナさんに…と思ったのですが」
「え?私…ですか?」
ぽかんとするメルと、それを聞いてぽかんとするローナ。
どうやら我が妹はローナにこれを買ってあげてほしかったようだ。
「そうか……ならおじさん、こっちの似てる造りのやつも一つちょうだい」
「まいど〜」
可愛い妹の頼みでもあるので俺は二人にカチューシャをプレゼントすることにした。
銀製のそれはおしゃれな模様が刻まれさらにはキラキラとしたなにかの鉱石が散りばめられている。
ピンク系統の鉱石の方はメルに、青系統の方をローナに手渡す。
「有難う……兄上」
「私もよろしいのですか?」
「もちろん。ほら二人とも…付けてみて」
俺がそう言うと二人はカチューシャをつけた。
メルはひらひらの白いワンピース、ローナも私服でゆったりめのふわふわした白シャツにパンツ姿…その二人にカチューシャはとても似合っていた。
「わっ、ローナさん可愛い!!」
「なっ!?メル様もとても似合ってますよ」
「どうですか?兄上」
「あぁ、二人とも似合ってるよ」
ふふふとニヤニヤしてクネクネしているメルと、満更でもない感じで顔を赤くするローナ。
どうやら二人とも気に入ってくれたようだ。
こうしてみると、魔族と人族とはいえメルとローナはやはり似ている。
成長しメルの身長が伸びたのもあり、背丈も同じくらいで同じ金髪に、透き通るようなブルーの瞳。
姉妹と言っても皆が信じそうだ。
ただまぁ隠せるとはいえ、魔帝国では関係ないためローナは翼は出していないが角を出している為そこだけは違うが。
ドーーーーーンッッ!!!ガシャーーーン!!!
街を歩いているとそんな騒々しい音が響き渡る。
人集りができているところに近寄ると、数人の大きな魔人と、狼系統の獣人が向かい合っていた。
獣人は少し口から血を流している。
「獣人風情が俺達魔族に舐めた口聞きやがって!!」
「何を言っている?俺が先に座っていた席を横取りしようとしたのはそっちじゃねえか」
どうやら喧嘩のようだが、話を聞く限り悪いのは魔人達だろう。
衛兵隊はまだ来ないか。
腰にある剣を抜いた魔人達、しかし獣人に武器はない。
ステータスを見る限り獣人も弱くはないが、人数の差もあり負ける……いや死ぬだろう。
「殿下……止めてきますか?」
「いや、俺が行こう」
制止をかけようとするローナと、不安がるメルをその場に待たせ俺はゆったりと歩き出した。
人集りの間を抜け、今にも戦闘が始まりそうな所に近寄る。
「威勢が良いのはいいが、ここは街中だ。辞めたほうがいい」
キリッと睨みを効かせ俺が魔人達にそう告げると、魔人達は今気付いたかのように俺を見る。
「なんだてめぇ。俺らに説教か?」
「殺すぞ…」
「先にこいつをやるか?」
いきり立つ魔人達。
「助っ人は助かるが、やめておくんだ。こいつらはまともじゃない…」
獣人が俺を心配して声をかけてくる。
が、こんな雑多な一般人など敵ではない。
「5秒くれてやる。そのあいだにここから去らなければ…」
「去らなければなんだ?」
「5…4…3…2…」
俺がカウントを始めるが、ここで収まらないのは明白だ。
現に2の時にはすでに魔人達はバッと俺に向かってきていた。
「危ない!!」
獣人が叫ぶ。
が、アルスにはすでに周りの音はほとんど聞こえていなかった。
一人目が斬りかかるその斬撃をアルスはふわりと躱す。
その男は目を見開くが、その時にはすでに次に来た男に肉薄し最小の動作で意識を刈り取る。
倒れる男が地面につく前に、次の男を見やる。
男はアルスに向かって剣を突きだすがそれが当たる訳がない。
突きを放つ動きを見つめながら、剣を持つ手を蹴り上げる。
宙に舞う剣が落ちるよりも先にアルスは予備動作なく男の鳩尾を内側に効くように殴りつけ意識を刈り取った。
そこで一呼吸…
シュシュッザザと後から音が追いかけてきて最初の男に振り返ると連れが何をされたのかも分からずゴクリと生唾を飲み込み後に一歩下がった。
「何者だ貴様…」
「俺が誰かなんてもう関係ないだろ?……だから立ち去れと言ったのに」
「クソックソッ……ウルァアアー!!」
男が奇声をあげながら剣を振り上げる。
が、その時にはすでにアルスは男の横に立っている。
そして、アルスの手は相手の顔面を掴んでいた。
この男は死なない程度にちゃんと痛めつけておこう。
アルスは男の顔を掴み、そして一瞬身体ごと持ち上げると……そのまま地面に叩きつけた。
手加減、そして多少だが頭部に防御魔法を施してあげたのはせめてもの情けだ。
いくら身体的に優れた魔族といえど普通にこれを喰らえば絶命は免れない。
ドゴンッッッ!!!!!
クレーターが出来、男は泡を吹いて気絶した。
身体の骨はボロボロだろうが死ぬ事はない…そんな程度の怪我をしているはずだ。
周囲を見渡すと野次馬達も獣人もシーンと黙り込んでいる。
一瞬の出来事に戸惑っているようだ。
アルスは遠くから警邏の衛兵隊が走って向かって来ているのを感じて、やれやれ…と苦笑する。
全く俺がいなかったら人一人死んでたぞ?
固まった状態の獣人に近寄ると、ハッとしたように獣人が土下座した。
それを見て次に固まるのは意味が分からないアルスだ。
「弟子にしてください!!」
「…は?」
目をパチパチと見開きながら戸惑うアルス。
「何を?」
「俺は帝国東の獣人の村から武者修行で来ています……ぜひ、あなたの弟子に!!」
「いや……そういうのはちょっと…」
引き気味のアルス。
そこに衛兵隊が駆け寄る。
「こ、これは…なにがあった?……なっ!?」
衛兵隊の男がアルスに声を掛け、そしてハッとして跪く。
何が起きたかは分からないが釣られて他の衛兵隊の者達も跪く。
「殿下のご尊顔を拝する事ができ恐悦至極に…」
「やめてくれ……今日はお忍びだ。とりあえずそこの倒れてる者らは無意味に人を殺そうとしていた。捕まえてちゃんと罪を償わせろ…で、被害者はこの人…あとは任せたよ」
「はっ!!!」
野次馬も土下座状態の獣人も何が起きたのか理解できない。
暴れる魔人達を目にも止まらぬ動きで制圧した青年、そして衛兵隊が来たかと思えばその青年に跪く。
ここまで衛兵隊が慌てて跪くということは皇家の……ということは…
そう感づかれる前にとアルスはその場から立ち去り、メルとローナの所に戻る。
「騒ぎが起きる前に行こっか」
「兄上…かっこいい」
「やりすぎ…ではないですね今回は。素晴らしい対処でした殿下」
それからメルの服を買いに行き、ついでにローナにもメルが選んだ服をプレゼントした。
そしてなぜか俺の服もメルとローナが選び、買ったほうがいい!と押し付けられた。
メルが選んだのは皇太子の私服にしては少しラフだがそれでも高価でかつ動きやすいもので、ローナが選んだのはTHEイケメン皇太子!!みたいな服だった。
後半は気に入ったかはさておきキラキラした目で見てくる二人を無視できずどっちも購入することになった。
そして、ついでに父上と母上、父さんと母さんにもお土産を何個か買って城に帰還する。
こうやってのどかな休日?を過ごすと、またあの地獄の修行に戻るのが少し嫌になるが……まぁ今後のためだと思って諦めるしかない。
さぁ……休みを謳歌しようではないか!
58話を読んで頂き有難う御座います!
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追伸
そろそろ戦いが始まる予感……ワクワク




