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50話 青鬼のゼン

コロナで仕事がバタバタしていた為に、遅くなりました。。

申し訳ないです。。





 その頃、エミリオ側も戦闘が始まっていた。

敵の隊長は、黄色い鬼の面を付けた多分風貌から女だろうと思われる金髪の魔人である。




 黄鬼は魔法を補助する杖を手に持ち凄まじい勢いで魔法攻撃を次々に放つが、しかしながらその魔法攻撃は一つとして相手の兵に当たることはなくエミリオの防御魔法によって相殺されていく。




「なかなか腕の立つ魔法使いのようですが…まだまだ技量と経験が足りませんね」




 普段のアルスにビクビクしているエミリオではなく、その戦場に立つエミリオは不敵な笑みを浮かべながら魔法補助具も使わず次々に

敵陣からの攻撃魔法を防御魔法を複数展開して防ぎ、さらにはそのまま同時に攻撃魔法も次々に放っている。




 エミリオ・アストラは魔帝国軍の中では若くして大成した人物である。

凄まじい魔法技術と、知略に長け、同期や先輩達をごぼう抜きして出世してきた生え抜き。

付いた異名は『爆撃王』。

無詠唱で次々に高威力魔法を放つ姿から敵味方問わずエミリオは爆撃王として恐れられてきた。




 そのエミリオにとってこんな魔法合戦など大した労力ではなかった。




「アストラ様…敵兵の殆どが壊滅、残すは敵の長とその周りの者らだけです」

「そうか…味方を下がらせろ。名前も聞けぬことは申し訳がないが、しかし我々に敵対した者には鉄槌をくださねばならん…それに魔力残量も少ない。ここで決める」

「はっ!!」





 エミリオが空に手をかざすと周囲一帯に魔力の風が吹く。

敵側は慌てて防御魔法を張り巡らすが、それをチラッと見てもエミリオは少し笑みを漏らすだけであった。

そしてそれから数瞬後、空に大きな隕石のようなものが現れる。





「さらばだ。名前も知らぬ敵の兵たちよ。スターダストレイン!!!!」





ドガーーーーーーーーーンッッッッ

ドガーーーーーーーーーンッッッッ

ドガーーーーーーーーーンッッッッ

ドガーーーーーーーーーンッッッッ

ドガーーーーーーーーーンッッッッ





 次々に降り注ぐ隕石にしては多少小ぶりなしかし対人だったらとてつもない大きさのソレが敵の魔法防壁を破壊しそして敵を爆散させていく。

その魔法が終わったときすでにそこには人の気配はなかった。





「アストラ様…やりすぎです」

「…たしかにやりすぎたようだ」

苦笑いする副官に、苦笑いを返すエミリオ。





「今の魔法、後で教えてくれ」

するといつの間にか現れたアルスがそう呟く。




「な、殿下!いつの間に…」

「今来たところだ。あちらの敵は壊滅したからそれの報告とこっちの確認にな」

「こちらも壊滅させたところです。」

「そのようだな。次は拠点を叩く予定だが、魔法を連発してたようだがすぐ動けるか?」

「魔力残量が…ほとんど」

「そうか…では待機しててくれ…と周りを警戒しててくれると助かる。拠点は我々で落とす」

「…できるのを確信なされているのですね。ではお願いします」

「おう。後であの魔法教えろよー」






 そう言ってアルスはその場から消え去る。






「やはりとんでもないお方ですね。あの方は」

「あぁ…まったく、この国は今後も安泰だ」

「そのようです」

歴戦の戦士である二人は、少し空を見つめ微笑んだ。










ーーーーーーーーーーーーーーー






 革命軍の拠点である廃城に待機していたもう一人の幹部、青鬼は袴のような出で立ちで腰に帯刀していた。

その男の下に偵察に行かせていた部下から報告がなされた。




「そうか…ベルドールとステアは敗れたか。さすがは帝国軍。だから拙者は最初からやめておくべきだとあれほど忠告したというのに…。まぁ乗りかかった船だ。拙者もここで散るとしよう」









 それから程なくして廃城は高位の魔法攻撃の嵐によって殆どが粉々に粉砕した。

青鬼は部下を引き連れ最後の戦いの為に敵に向かう。




 攻撃魔法を放つ集団の前まで出ると途端に魔法士達は攻撃を止め、下がっていく。

そして後方から現れたのは身軽な、されど高級そうな服をきた少年と呼べる年齢の男であった。




「拙者の名はゼン!!!革命軍最後の幹部にして、この拠点を任されている!」

大声でそう口上を上げると、少し離れたこちらを見やる少年が口元を歪めたのが見えた。



「拠点の長、ゼンか。つまるところやはりここに革命軍のトップはいない…やはりおとりか。まぁいい…あっちにはガゼフとロイド達も置いてきてるしな…」

少年はそう口にした…すでにこちらの本来の計画は悟られているようだ。

それに対しての驚きよりも、ゼンは強者と戦ってきた自分ですら理解に及ばぬ目の前の少年に冷や汗をかいた。




「すまない、名乗り忘れていた。我が名はアルス・シルバスタ=ベルゼビュート。大魔帝国の皇太子だ。」





 そう名乗りを上げた少年を見て、ゼンは納得した。

道理で…凄まじい存在感。

最後の最後でこんな舞台を用意してくれた神に感謝しよう。





 国を捨て、魔帝国に渡りそれから宛もなく死地を探していた自分が…この無謀な計画に加担し、そして最高の死地に出会う。

正しく運命だろう。





「皇太子殿下!!もし、叶うのなら…革命軍のトップである彼らの話を……せめて最後に聞いてあげてほしい」

それは最後にゼンが気にかけていた事だ。

ロキとロナは…世界が…黒く染めただけだ。




「あぁ、善処しよう」




 そう言った後、少年は消え去った。

文字通りそこから消えて、そして次の瞬間…拙者は上半身のない自分の下半身が立っているのを見上げた。




 あぁ我々はとんでもない相手に挑んでしまったんだな。

そう改めて理解した。

斬られた感触すらなかった。

あんなもの反応できるわけがない。




 少年が俺を見下ろしていた。

そして、小さく呟く。




「この場合、治せるのだろうか?」




 不思議なことを言っている…俺は最後の記憶としてそれを見つめた。



 少年の背中から純白に金がかかった大きな羽が生える。

なんと神々しいのだろうか。

神がこの死地を与えてくれたのではなく、神自ら拙者を殺しにきてくれたのだろうか。




「んじゃまぁ…実験の時間だ…」

少年がそうつぶやくとぶわーーっと温かい風が吹き、その勢いで拙者は目を閉じた。

そして、二度と目が開くことがないと思っていたのに再び目を開けた。




 辺りを見回すと、下半身がついていた。

それどころか怪我などしていない、どころか少しいつもより調子がいい。

どういう…これはなにが起きている?




「拙者は生き返ったのか?」

「正確に言えば死ぬ寸前に治した、というところだな」

「あなたは、神…ですか?」

「いや…まぁ望んだことではないが今は神の使徒をやっている」

「…使徒……」




 拙者は死地を探していた。

そして確実に死に…そして蘇った。

これから拙者は何を求めて生きていけば良いのだろうか。




「ゼン…実験を手伝ってくれて感謝する。それでだが、今後行く宛がないなら…俺と一緒に世界の命運をかけた壮大な戦いに参加しないか?」




 不敵に笑う少年、拙者はその顔を二度と忘れないだろう。

全身が歓喜に震え上がった。

神のような業を扱う使徒、その少年が言う世界の命運をかけた壮大な戦い…拙者もそれに参加できる、というのか?  




「拙者は……革命軍の幹部…」

「そんな小さい事はどうでもいいさ。俺の部下になれゼン」

「ふ…ふっはっはっははははは!!!!革命軍の幹部…それが小さい事ですか…貴方様はとんでもないお方のようですね。はい!!ぜひ貴方様の部下に……。拙者の命、預けさせていただきます」






 こうしてアルスはベルドールに続き、ゼンをも部下にした。





 




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