139話 お肉をあげよう作戦!!??
「お肉をあげよう作戦は、まぁ良いとして……あの状態でどうやって渡すんだ?そもそも言葉通じるのか?」
俺の疑問にファナとベルクールが思案顔をしている。
エリスプリナはなにかを食べている。
え?なに食べてるの?落ちてるもの無闇に食べちゃだめだよ、、、
「殿下の言うように彼らが古代の巨人族だとすると、確かに今の言語体系とは異なる可能性は、まぁあるわな。それに間違えなく警戒されてる」
「軽い気持ちで結界解除しちゃったしな」
「そもそも、そんな軽い気持ちで解除できるものなんです?」
「できた」
「……なるほど。まぁ殿下ですしね」
「あの……」
アルスとベルクールの会話に入っていなかったファナが手を挙げた。
「どうした?」
「確かに、いきなり目の前に出ていくのは……危険ですよね?だったら、空から落としましょう」
「落とす?」
「チビ姫……さすがにそれは」
「いやほら、敵意はないですよ〜って、上から肉を落として様子を伺いましょう」
「なんかそれ逆効果な気がするんだが」
「俺もそう思うぞチビ姫」
「他に案がある方は……?」
二人は押し黙るしかなかった。
それと、エリスプリナ……虫みたいの食べるのやめて。
怖いよ、ほんとに。
昨日の異世界産猪を再度捕獲してから、俺達はクロに乗ってまた巨人族達の暮らす山に近付いた。
再度結界が張られているということもなく普通に上から確認出来たが、昨日の今日なのでこちらも警戒しながら空を飛んでいる。
まだこちらに気付いた者はいなそうだ。
「クロ……もう少し下に降りてくれる?」
“わかった!”
さらに、下降すると昨日よりも鮮明に町?村?の様子が伺えた。
ほとんどの建物が高層なのではなく、普通に一階建ての一軒家としてとてつもなく大きい。
三階建て分くらい一階建て、といえばわかりやすいだろうか。
まぁ内部の造りが分からないので実際何階建てなのかは分からないが。
「殿下、さすがにこの高さから落としたらグチャってなるんじゃ」
「……食べ物は大事」
「わかってるさ。ちゃんと風魔法で降下を制御して落とすって。そもそもあんなデカい魔獣をそのまま空から落としたらもはや攻撃じゃん」
アルスは二人に説明した通り、血抜きした魔獣の死体を風魔法を使って村の中に落とした。
さすがに、気配を感じたのか何人かが出てきた。
まず目の前の魔獣を見て驚き、そしてそれが生きていないと確認して安堵し、それから上を見て俺達に気が付いた。
が、明らかに警戒している。
よくよく考えれば意味のわからない状況だ。
とりあえず肉は渡したわけなので、俺はクロに指示を出してこの場を離れることにした。
「これを数日は続けましょう。すぐには打ち解けられません、お兄様」
「あ、うん」
本当はなるべく早くエルフの国を探しに行きたいのだが、巨人族と友好的になれればそれはそれで大きい収穫でもある。
今回のお肉をあげよう作戦の指揮官であるファナの意見も間違ってはいない。
そもそも、この作戦が間違っている気はするが。
仕方ない、数日は続けてみよう。
「オロロ兄ちゃんまただね」
「まただなノロロ」
巨人が二人空を見つめていた。
その空には大きな漆黒の龍と、その上には小さい人が何人か乗っている。
龍は今日もそのまま去っていくが、目の前には最近毎日置かれている魔獣の死体。
村人達は皆が不審がっているし、警戒心を高めているが、中には何かの罠か攻撃なのではないかと言っている者もいる。
しかし、オロロとノロロの兄弟はそんなことよりもどうやってこんな美味しい肉を見つけてくるのかが気になっている。
村の皆は気味悪がって食べないし、オロロとノロロにも食べるなというがオロロとノロロはそんな事を聞くタイプではない。
なので、初日から食べている。
初めてその肉を食べた時、オロロとノロロは泣いた。
大号泣で、村人達が心配して「やはり毒が?」と訝しんだ程だ。
だが、すぐに毒ではないと分かった。
オロロとノロロが同時に「「う、美味すぎる……」」と呟いたからだ。
そう、オロロとノロロは二人共美味し過ぎて泣いた。
こんなに美味しいものがあったのかと。
なぜ知らなかったのか、その事にも腹が立った。
これを知らずに生きていたなんて。
それから二人は皆が食べないならそれは逆に嬉しいとばかりに、二人でその肉を食べた。
そして、毎日泣いた。
さすがに警戒していた村人達もその兄弟を毎日見ていると、どんな味なんだろうと気になりだした。
そして、一人、また一人と一緒に肉を食べるようになった。
そして、皆が目を見開いて天を仰いだ。
「美味すぎる………」
それからも毎日肉が届く。
年長者達は心配した。
これはやはり何かの罠なのだと。
現に若い者らは肉の美味さに警戒心を無くしている。
きっと安心したところで襲ってくるんだ。
そうに違いない。
「族長、どうするんですか?」
「どう、とは?」
「明らかに罠です」
「でも、まだ肉をくれているだけだがな」
「だからそれは安心させたところを…」
「それも一理はあるがな……」
族長のアバンも確かに連日のアレを気にしている。
だが、敵対心があるならなぜわざわざ肉を?
それに………
「問題はそこよりも」
「あぁ、結界が解かれたことの方が問題だ」
横で聞いていたアベルがアバンに頷いた。
アベルはアバンの前の族長で、実の父でもある。
この二人からすれば里始まって以来の大問題はあの結界が解かれた事だ。
この里の歴史のなかでは強力な魔獣が少し結界を破り、侵入してくることは何度もあった。
しかし、完全に結界を解かれたのは初めてだった。
「可能なのですか?元老」
「普通なら無理じゃな」
アバンの質問に答えたのは元老ベルオーガ。
最も長く生きるこの里の初代族長である。
そのベルオーガもあの結界を解くのは不可能に近いと考えている。
「長い年月でほころびが生じていた可能性は?」
「ありえなくはないがだとしてもじゃ。そんな簡単に結界の全てを解くことができるなら、すでにもっと昔に解かれていたはずじゃ」
「……あのドラゴンがやったのでしょうか?」
「親父殿、それ以外ありえません」
「何を言っておる。あのドラゴンには無理じゃ。まだ幼い」
「「え?」」
「あのドラゴンは確かに高位のドラゴンじゃが、まだ生まれて間もない幼子よ。あのドラゴンが結界を解くのは無理じゃ」
「じゃあ何者が?」
「ドラゴンの背に乗っていた者じゃろうな」
「それこそありえません。ただの人族に」
「ありえないというのは不毛じゃな。事実ありえている」
元老の言葉にアバンとアロンだけでなく皆が黙り込んだ。
「今やあの結界を張り直せる者もおらん。それ程までにあの結界は凄まじい。だからこそ不思議なのじゃ………乗っていたのはたったの数人だったのじゃろ?あれは人族数人でなんとかなるものじゃない。だが、成功した。そんな力を持つ者達がわざわざ肉で懐柔するんてあるのかのぅ」
「我々巨人族の力を恐れて、ということでは?」
「だったら、最初から目立つような事を真っ先にしたりせんじゃろ」
「だとしたら、元老はどう思うのですか?」
「うっかりやってしまったので、詫びに肉を持ってきておるのかもな」
「う、うっかり?結界を?うっかり?」
族長アバンが目を見開いて口をパクパクしている。
アベルもまた呆気にとられている。
「まぁその辺は本人に聞くしかないのぅ」
最後の言葉は元老ベルオーガの独り言だった。
気になってしまっている。
8000年という途方も無い年月のなかで、揺るぎなく張られていた結界が解除された。
それをやってのけた者は何者なのだろうか、と。
変わり映えない日々に、一つ生じた変革の兆し。
それが、良いことなのか、悪いことなのかそれはまだ分からない。
が、何かが起こる予感がした。
その予感を感じながら、古代種の巨人族を守り抜いてきた老人は不敵に笑みを浮かべた。




