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125話 空想と現実の狭間で少年は何を思う





「はぁ……はぁ……」




数日間休まずに走り続けた少年は森に身を隠しながら荒い息を吐いていた。




「レイカ……待っててくれ」





置いてきてしまった友人の安否が気になる。

が、あのままあそこにいれば自分も同じように危険があると思った。





森を抜け、素性を隠して国を2つ越えてやっと少年は一息つくことができた。




「この世界はどうなっているんだ」




少年はこの旅の中で荒れ果てた南大陸を見た。

そこで見た光景が脳裏にいつまでも留まり続けている。

荒れた街、貧困、犯罪、暗い雰囲気、虚ろな瞳。




それをしたのは魔王だと聞いていた。

だが、それが違う事も既に理解していた。

確かに魔族との戦争の影響もある。

しかし、その後は獣人と戦争になった。

そして、最後にこの大陸にとどめを刺したのは他ならぬ人族が信仰する聖信教会である。




少年が立ち寄った酒場で皆が語っていた。

幼い魔王の息子を誘拐した人族の王達の過ち、獣人を虐げ奴隷として酷使した過去、そして信じぬ者を排除する教会。



その悲劇の全てが人族の行いの結果。



知れば知るだけ今まで教わってきた事が嘘偽りで塗り固められていたことがわかる。

魔族領である北大陸は発展し平和な所らしい。

例え人族でも獣人でも、悪さをしなければ容易に受け入れられると酒場の酔っ払いが語っていた。

どうやら、彼の弟は北大陸に渡り幸せに暮らしていると手紙を送ってきているらしい。

その弟は手紙の中で二度と南大陸には戻りたくないと書いていたそうだ。



そんな平和な国を治める者が自分の知っている魔王と同義な訳が無い。

自分の知識の中では確かに信用できかねる。

だが、その知識は空想のものだ。

実際がそうという確証もない。



それなのに、当たり前のように魔王は悪だと思っていた過去の自分が許せなかった。

なぜもっと早くその事を疑わなかったのだろうか。




「兄ちゃん、北大陸に渡るのか?」


「渡れますか?」


「知り合いが定期的に船で行っている。紹介しようか?」


「ありがとうございます」




酒場の店主のおじさんの厚意で北大陸に渡れる目処が立った。

だが、だからといって自分が受け入れられるかはわからない。

わからないが、もしかしたら。

あの場所に戻るよりは、北大陸の本当の姿を見て、納得して死ねるならそれも悪くはない。












揺れる船の上。

初めての船旅は三半規管が強くはない少年にとってはそれなりに地獄だった。

だが、それをきついと思う程彼の心は普通じゃない。

きつい、つらい、そんな感情は既に失われていた。




北大陸に着いた。

逃走という名の旅に出てからかなり時間が過ぎてしまった。

船が着いた港街を一つ見ても北大陸、大魔帝国の生活水準が伺える。

今まで自分が過ごしてきた国とはまったく違う。

夕方にたどり着いたが、魔導具だろう街頭が街を照らし始めていた。

南大陸では夜にここまで明るくはない。

懐かしい思い出が蘇る。

少年は失った感情の中で、なぜか涙が出ることに驚いていた。




次の目的地は、帝都だ。




さて、魔王………いや、魔帝陛下は会ってくれるだろうか。





もし叶うなら、友人を救いたい。

あの虚ろな瞳の人々を、子供たちを、助けたい。

ただただ少年は祈るしか無かった。



















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