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123話 結末は誰にもわからない







「ということがあったんだが、本当に記憶はないのか?」


『天人族……わからぬ。だが、不思議だ、そんな種族が生まれたという記憶すらない。だが確かにいる。どういうことなのだろう』




帰還して数日後、俺は自室で創造神と対話していた。

内容はもちろん神にすら忘れ去られたという天人族についてだ。




「神の記憶すらも改変できる、そんな存在がいるのか?」


『………いることはいる』


「そうなのか?しかし、」


『まぁそこまで難しい話でもないがな。当たり前に存在する、その者らは……上位神。我々の上位の存在じゃ』


「上位神?」


『世界というのは上位神の概念によってのみ生まれる。その数多ある世界の一つを管理するのが我々のようなその世界で創造神と呼ばれる存在じゃ』


「つまり、上位神達はあえてこの世界の者達を創造神、邪神の陣営に分けて争わせることを望んでいると?」


『わしもそこまで上位神について詳しくは知らんのじゃが、その話を聞くところによるとこの世界などを管轄する上位神はそういう価値観なのじゃろうな』


「んだよ……それ。じゃあどうすることもできないのか」


『……すまぬの。アルスの力になってあげたいのじゃが』


「いや、いい。俺も考えてみるよもう一度。それに、どちらにせよ邪神と戦うことに変わりはないしな」






紅茶の入ったカップに口をつけ、外の世界を眺める。

上位神、それはなんなんだ。

創造神よりもさらに上位な存在?

なぜ、戦わせる意味があるんだ?



もし、目の前に現れたらそれこそ一発殴ってやりたいが。



しかし、会えるわけはない。

上位神という超常的な存在に近づくのはさすがに魔法では無理なのか?



考えるしかない。

その先にたとえ答えがなかったとしても。

それが使徒として、そして魔国の皇太子として俺がやらなくてはいけないことだ。

できるかどうかはその次だ。






まずは対邪神の為に動かなくてはならない。






アルスは飲み干したカップを見つめながら、決意を固めた。

































 そこは、世界から隔絶された亜空間。

そこに訪れることが出来るのは数多ある世界のなかでも、頂点に君臨する存在。





 幾千、幾万ある世界の中でその全てを統べる主の居城がその空間に存在し彼らはそこに度々招集されて数多の報告をする事を義務付けられている。





 そして、今日も主に招集された会議の為に多くの者らが集まっていた。





 宝石のような素材でできた綺羅びやかな円卓の大きなテーブルを囲む面々は上座にある誰も座っていない一際豪奢な席を見つめ、主の登場を待っている。





 だがそのなかでも、その主の席の隣で同じく誰も座っていない席を見ている者も少なくはない。

その空席を見る彼らの表情は様々で、寂しさ、怒り、苛立ち、悲しみ、愛しさの想いがその空席に向けられていた。





「ゼロは、まだ戻ってこないのか?」





 赤髪に黄色が混じった逆立った髪型の偉丈夫が、紫色の髪に黄色の輝く瞳を持つ青年に声を掛ける。






「いずれ戻ってくるのではないですか?兄様はそういう方です」


「探してないのか?いくら我らに時間の概念がないとはいえ、ここまで不在だと問題になるぞ?」


「万物の運命を司る兄様を我々が探しだせると?」


「………」


「兄様には兄様の考えがある。今までそれが間違っていたことがあったの?」





 話に割って入ったのは水色の正しく青空のような綺麗な髪を肩辺りで切り揃えたボブヘアの美少女。





「しかしだな………」


「そろそろ会議を始めようかバルファード」


「主様。いつの間に?」


「ははっ さっきから居たよ?」





 その場に居た誰もが気付けなかった。

全世界の頂点である彼らでも。

しかし、いつの間にか主がそこに座っている状況にそこまでの驚愕はなかった。

この方であれば、何もかもが有り得る。





 長い白髪に中性的な顔立ちの青年。

だが、彼らの中で見た目の年齢など関係ない。

寿命も老いることもない彼らに年齢など意味をなさないのだ。





 この青年もまた見た目通りの年齢ではない。

それどころか、全世界の誰よりも長く存在する。






 全てのあらゆる物事は彼が決めて、彼が創り出した。

その意図やキッカケは誰も知らない。






 だが、一つ確かなことは彼がそう思わなければ全ての世界は生まれることはなかった。






「アイツのことは主様は気にされてないのですか?」






 あいつとは先程から話に出ているようにこの場で唯一の空席者の事である。

偉丈夫からそう質問されて、主は声を上げて笑い始めた。

目に涙すら浮かべて、それを指で拭っている。





 主は感情を表に出すことが殆どない。

笑うことも怒ることもない。

一つの例外を除いて。





 腹を抱えて笑う主の感情が分からず質問をした者だけでなく他の神々も困惑した。





 粗方笑った後、主の顔から笑みが消えた。




 そして、バルファードを見やる。

その絶対零度とも言える冷徹な瞳に射抜かれバルファードは冷や汗を流した。





「私の友人である彼のことをアイツ呼ばわりとは、随分偉くなったのだねバルファード」


「………い、いえ」


「私はね、彼のことをとても信用しているし、彼のことがとても好きなんだ。だから、彼がしたいことがあるなら全力で応援したい」


「は、はい」


「彼が消えてから、私がそれを気にしていないと?本気で言っているのかい?バルファード」


「………」


「バルファード………私はね、彼がそう願ったなら全ての世界を終わらせてもいいと思っているんだ。だからこそ、彼に世界の命運を握ることができる運命を任せた。それ程までに私は、彼を敬愛している」





 主のその発言を聞いて、その場に居た者達は絶句した。

主のその発言は世界を左右するような発言である。

だが、主がそう言うなら世界はそう動いていく。

それを皆が知っているからこその絶句だった。










「久しぶりに話がしたいねゼロ……。君は今なにを思っているんだろうか」










 沈黙の広がる会議室のなかで、主のその呟きだけが虚空に消えていった。

















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