108話 夜空×視線
殿下が意識を失われて私は息を呑んだ。
この場でもし殿下が亡くなられるようなことがあれば我が国にとって途轍もない被害が出るのは明白だからだ。
「総司令!!い、息があります!」
殿下の様子を探っていたシルフィエッタ中隊長の報告を受けてどれほど安堵したことか。
しかし、魔物がいなくなったとはいえこの場にいつまでも留まって置くのは危険だろう。
私はそう判断した。
「ワーグナー、ジス………二人で交代で殿下を運んでくれ」
「先に進むのですか?」
私の言葉に反応したのは大隊長のローマンだった。
「この場に留まっておくのは危険な気がする。今のうちに先に進み休める場所を探そう……」
「わかりました」
最初はワーグナーが殿下を背負うことになり、我々は霧のエリアとは反対側の森の中を進んだ。
「にしても、やっぱり平地ですね。山というより森です」
「あぁ、本当にどういうことなんだ……」
「先行して先を見てきますか?」
「ボブ大隊長……さすがにそれは危険だ。今は皆で動いたほうがいいだろう。殿下もまだ意識を失われている」
「……そう、ですね」
森は果てしなく広大に見えた。
だが、周りの景観を見てもこの場所がどこなのかまったく見当がつかない。
四霊山から転移させられたとして、どれくらい移動したのだろうか?
もしかすると他大陸という線もあるかもしれない。
少し良い点があるとすれば、あれから魔物は出ていない。
そこだけが唯一の救いだ。
「総司令……水の音が……」
「川……か?」
「確認してきます」
ジスが先を進み、少しして戻ってきた。
「川でした!魔物の気配もありません」
「よし、そこの近くで安全そうな場所を探そう」
水というのは絶対的に必要なものだ。
野営をする場合は水場が近くにあるのにこしたことはない。
しかし、水場というのは動物や魔物にとっても必要なものでありそういう意味では危険地帯といえる。
だからこそ、水場に近すぎず遠すぎない場所に洞窟などがあればいいのだが。
それから皆で川の近くを移動するとそこにちょうどいい大きさの洞窟を見つけた。
柔らかそうな植物などで簡易的なベッドを作りそこに殿下を寝かせる。
「殿下、大丈夫ですかね?」
シルフィエッタが心配そう殿下の横についている。
ワーグナーとジスは食料を探しに出ていて、ローマンは洞窟の入口付近で火起こしをしている。
洞窟内には寝ている殿下と、私とシルフィエッタのみである。
「あれだけ凄まじい戦いをしたんだ。かなり身体に負荷をかけていたのだろう……」
「………確かに、凄かったですね」
「殿下の魔法が凄いとは聞いていたのだが、魔法なしであれ程凄いとは………さすがは次期皇帝と言うべきなのだろうな」
「あんなに強い人を初めてみました」
「力だけではないな………殿下はなによりも心が強い。私も見習わなくてはな」
「総司令も………やはりあの状況は臆しましたか?」
「誰だって臆するさ。あれ程の死地はなかなかない」
私は立ち上がりそのまま洞窟を出た。
ふと空を見上げると、そこには満天の星があった。
こんな状況なのに私はそれをとても綺麗だと感じた。
「こんな星空があるってことは現実なんですよね?」
夜空を見上げていた私に火を起こしていたボブ大隊長が声を掛けてきた。
「とても現実だとは思えないが、この澄んだ森の空気も、夜空も間違いなく現実だと私は感じる………ここはどこなのだろうな」
「明日から付近を探索しましょう」
「そうだな。殿下が起きるまでに情報を集めよう」
火起こしをするローマンと、ローマンと会話しているアンバー。
その二人を遠くから見つめる視線が上空にいくつもあった。
だが、二人はそれに気付いていない。
「また、人が迷い込んできた」
「あれは………魔人族?」
「洞窟の中の一人の気配は、魔人族ではないな………なんだあの雰囲気は」
「………危険?」
「かもしれない……」
「殺す?」
「いや、まずはあちらの出方を伺おう。とりあえず長に報告する」
「…………うん」
「お前ら、帰るぞ!」
「「「「はっ!!!」」」」
広大な森の上空。
アンバー達がまったく気付かないほどの距離に居た者らがその場を後にする。
純白の翼をはためかせ、飛び去る彼らは何者なのか。
それはまだ、アンバー達は知る由もない。
最近まで感想来ないなーと思っていたのですが、どうやら自分でコメントが出来ない設定にしていたみたいです……_| ̄|○ il||li
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