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103話 次期皇帝の背中






「報告通りだな。確かに魔法が使えない」




 捜索メンバー6人で四霊山に入った。

そこですぐにアルスは魔法を試したが確かに使えなかった。

先に聞いていたので慌てずにスキルを確認したが創造によって小石を作ったがそれは問題なく出現したのでスキルは扱えるようだ。





「で、殿下!それは魔法では?」


「いや、これは創造神から与えられたスキルだ」


「石を生み出すのですか?」


「いや、知っている無機物なら基本的に生命力を対価に生み出せるぞ」


「………さ、さすがは殿下」




 アンバーがそのスキルの性能に驚いて絶句している。

ちなみにだがスキル持ちの三人のステータスはすでに確認し、スキルを使った場合の消耗も先に確認してから来ている。

回復薬もそれなりに持ってきているが、そういった確認は怠ることはできない。




「とりあえず最初はアンバーが探知を使って周りを警戒してくれ。ある程度したら、シルフィエッタに交代な」


「かしこまりました」


「いつでも言って下さい」




 同じ系統のスキルを持つ二人は交代制にする。

二人が同時に使っていては回復薬が足らなくなる可能性があるからだ。

回復魔法が使えない分そこもちゃんと念頭に入れておかねばならない。




「にっしても………静かっすねぇ」




 ワーグナーが辺りを見ながらそう呟く。

確かに山の中は静かだった。

上空から確認した時は気配を感じていたのだがこれも何か特殊なことが起きているのだろうか。




「ここまで二時間くらいか………まったく魔物に出会わないな」


「いつもだったらいるんすけどねぇ」


「アンバー、どう思う?」


「上位種がこの辺に居て他の魔物が逃げたという可能性はありますが、であるなら上位種が探知に引っかかると思うのですが………気配はないですね」


「不気味ですね……」 




 シルフィエッタが少し不安げな顔を浮かべる。

アルスはその肩に手を置いて微笑む。




「大丈夫だ。相当に厄介じゃない限りはこのメンバーなら負けることはない。それに、最悪逃げれば良いんだから」


「はい………」






 それからさら進んだ所でアンバーが手を上げて皆を止めた。





「魔物が一体、こちらに向かっています。かなり強い個体かと……。皆、武器を持て」


「やっと一体か………だが魔物が来てるのに少し安心した。居ないわけではないんだな」





 武器を持ち警戒する一行の前に現れたのは大きく引き締まった身体に角と鋭い牙と爪を持つ大鬼だった。




「オーガ?いや、オーガキングか?」




 その雰囲気にアルスはキングの可能性を考えた。

ステータスを見ると確かに個体名はオーガキングだった。

ランクはA。




「やっぱりオーガキングだ。ランクはAだ」


「最初からAランクですか……幸先悪いですね」




 アンバーは苦笑を浮かべながらしかしオーガキングから視線は外さない。

アルスや面々も武器を抜き、構えをとる。




「とりあえず小手調べに俺がいく」


「しかし………殿下」


「大丈夫だ」




 アルスはそう言って重心を低くして構える。

そして、地面を蹴ると凄まじい速度でオーガキングに肉薄した。

いきなり消えたアルスにオーガキングは驚き一歩下がろうとしたが、すでにその時アルスの剣が首を断っていた。

シュッッッザッッッと後から空気の斬れる音が響き渡り、そこで皆がオーガキングの絶命に気付いた。

それ程までの圧倒的な戦いだった。




 アルスは倒れるオーガキングと宙に舞うその頭部を見ながら、魔法が使えなくてもAランクなら殺れるなぁと冷静に頷く。

凄まじい速度が故に血の一滴も付いていない剣を鞘に戻す。

さて、この死体をどうするべきか。

普段なら魔法で処理するが現状それは出来ない。




「埋める………か」




 アルスがそう呟いたときやっと固まっていた面々がアルスの元に来た。




「さすがは、殿下………」


「あれはなんすか!?」




 アンバーがアルスを尊敬の目で見つめ、ワーグナーは何が起きたのかとアルスに迫る。




「ん?ただ斬っただけだぞ?」


「ただ斬ってあれっすか?」


「あぁ」


「いや………なるほど。噂以上ですね」




 何やら納得したらしいワーグナー。

他の面々も驚愕の顔を浮かべている。

が、この場にそこまで長くいるつもりはアルスには無いため指示を飛ばす。




「とりあえずこの巨体を何とか埋めたいが………さすがにきついか?」


「確かに血の匂いは危険ですが、魔法なしではきついかと……」


「じゃあとりあえず放置して進むか。行くぞ」


「「「「「はっ!」」」」」
























 四霊山駐屯地総司令、アンバー・セイレムは驚愕していた。





 セイレム子爵家というそれなりに武勇に優れた家に生まれたが次男である為跡継ぎにはなれなかった。

その為軍に入り立身出世の為に我武者羅に戦場に身を置いてきた。




 反乱軍との内戦、人族との大戦、その中で活躍を続け今では危険区域とされる四霊山駐屯地の総司令という肩書きを任され、司令官として常に精進を続けてきた。


 


 危険区域の駐屯地。

その為一癖も二癖もある者が集まり、自分から見ても相当に強いという部下も少なくはない。

だがそれでも四霊山で行方不明が相次ぎ、さらには部隊の消失。

魔法使用の不可という報告を聞いたとき今後どうすればいいのか分からなかった。




 大部隊で向かうには山という環境はかなり難しい地である。

それに魔法なしとなったら危険な四霊山でどれだけ我々は生き延びれるのだろうか。

本部からの増援も検討しなくてはならない。




 そんな時にアルス殿下が現れた。




 流石に、止めなくてはならない。

そう思ったのだが殿下はなおさら自分が行くべきだろうと言ってきた。

そこに気負う気配も臆する雰囲気もなかった。

それが当然であり、最適解だと言うべきその姿に一回り以上年上であるアンバーは上官としての心向きの在り方を感じた。




 そこから頭をフルに稼働させ編成し、メンバーと殿下の顔合わせとなる。




 ローマンとシルフィエッタはまだしも実力で選んだ分、ジスとワーグナーは一癖ある者達だった。

直属の上官達も手を焼く扱いづらい二人にアンバーの不安は拭えない。




 だが、その二人……特に一番の問題児であるワーグナーと接する殿下を見て要らぬ不安だったと思わざるを得なかった。




 大魔帝国の皇太子である殿下に対して言葉遣いすらまともに出来ないワーグナー。

それを咎めた私を殿下は止めた。

そして、それくらいなら気にしないと言った。




 明らかに値踏みするような失礼な態度、さらには殿下自ら言ったにしても最悪殿下を捨て置くという発言。

だが、殿下はそれを聞いて少し微笑んだ。

そして視線を交わす殿下のその瞳の強さにワーグナーだけでなく他の面々も息を呑んだ。




 最悪自分を無視して逃げろ。

それを確かに本心として言っているのが分かる。

だからこそワーグナーはその力強い眼を見て、頭を下げた。

ワーグナーが深々と頭を下げるのを他の面々は初めて見た。

この男が初めて会った人物に心から服従したというのはそれだけでも、驚愕のことであった。




 次の日、ついに四霊山に踏み入れた私達は魔法が使えないのが本当のことだとすぐに理解した。

だが、一向に魔物は現れない。

不安な気持ちが少し薄れていくのを私は感じていた。




 その時、私の探知に魔物の気配を感じた。

途轍もない速度で向かってきている。

弱い魔物ではない。

かなりの上位、それと今接触しようとしていた。

だが、魔法が無くても私を含め軍の中でかなり強いメンバーである。

それに陛下の次に強いと言われる大魔帝国No.2の実力の殿下がいる。

大丈夫だ………なんとかなる。

そう自分に言い聞かせた。




 殿下がオーガキングと告げた時、確かに目の前にいるその魔物はそれに該当するだろうと分かった。

実際に過去、出会ったこともある。

そして、その魔物が相当に強い事も理解していた。

魔法があってもそれなりに苦戦する四霊山のAランク。

どう戦いますか?と私は聞こうとして殿下を見た。




「とりあえず小手調べに俺がいく」




 殿下はそう言って構えを取った。

殿下は間違いなく一人で戦おうとしている。

そう分かって私はすぐに止めようと声を上げた。




「しかし………殿下」


「大丈夫だ」




 顔は正面、オーガキングを見つめたままの殿下。

だが、その声からは確かに大丈夫なのだろうと思えるほどの力強さを感じた。



 もしこの場で殿下一人に戦わせてもしものことがあれば……私は処刑されてもおかしくはない。

それなのに、なぜか大丈夫だろうと思ってしまう。

これが、次期皇帝の姿なのだろう。




 隣に居たはずの殿下が消えた。

消えた………そう思うほどの速度で移動したのだと分かるのは殿下の居た場所の地面が抉れて土煙が上がったからだ。

それに意識を取られた次の瞬間、前を向けば殿下はすでに剣を鞘に戻していた。

殿下以外の全ての時間が遅れているかのように、後から宙を舞うオーガキングの頭部。

そして、少しして倒れる身体。




 何が起きたのか全く分からなかった。




 殿下も魔法が使えないと言っていた。

つまりは魔法を使わずに自力でこれをやったということか。

だとしたら、どれだけ強いのだ………。




 慌てて駆け寄った我々を見やる殿下の顔は涼しげでまるで何もなかったかのように落ち着いていた。




 私だけでなく他の面々。

ワーグナーやジスでさえ殿下を見る目が明らかに変わっていた。

英雄………そう、正しくそう思わざるを得ない程の強者。

私はその場では相応しくはない程に心が踊っていた。




 これが、この国の次期皇帝。




 私は思っていた。

国を守るのは我々軍人なのだと。

皇帝陛下や国を守り抜くのは我々なのだと。

だが、それは間違いだった。

本当の強者、本当に我々を守り抜くのは皇帝や次期皇帝の殿下だった。

我々はその偉大なる強き者に従うしかない。




 私も今まで以上に強くならなくてはならない。

この次期皇帝が帝位についた時、私はその後ろを守れる程に強くなっていなければならない。

それこそが真の従属。

真の軍人なのだろう。








 前を歩き出した殿下の背中を見て、私はそう強く心に誓った。














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