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転生先の原作ゲームを知る俺、推しの姫騎士を守護るため、盗賊との恋愛フラグを全部へし折ります。  作者: 真黒三太


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ディースから見たオズル

 風の祝福を受けし娘。

 ローファン王国の魂を表した者。

 アマゾネスとなるべき運命の乙女。


 ローファン王国の王女ディースを称える言葉は、おおよそこのようなものである。

 つまりは、ローファン王国の全国民が思い描くような、理想のお姫様であるということ。

 とりわけ、アマゾネスとしての適性を高く有しているのは、大きい。


 このローファン王国は、当時この山岳地帯を守護していたアマゾネスの長と建国王が手を取り合うことで生まれた国……。

 他国の姫君がそうであるように、ただ美しく麗しくあればよいというものではなく、古の祖先たちがそうであったように、槍を手に取り邪悪と戦う強さも、王女には求められるのだ。


 ゆえに、通常の王女へ施される教育に加え、始まったばかりの戦闘訓練にも、誰より熱心に打ち込んでいるのがディースであった。

 そして、それに加えて、まだ2歳でしかない弟王子――エリオールの母親代わりもしているのだから、これはもう三足のわらじを履いていると言って相違ない。


 周囲の人間は、ディースを指して、このように言う。

 気丈に振る舞っているが、さぞかし大変であるに違いない。

 我々の力で、ディース様をお支えしなければ。

 ……と。


 ディースからすれば、これは的外れにもほどがある言葉。

 王女教育も、アマゾネスの訓練も、弟への母親代わりとなることも、一切苦に感じたことのないディースだ。

 それは、精神的な我慢を意味しているわけではない。

 本当に、一切苦労していないし、大した疲れも覚えていないのである。


 王女教育など、要するに王族としての最低限の礼節を身に着けるためのものであり、そのようなものは、周囲の大人を観察するだけで習得してしまっているディースであった。

 アマゾネスの訓練は、なるほど、天稟というのは、このことかと思わされる。

 すり足から、槍の振り方に至るまで、教えられたことがすぐ形となるばかりか、繰り返す度により鋭く流麗なものとなっているのを実感できるのだ。

 母親代わりをしていることに関しては、もはや、語るまでもない。

 ディースにとって、これは、亡き母から受け取ったものを弟にそのまま渡しているだけのことであった。


 だから、ディースにとって、哀れみの念を向けられるのは、少々屈辱。

 まるで、自分がその程度のこともこなせないように思われているかのようなのだ。


 しかし、同年代の子供を見れば、それも致し方ないと思えるのが、ディースの聡明さである。

 何しろ王女という立場であるから、同年代の王国貴族子女と触れ合う機会は多い。

 その上で、自身の才覚は抜きん出たものであるのだと、うぬぼれなく自覚できた。


 それほどに、彼ら彼女らは――子供。

 貴族家の子女であるのだから、庶民など及びもつかないほど高等な教育を受けているはずなのだが、礼節・勉学・武芸のどれ一つを取ってみても、ディースには遠く及ばないのだ。


 だが、それもディースがあまりに優れている結果なのだから、責めるのは考え違いというもの。

 また、広い世界における狭い王国内での比較であると考えれば、慢心するのは愚かの極みであった。


 だから、ディースは内心にちょっぴり抱えている不満はおくびにも出さず、周囲の哀れみを素直に受け止め、今日も理想のローファン王女という立場をまっとうする。

 ただ、自分と同じ目線でものを見れる人間がいないというのは、ほんの少し寂しいだけ。


 だから、道具屋の出来息子と呼ばれる男児が、噂を聞きつけた大臣の推薦を受けて城仕えをすると聞いた時は、ほんの少し期待したものだ。

 もしかしたら、この閉塞感を打ち壊すような、ディースにとってまったく未知の人種なのではないかと、そう考えたのである。


 だが、迎えた登城の日……彼が見せた言動と行動は、そのような生易しい範疇に収まるものではなかった。

 なんと、彼は父王から何か望むものはないかと聞かれ、ディースとの婚姻を要求してきたのだ。


 なんという――無鉄砲。


 あるいは、身の程知らずというべきであるし、この言葉を思い浮かべる人間の方が圧倒的に多数であろう。

 それほどまでに、無謀な提案。

 どれだけ賢かろうが、庶民の子供が王女と結ばれるなど、決してあり得ないのであった。


 また、それを認めさせるために出してきた条件も、馬鹿げている。

 いわく……。


「私がこの国で最強であると証明したならば、ディース様の婿にお選びください」


 ……言葉遣いこそ大人じみて丁寧なものであるが、話している内容の方は、吟遊詩人も顔負けの夢想と浪漫に満ちたものだ。

 たかが10歳の、それも武術など学んだこともない道具屋の息子が、ローファン最強を示すという。


 一種、伝統あるローファン王国そのものへの挑戦とも取れる言葉。

 それに対し、ローファンそのものである男――父王ジョナサンは激昂で応じた。

 子供の言ったことに対し、大人気なくもアマゾネス隊隊長ライラを呼び出したのである。

 そして、言葉通り最強を証明せよと、一対一での模擬戦を行わせたのだ。


 文字通り、これは大人と子供の戦い。

 そして、実際に展開されたのも、大人が一方的に子供を打ち倒すような戦いであった。

 ……ただし、一方的に倒されたのはライラの方で、倒したのは道具屋の出来息子――オズルであったが。


 いや、倒したという表現は適切じゃないだろう。

 なぜなら、オズル少年は訓練用に真綿で固められた木槍の穂先を、ライラの喉へ触れる皮一枚のところで静止させていたのだから。

 完勝。

 それも、圧倒的な力量差を見せつけた上での勝利である。

 これを見て、彼がローファン王国最強であることを疑う者など、存在すまい。


 しかも、その後に彼が見せた対応こそ、見事の一言。

 彼は、自身と父王ジョナサンが、ディースを賞品扱いしたことについて深く反省し、要求を撤廃したのだ。


 なんという、仁の心。

 これに対し、父が見せた感動も大きなものであったが、実のところ、ディースの心もまた大きく揺れ動いていた。


 オズルは、自分と同じく10歳。

 そのような若年でありながら、英雄譚から飛び出してきたかのような武勇と、深き仁性を見せつけたのである。

 明らかに、ディースがこれまで見てきたいかなる人間とも、異なる存在であった。


 だから、知らず彼の小指に自身のそれを絡めたことは、致し方ない感情の発露であろう。

 風に愛された王女の心は、今、荒れ狂う暴風のような乱れようを見せていたのである。

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