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自称癒士の救世感  作者: 筆工房
第四章~自称癒士のお使い~
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第四十九話:勇者は狼人を巧みに操る

「先ほどはみっともない姿を晒しもうした。せっかくお時間を割いていただいたのに……」

「そんなことはないでござるよ。勇敢でござった」


 宿場に戻ってきた三人は食卓を囲んでいた。村長の計らいにより、狼人も堂々と食事ができるようになっている。村の危機を救った勇者が傍についている影響は大きいだろうが……。


「奇異の目を多少向けられることは、我慢してほしいでござる」

「滅相もない、無論承知の上。むしろ勇者様方を巻き添えにしてしまい、面目次第もございませぬ」


 先刻の強烈な違和感は、チェリャの顔から消え去ってしまっている。彼はまだかまだかと酒を待ちわびており、首を指で弾いていた。気のせいだったのだと、ガルドは自分に言い聞かせることにした。


「気にするこたねぇよ。チェリャの頭に向けられる視線に比べりゃ、大したことないしな」

「ひどいでござるぅ!」


 ロロという赤髪の勇者はケラケラと笑っている。ガルドや村長を含め━━他人には無愛想だが、チェリャには心を許しているらしい。


「ってか、もう少し相手に合わせてやれよ。普通に首を刎ねるかと思ったわ」

「失敬な、ちゃんと寸止めするつもりだったでござるよ。それに命のやり取りをせねば、実戦で役に立たんでござる」

「そういうもんかね」

「御意の通り。拙者の覚悟が足りのうござった」


 ガルドは試合のつもりで臨んでいた。しかしチェリャは死合いとして待ち構えていた。その時点で精神的に敗北していたのだ。


「ところで、お前の魔法はどういう魔法なんだ?」

「拙者の魔法は風にござる。飛ばすことは不慣れ故に自身や武器に纏い、速度の向上を図っております」

「なるほど、それであの速度か」


 常に追い風を受けているような状態らしい。


「しかし、動きが単調かつ直線的すぎるでござるな」


 ぐいっと酒を呷りながら、チェリャが指摘する。


「あれでは、いくら速くとも容易に防げるでござる」

「いや初見でいけるのは、お前とルーイくらいだろ」

「ふむ、そうでもないでござるが……例えばガルド殿」


 名前を呼ばれて、ガルドは居住まいを正す。


「はっ、いかがなされた?」


 チェリャはテーブルの上に置いてあるコインを手に取る。すると親指を中に手を握り、その上に置いた。


「今からこのコインをお主の額にぶつけるでござる。頑張って防いでみてくだされ」

「承知いたした」


 ガルドは全身に力を入れ、構える。しばらく沈黙が流れた。


「なーんて、冗談でござるよ」


 チェリャが両手を広げる。ガルドは安心したように、ホッと胸を撫で下ろした。


 ━━スコーン!


 その直後だった。ガルドは額にコインを受け、椅子の後ろ足を軸に回転してから床に倒れ落ちた。

 ロロも起きたことに呆然としているし、ガルドも何が起こったのか分からず目をぱちくりさせている。

 周囲の人々は、何が起こったのかと会話を止めて注目していた。


「これが戦いかたでござる」

「いや、今のは卑怯だろ」

「何故でござる?」


 チェリャは心外だと言わんばかりに、首を傾げてみせた。


「“いざ尋常に”といって攻めてきた異形など、今までいたでござるか?」

「そりゃそうだが……」


 今は違うんじゃないかと言いかけたが、チェリャの言わんとしていることも分かる。


「チェリャ様は、常に真剣勝負なのですね」


 ガルドは倒れてしまった椅子を直しながら立ち上がる。


「手合わせの時の“かかってこい”の合図、あの時点で既に拙者はチェリャ様の術中であったと……」


 その言葉にチェリャは満足げに盃を口に運んだ。彼は言葉を用いて攻撃や防御のタイミングを誘導している。

 手合わせの時は迎え撃つ度量の大きさを示したように見せて、実は踏み込みを誘っていた。そして今回は攻撃の意志が無いように見せて、ガルドの防御を解かせた。その瞬間に訪れる筋の緊張や弛緩を、チェリャは見逃さない。


「明日の手合わせでは、これを学んでもらうでござる」

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― 新着の感想 ―
[一言] 成る程〜〜〜何だか今までのチェリャが嘘のように英雄に思えてきた。 人のイメージや情報も知れば知るほど変わるもの。 いや〜奥深いです!
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