表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス3巻発売中!】採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~  作者: 一色 遥
第1章 新しい世界と出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/350

81. 大蜘蛛と

改稿に伴い、ナンバリングが82→81に変更となってます。

「絶対、死ぬな」

『わかってるよ』


 その言葉でアキとの念話が切れる。

 はっきり言って心配しかないんやけど……。


「俺は俺で、やることやらんとな」


 気配察知で察知した敵さんの動きに対して、アキの予想はたぶん正解や。

 糸を使っての分断作戦……つまり、俺らが最初に喰らった罠と同じ。

 問題は誰が狙われるか、なんやけど……これも予想通りやろうな。


「狙いにくいやつよりも、狙いやすいやつ」


 正直、アキを除いて、誰が分断されてもあっちの得や。

 防御の要に、攻撃の要に、遊撃の要。

 誰が分断されようと、大蜘蛛からすれば崩しやすくなる。


「ま、そうやって考えりゃ、アルか姉さんってところやな。俺は動き回っとるし、狙いにくい」


 そうやって絞りゃ、次の手は打てる。

 その辺、アキはよー分かっとるわ。


「アルなら単体でも、大蜘蛛だろうが蜘蛛だろうが死なんやろ」


 ただ、姉さんはそうもいかん。

 近づかれたらキツいんは、初対面の時に分かっとるしな。


「つーて、守りながら戦うんは、相手が悪すぎやで」

「トーマさん!?」


 アルを分断して、姉さん狙いに切り替えた大蜘蛛の前に、滑るように割り込む。

 どうも脚に結んであった糸は、蜘蛛が切ったみたいやし……ギリギリで間に合ったって感じやな。

 大半の蜘蛛はアル達の方。

 その代わり、こっちが大蜘蛛ってことやし……さて、どうすっかな。


「左右の死角を取るんが基本戦術やけど……後ろにおるし、それは悪手か」


 とりあえず気を引くために投げ用ダガーを数本投げる。

 ダメージを取るってよりも、苛立たせる感じでな。


「ひとまず姉さんは、隙を見てアル達の方に雨でも降らしとってや」

「トーマさんの援護は……?」

「大蜘蛛に魔法当てられたら、俺なんか無視してそっち行くで?」

「……わかりました」


 俺の言葉に納得がいったんか、姉さんは大きく頷いてから距離を取る。

 アル達の方は、どうやら繭みたいな感じやし……中からだけやったらキツいはずや。

 少しでも時間を短くせんとな。


「――ッ!」


 振り下ろされる攻撃に、即座に身を翻す。

 とりあえず大蜘蛛のターゲットは俺になったみたいや。

 ひとまずの目的は達成っと。

 そんじゃま……ちと付き合ってもらうで?


「シッ!」


 鋭く息を吐き、両手のダガーを逆手に持ち替えて――一気に距離を詰める。

 普段の戦い方やったら押し負けんのは確実や。

 やから、俺は俺の(・・)戦い方で。


「つーて、時間稼ぎにしかならんけどな」


 ダガーを使い、振り下ろされた前脚の関節をほぼ同時に斬りつけ、怯んだところを一歩前へ。

 大蜘蛛の顔を蹴り飛ばして、その反動で距離を取る。


 ダメージは与えられん戦い方やけど、苛立たせることだけはできる。

 一発喰らえばヤバい……ヤバいからこそ、苛立たせて相手の動きを単調に誘う。

 っても、後ろには姉さんもおるし、無茶な攻めはできん。

 攻め時と引き時を見極めつつ、ダガーを投げたり、蹴り飛ばしたり、時に避けたり、受け流したり。

 右に飛んでは左に退がり、時折フェイント交じりに懐に入っては、ダガーを叩きつけてまた避ける。

 詰めては退がり、引いては攻める……前後だけではなく、左右に上下を混ぜた八方で、相手の攻め手を潰す。


「相手取るんは、難しくない。……時間を稼ぎ続けるんは無理やけどな」


 横目で繭の方を見れば、姉さんのおかげか、多少壁が薄くなっとる。

 しかし、アキやアルの姿はまったく見えん。

 こりゃ……まだ時間かかりそうやな……。


 手に持ったダガーにはヒビが入りはじめとるし……投げ用ダガーの残りは数本程度。

 投げに使っとるダガーは軽い分、耐久力に難がある。

 蜘蛛くらいなら数回受けることはできるが、大蜘蛛相手には1発も()たんやろうなぁ……。

 もう少しくらいは受け流しの練習しとくべきやったか。


「ま、嘆いたところで意味がない。やるだけやったるわ」


 残りの投げ用ダガーを一気に投げ、それを囮に懐に踏み込む。

 大蜘蛛の頭に少し刺さった投げ用(ダガー)目がけて蹴りを入れ、深く押し込むと共に右手のダガーで斬りつけた。

 反撃とばかりに繰り出された前脚を左手のダガーで受け流しつつ、その場からの離脱を試みる。


 しかし、大蜘蛛もそこから逃がす気はないんか、受け流された脚を引き、逆の前脚を抱え込むように動かしてきた。

 速度的に受け流しはキツい、かといって大きく避けりゃ、姉さんがまる見えになる……。


「なら……!」


 即座に腰からポーション瓶を抜き、目の前の顔に叩きつけた。


「はっ、さすがに水分は効くんやな!」


 怯んだ隙に前脚の下をくぐり抜け、距離を取る。

 叩きつけたんが、下級やなくて最下級やったんも良かったみたいやな。

 最下級の方が水っぽい分、こいつには嫌みたいや。


「しっかし、君……タフ過ぎんで」


 両手のダガーは、刀身に大きくヒビが入り、刃先には欠けすら見てとれる。

 あと2回……もしかすると1回防ぐだけでも折れる。

 折れた後のことなんかわからんが、今よりキツうなることは確実やなぁ。


「ホンマ、はよ復帰してくれや」


 繭に囚われた2人に、悪態を吐きつつも口元が歪む。

 どうやら大蜘蛛も、完全に俺を敵と認識したみたいやな……。


「……そんじゃ、2回戦といこうやないか!」


 軽くステップを踏むように、緩急織り混ぜながら、懐に入っては離脱を繰り返す。

 大蜘蛛の目を誤魔化すように、時折木の枝や、落ち葉なんかを使って意識を逸らすことも忘れんようにっと……。

 動きを最小限に、感覚をフルに使って、高揚感に囚われず、常に先を予測しろ、と自分を律して――。


「……は、ははっ」


 しかし、繰り替えされる攻めと避けの応酬に、思わず笑いが零れ出る。

 それをきっかけに、意識を整えることも、表情を作る事も……口調を変える(・・・・・・)ことさえも(・・・・・)、無駄なものに思えてくる。

 ここは、()捕食者(お前)しかいない!


「は、はは、ははははは……!」


 高揚感だけが身体を支配してくる。

 壊れることすらも厭わず叩きつけたダガーは、両手共に折れた。

 しかし、濡れて柔らかくなった頭めがけて、突き刺し、奥へと抉り込んだ。


 反撃とばかりに迫ってきた前脚に、ダガーを失った左腕が裂かれるが……痛みなど、まるで感じない。

 その隙を利用して前脚を掴み、関節部を狙って、残ったもう片方のダガーを突き刺した。


「来いよ。もっと……もっとだ……!」


 相手の攻撃は最低限で避け、多少の傷は気にもしない。

 蹴り、殴り……ただひたすらに戦い続ける。

 しかし、そんな楽しい時間は、突然終わりを告げた。


 一回転するように蜘蛛の頭を蹴り飛ばし、後方へ飛び退く。

 その直後……ダメージの反動が一気に襲ってきたからだ。


「つまんねぇな……この程度かよ」


 膝を折ってしまいそうな強烈な痛みに、叫ぶ声すら上手く聞き取れない。

 けれど、大蜘蛛はそんな俺に対して……確実に殺すとばかりに近付き、前脚を振り上げた。


「……こりゃ、死んだな」


 そんな諦めが口を吐き、目を閉じながら笑ってしまう。

 けどな、悪あがきくらいはさせてくれや。

 そんな思いと共に、身体を仰け反らせ……後ろへと倒れていく。


 直後、背中に走る衝撃と共に……名前を呼ばれた気がした。

2019/05/06 改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき、ありがとうございます!
スタプリ!―舞台の上のスタァライトプリンセス
新作連載中です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ