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【コミックス3巻発売中!】採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~  作者: 一色 遥
第2章 現実と仮想現実

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201. 動き出した

「多分、そろそろかな」


 吹き荒れる台風の、その目の中で休んでいた僕は、自分の感覚を頼りにそう呟く。

 1分程度だったけど、その間はシルフに現状を説明したり、ラミナさんの背もたれになったり……。

 ……僕は休めてなかった気がしてきた。


「アキ」

「ん?」

「……何があるの?」

「んー……確証は無いけど、たぶん助けが来るよ」

「助け……?」


 僕の言葉が理解出来ていないみたいに、ラミナさんは同じ言葉を繰り返す。

 <予見>スキルで感じる……見える? のは感覚的なものに近いから、説明が難しいんだよね。

 だから僕は「もうすぐわかるよ」なんて言って、ラミナさんの手を取って立たせた。


「シルフ、拠点側の風を少し弱めて貰える?」

「はい、大丈夫だと思います」

「うん、ありがとう」


 真っ暗な夜闇のなかで光る炎。

 激しく響く声と、剣撃の音。

 ……そして、この暴風。


 ――きっとトーマ君なら、気付いて


「――アキ! 出てこい!」


 そう言って呼んでくれるはずだ。



「っはー……疲れた……」

「お疲れ様。トーマ君、ありがとう」

「俺やない。みんなに言っといてくれ」

「それはもちろん。でも、トーマ君も、だよ」

「……そか」


 あの後、助けに来てくれたトーマ君やみんなと合流して、一気に拠点内部まで走り抜けた僕らは、ひとまず落ち着くために、PK対策本部と書かれた暖簾(のれん)をくぐり、各々で休息を取っていた。

 シルフがいるからか、拠点の防衛は風に任せて、雨を降らせていたカナエさんも、休憩に入っているらしい。

 というか、あの広範囲を数時間って……大丈夫だったの……?

 僕はカナエさんとはまだ会えてないから、人づてに「大丈夫」としか聞かされてないんだけど……。


「アキ。考えるんは必要やけど、今は休め」

「うぐ……」

「PK共が動き出したんは昼。やけど、お前は多分今日1日ずっと気張ってたんやろ? そないなやつの思考がマトモな訳がない。つーことで、休め」

「……はぁ」

「ま、それに心配せんでも、もう今日中はやつらの動きは無いやろ」

「そうなの?」

「……誰も好き好んで、死にやすい環境に身は置かんやろ。普通は」


 そう言って、トーマ君は僕から視線を外し、外へと繋がる暖簾の方を見た。

 なるほど……。

 すでに、防衛のための手は打ってあるってことなんだね。

 なら……まぁ……お言葉に甘えて……。


「少しだけ、休む、よ……」


 言葉にした瞬間、襲ってくる眠気に抗えず、僕は意識を手放した。

 あ……ログアウト、すればよかったなぁ……。



「……キ、アキ……起きろ。アキ」

「ん……んぅ……?」

「休んどる最中にすまんな。お客さんや」

「お客、さん……?」


 トーマ君の声に気付き、僕はゆっくり目を開ける。

 体を起こしてから気付いたけど、ベッドに移されてる……椅子に座ってたはずなのに……。


「アキにだけってわけやないけどな」

「ん、わかった……。ちょっと待ってて、すぐいく……」


 僕の言葉に、トーマ君も「りょーかい」と、いつもみたいに軽く返して、僕のそばから離れる。

 彼が歩いていった方を見れば、なるほど……簡易的に区切って作った部屋なのか、衝立(ついたて)のようなものが立てられていた。

 データで作られてる世界のはずなのに、寝起きの目はなかなか焦点があわず、ボヤけて見えるのが、なんだか少し面白かった。


「……シルフ」

「はい。お呼びですか、アキ様」


 少しはっきりしてきた視界のなかに、緑色の少女が現れる。

 同時に、ふわりと風が少し舞って、僕の髪を揺らした。


「……」

「アキ様?」

「来てくれて、ありがとう」


 彼女の髪に、頭の上に手を伸ばして、優しく撫でる。


「あの時はバタバタしてて、ちゃんと言えなかったから」


 本当は、お礼をする側が、こんなことをするものではないんだろうけど……。

 彼女が、気持ち良さそうに微笑んでくれるなら、別にいいよね?


「だから、ありがとう」

「アキ様……」


 簡易的に作られた部屋――つまり、音なんて外から聞こえててもおかしくない。

 でも、誰も……この部屋には入ってこない。

 それ以上に、音のひとつも……たてないようにしてくれている。


「シルフが来てくれなかったら、きっと僕らは負けていた。そして、トーマ君が来るまで耐えられなかった。むしろ、気付いてすら貰えなかったかもしれない」

「……」

「僕は弱い。シルフも知ってると思うけど……すっごく弱い」

「それは……えっと……」


 僕の言葉に、微笑んでいた顔が、なんとも言えない……苦笑交じりの顔に変わる。

 でも僕は、それをあえて見ないふりをしつつ、言葉を繋いだ。


「けど、強くなるよ。今日みたいな事があっても、自分だけじゃ無くて、ラミナさんも守れるくらいに、強くなる。……だから、それまではさ」


 変な緊張がはしり、咄嗟に撫でていた手を止めて、深呼吸をひとつ。

 そうだ……僕が彼女に伝えたいのはこれだけなんだ。


「だから、それまではさ、僕と一緒にいて欲しいんだ。僕は……シルフと一緒に成長していきたい」

「アキ様……」

「これからもよろしくね、シルフ」


 返事は小さすぎてよく聞こえなかったけれど、下ろした僕の左手に彼女の手が繋がれた。

 その温もりがひどく優しくて、僕は自然と、彼女を抱きしめていた。


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