118. 友達
『アキさん、他のメンバーは揃っているが……』
「す、すみません! 今、走ってますぅー!」
『急ぐのはありがたいが、コケたりしないよう気を付けて』
「はいぃぃ!」
アルさんとの念話が切れ、少しだけ聞こえていた念話特有のノイズも消えた。
シルフに空気抵抗を減らしてもらいつつ、広場の端を駆け抜ける。
まさかこんな日に限って、ログインの時間がズレるなんて!
「ホントもう! 直前になって買い物を頼まれるとかっ!」
ログイン直前に買い物を頼んできたお母さんに、毒づきつつ足を動かす。
よし、広場を抜けた!
この大通りをまっすぐ抜けていけば――ッ!
「わ、わっ!?」
「あらあら……」
物陰から現れた人にぶつかりそうになり……腕の中にぽすっと受け止められる。
「アキちゃん、急に飛び出してくると危ないわよぉ?」
「す、すみません……」
抱かれていた腕から離れ、一歩後ろに下がる。
そして改めて相手を見れば、金と黒の髪をした細身男性……フェンさんがいた。
「もぅ……。女の子なんだから、VRとはいえ不用意にオトコに触らせちゃダメよぉ?」
「あ、はい……」
「うん。いい子」
そう言って、フェンさんは優しく微笑む。
それだけで、なんだか場の空気が軽くなった気がした。
「それでぇ、どうしたの? 急いでたみたいだけど」
「あっ! そうでした! あの、友達と約束してるんです!」
「あら、そうだったの? この間と同じ人?」
「そうですね。その人たちもいます」
「あらあら。アキちゃんには、いっぱいお友達がいるのねぇ」
「あ、その……そういえば今日はリュンさん、いないんですか?」
フェンさんの言葉に返さず、僕は咄嗟に話を変えてしまう。
その、僕の話をされるのが恥ずかしかったこともあるけど……なんだかフェンさんの笑う顔が、少し寂しそうだったから。
「リュン? あの子がどうかしたかしら?」
「あ、いえ……。フェンさんの友達って、リュンさんくらいしか知らないので……」
「……友達。 ふふ、友達……ね」
何かがおかしいみたいに、フェンさんは口元を手で隠して笑う。
なんだろ、何か変なこと言ったかな……?
「あの、どうかしました?」
「いえ、なんでもないの。ただ、アキちゃん……訂正しておくわぁ」
そう言って、フェンさんは手で口元を隠したまま、笑うことだけをやめて、僕の方をジッと見つめ口を開いた。
「あの子は、友達じゃないわ。大事な……『ビジネスパートナー』よ」
「ビジネス、パートナー……?」
「ふふ。ほら、アキちゃん。お友達を待たせてるんでしょぉ? 早く行ってあげないと……」
「あ、そうでした! すいません、ではまた!」
「はぁい。またねぇ」
口元を隠したままのフェンさんに頭を下げて、横を通り過ぎる。
やばいやばい、すっごい遅れちゃった!
でも、フェンさん……ああ言ってたけど、ホントにリュンさんと友達じゃ無いのかなぁ……?
2人でいたとき、楽しそうに見えたんだけど……。
「ごめんなさい! 遅くなりました!」
カランと軽い鈴の音を鳴らしながら、待ち合わせ場所の喫茶店……Auroraの扉をくぐりぬける。
「お、やっと来たか。遅いで」
「ごめん。ちょっと途中で人に捕まって……」
「まぁええわ。時間はまだあるしな」
「アキさんは空いてるところに座ってくれ。全員揃ったところで、そろそろイベントの話をしようか」
トーマ君に苦笑いしつつ、アルさんの指示に従って空いてる席に座る。
場所的には、カナエさんの隣。
近くには、リアさんやティキさん、キャロさん……ってここ女性ばっかり!?
空いてた席がここだったから座ったけど、僕こっちに混ざるの……?
「まず、目的の自己紹介と行きたいところだが……。アキさんが来る前に済ませておいた」
「あ、はい」
「アキさんは全員とお知り合いですから。大丈夫ということになりまして……」
「なるほど、わかりました」
フォローしてくれるカナエさんに頭を下げつつ、唯一立っているアルさんへと視線を戻す。
どうやら、進行役はアルさんがやってくれるみたいだ。
「そこで早速だが、イベントの話に移りたいと思う」
アルさんの言葉に、みんながそれぞれのタイミングで頷く。
それを確認して、アルさんはまた口を開いた。
「ただ、まだ内容が分かっていないため、これと言って話が「せやったら、情報手に入れといたで」……ならトーマ、頼む」
アルさんの話を遮って、トーマ君が声を上げる。
広場の掲示板が更新されたってことじゃないのかな……?
そうだったら、たぶんアルさん達も知ってるはずだし……。
「そんじゃ、ちょっと説明すんで。これは……住民と行商人に聞いた話や」




