第18話
「ご主人様、なにか気づいたんですか?」
「パルメーナは命が長くないのかもしれないとふと思った」
「パルメーナ様が……!? どうしてそう思われるのですか?」
「パルメーナはガルートと戦う際、魔剣を使ったが、気絶するまで消耗していた。ちょっと異常だ。そこまで消耗するということは魔剣のせいだけじゃなくて、病気かなにかなのかなと。これは完全に俺の勘だけどな」
「なるほど」
なんにしても、パルメーナは父親に反逆しないといけないほど時間がなくて切羽詰まっているのだろう。俺のようなものを絶対裏切らない部下にしたがるのがいい証拠だ。
「話は変わるが」
「はい、ご主人様」
「俺、どうかしてるのかな?」
「それはどういう意味ですか?」
いきなり漠然としすぎた質問をされて、エスリーは少し困惑ぎみだ。
「わりぃ。いくらなんでも分かりにくすぎたな。俺は自分の行動が自分でも理解できなくてな」
「というと?」
「好きなメイを手に入れるのに邪魔なガルートを自分では殺せないからって魔王軍に殺させようとしたかと思えば、いざガルートがパルメーナに殺されそうになるとかばってしまうし。ガルートに惨敗して強くなろうと決心するもいざやってみると無抵抗なモンスターを殺せなかったり……。自分でもどうなってるんだと思う」
エスリーは優しく微笑む。
「ご主人様はそれでいいと思います。少し衝動的なところがあるかもしれませんが」
「少しどころか完全に異常だよ」
「きっとお疲れなんです。今日は早目にお休みになってください」
「そうだな、きっと疲れてるんだな」
エスリーに勧められて俺はすぐに眠りについた。
あらゆることに原因があるように、俺が精神的に不安定なところがあるのにもそれなりの原因が存在していた。しかし、そのときの俺はそんなことを知るよしもなかった。
次の日になって、パルメーナが炎の塔を再び訪れた。
「ディル、エスリー。今日は折り入ってお前たちに話がある」
俺たちは炎の塔の最上階の一室で話をはじめた。いつもは立ち話をしたがるパルメーナも珍しく椅子に座った。きっと大切な話があるのだろう。
「お前たち二人は、私の部下だ。父上ではなく私のな。今日話すことは誰にも言ってはならん。よいな」
「「はい」」
俺たち二人を探るように見たあと、パルメーナは話を続けた。
「私は父上を倒すことに決めた。そこで、お前たちにも協力してもらう」
「パルメーナ様、魔王様を本気で倒されるおつもりなのですか!?」
エスリーは驚いた口調で言った。彼女はパルメーナから初めてこの話を聞いたことになっている。実は俺からすでに聞いているが、そのことがバレないよう演技をしたわけだ。
「ああ、私は本気だ。お前は私に従ってくれるな、エスリー」
エスリーは少し戸惑うふりをしてから、
「はい」
と答えた。
「さて、父上を倒すためにはダークシールドを破れなくてはならない。そのためにはディルの光の剣が必要だ。だが、それだけではダメだ。今のディルは弱すぎる。光の剣があっても父上には傷ひとつ負わせることはできん。そこでだ。お前を強くするしかない」
「どうやれば俺は強くなれるのですか?」
それは俺が最も関心のある事柄の一つだった。
「手っ取り早い方法はモンスタージェネレータを破壊することだ。実は、この方法ならモンスター一匹一匹を殺すより遥かに速く経験値を得ることができる」
「そんな方法が。それは初耳です。ただ俺にはジェネレータを破壊できません」
「そう、問題はお前はジェネレータを破壊できないことにある。よって、お前にジェネレータを破壊するための強力な技を身につけてもらう」
「ジェネレータを破壊するための強力な技? そんなものがあるのですか?」
「ダークブレードだ」
「ダークブレード?」
パルメーナは頷く。
「ダークブレードは勇者の使う光の剣みたいなものだ。刀身に闇をまとわせ攻撃する」
「でも、俺の光の剣ではジェネレータの破壊は不可能でした。なら、ダークブレードでも難しいのでは」
「大丈夫だ、おそらくダークブレードならジェネレータを破壊できる」
彼女にはどうやら確信めいたものがあるらしかったが、その確信がどこから来ているのかは分からない。
そして、早速俺の修行が始まった。
「まずは剣を持たずに。そして、ガルートに対する憎しみを思い出せ。その憎しみを手のひらに集める感覚だ。闇が集まってくるはずだ」
パルメーナに言われた通りやるが全くうまくいかない。
「これは訓練あるのみだ。憎しみを餌にして闇を呼び集める。憎しみは安定させなければいけない。不安定なものでは闇は集まってこない」
高度に感覚的な説明で、俺にはできるようになる気がしなかった。次に来るまでにできるようにしておけと言ってパルメーナは去っていった。
その後、俺は四六時中その練習を続けた。
安定した憎しみとはなんだろう。
逆に不安定な憎しみとはなんだろう。
そのように思いめぐらせながら、何度も何度も繰り返した。
だが、数日後またパルメーナが現れた時にもまだできるようになってはいなかった。
そのことを告げると、
「仕方がないな」
パルメーナはそう言ったかと思うと側にいたエスリーの腹のあたりを殴った。




