第14話
「ディル!?」
「お前を殺す! 殺すと言ってるんだ!」
「待て! ディル!」
「お前さえいなければ!」
俺は剣を抜いた。
剣に光を帯びさせる。
光の剣だ。
ガルートに向かって容赦なく振るう。
だが、俺の攻撃は全て避けられる。
「ディル、話そう。話せば分かる」
「お前は何も分かっていない。何もな。お前の全てが気に入らない!」
「止せ!」
ガルートが不意に突きだした拳が俺の剣を弾き飛ばした。
「やめるんだ、ディル!」
俺は懐からモンスタージェネレータを取り出した。
黒い宝珠が淡く輝き、数匹のファイアーリザードを生み出す。
「いけっ!」
俺のかけ声で一斉にガルートに襲いかかるリザードたち。
「ディル、モンスタージェネレータを!?」
戸惑いながらもガルートは苦もなくリザードたちを瞬殺した。
「そんなものをどこで!?」
「お前には関係ない!」
ファイアーリザードじゃダメだ。
弱すぎる。例え一万のリザードがいてもこいつは倒せない。
俺はジェネレータを握りしめた。
共鳴しろ! あのときみたいに。
進化しろ!
心のなかで念じた。
すると、それに答えるように光るジェネレータ。そして、ジェネレータは一回り大きくなった。
俺は再びジェネレータからモンスターを呼び出す。
ミニレッドドラゴンが数匹現れた。
「殺せっ!」
俺の声を聞いて、ドラゴンたちがガルートめがけて飛びかかる。
だが。
結果はリザードたちのときと同じだ。
一撃でドラゴンたちを粉砕するガルート。
ダメだ!
こんなショボいジェネレータじゃダメなんだ!
もっと! もっとだ!
もっと強くなれっ!
ジェネレータを強く強く握りしめた。
すると、ジェネレータが再び輝き出す。
そして、俺の手の中でさらに大きくなった。
俺が指で軽くつつくと、ジェネレータから巨大な黒い塊が溢れ出す。
それは竜の形をとると、赤みを帯びる。
間違いない。
レッドドラゴンだ。
「ディル、あの魔族の娘からそんな芸当を教わったのか? ジェネレータを強くするなんて」
俺はさらにジェネレータから5匹のレッドドラゴンを生み出した。
「ガルートを殺すんだ」
計6匹のレッドドラゴンがガルートの周りを取り囲んだ。
「ディル、こんなことをしても無駄だ」
そう、無駄だ。無駄だろうよ。
だが、俺は止まらなかった。
6匹が同時に攻撃するが、そのうちただの一発もガルートに当たることはなかった。そして、順番にやられていくドラゴンたち。
1匹だけが辛うじて生き残っただけだった。
なんという不甲斐なさ。
俺の力というのはせいぜいこんなものなのだろうか。
俺はすでに弱りかけたレッドドラゴンにさらに突撃を命じた。
とにかく戦え!
そう強く念じると、レッドドラゴンの体から黒いオーラが出始める。
ガルートはここで初めて身構えた。
やつは一瞬で分かったのだろう。
このレッドドラゴンは油断ならないと。
限界を超えて力を発揮しているからだ。
ドラゴンは先ほどとは比べ物にならないスピードでガルートに襲いかかった。
牙、腕、尻尾、次々と攻撃を繰り出す。
ガルートはそれらをなんとか避けている。
「よし、いいぞ! 殺せ! 殺してしまえ!」
ガルートにはさっきまでの余裕はなさそうだ。ドラゴンの間髪入れない攻撃はガルートを押しているようにも見える。
だが。
それは錯覚だった。
瞬間、ガルートの見舞った一撃がドラゴンにとどめをさしてしまう。
崩れ落ちるドラゴンにもう戦う力はどこにも残されていなかった。
そしてそれは俺にも戦う力が残されていないことを意味していた。
「ディル、さらばだ」
そう言ってガルートは去っていった。
俺はがっくりと膝をついた。
持てる全ての力を出して戦ったが、ガルートにかすり傷ひとつ負わせることはできなかった。
悔し涙も出なかった。
これじゃダメだ。
ダメなんだ。
俺はこの時、心に誓った。
魔王になると。




