第13話
復讐の子とはなんのことだろうか?
エスリーのことか? それとも俺のことなのか?
何にしても俺たちを助けてくれたのだ。礼を言って間違いではないだろう。
「ありがとう、白いドラゴンさん。俺たちを助けてくれて」
「礼には及ばぬ。復讐の子よ」
どうやら復讐の子というのは俺のことらしい。
「復讐の子というのはなんなんだ?」
「お前のことだ。その意味をやがて知ることになるだろう」
そう言われても意味が分からない。
「どういうことなんだ?」
だが、ドラゴンはそれ以上何も語らない。
どうやら教えてくれる気はないようだ。
「では、気をつけて帰るがよい」
そう言うと霧が濃くなり、白い竜は見えなくなった。気配もなくなった。
一体、なんだったんだろう。
「このあたりにはモンスターはいないって聞いていたが」
「そのはずですが、なんだったんでしょうね」
「なんにせよ助かったな」
「はい」
俺とエスリーはほっと息をついた。
その後、青い騎士に襲われることもなく俺たちは森を抜けた。
ドラゴンに乗って炎の塔まで帰った。
「この水を腐らせるわけにいかないから、早くメイのところに持っていかないとな」
「行ってらっしゃいませ。わたくしはお留守番しておきます」
「ああ、よろしく頼む」
「ただ、気をつけてくださいね。わたくしのためにガルートさんとケンカになってますから」
「分かってる」
俺は再びドラゴンの背に乗ってレゲナ村に急いだ。
そして、宿屋を訪ねる。
メイが怪我をしたからだろう、二人はまだ移動していなかった。
また、ガルートが俺を出迎える。
「よく戻ってこれたな」
ケンカ別れしたガルートはさすがに機嫌がよくない。だが。
「これを持ってきた」
「なんだ?」
「アリアスの泉の水だ」
「アリアスの泉? 聞いたことがある。どんな傷も癒すとか」
途端にガルートの表情が柔らかくなった。
「これならメイの火傷に効くかもしれんな。しかし、アリアスの泉はどこにあるかもあまり知られていない。よくそんなところに行ってこられたな」
「ある人が教えてくれたんだ」
まさか魔王の娘が連れていってくれたと言うわけにもいかない。
「早速飲ませてみよう」
俺がそう言うとガルートは首を横にふった。
「ちょっとお前と話したい。二人だけで」
俺とガルートは宿屋を出て、少し離れた人気のないところで話すことにした。
「それで、話ってなんだ?」
ひょっとしてまたケンカになるのかと思ったが、ガルートはずいぶんと落ち着いていた。
「ディル、お前がパーティーを一時的にもぬけると言っているのは、俺のせいか?」
いきなり直球の質問だ。
そうだ、そのとおりだ。
と言いたいところだが、さすがにそんな答えをするわけにはいかず。
「なんで、お前のせいなんだよ。前回話したとおり、俺はエスリーをなんとかしたいだけだ」
「本当にそうか? お前がメイを放っておいてまでそんなことをするなんて到底思えなくてな。お前はメイのことが好きなんだろ?」
そうだ。そして、お前が邪魔だ。
「確かに俺はメイが好きだ。だが」
「お前はメイが好きだが、メイは俺のほうが好きだ。それは分かってる。その場合、俺は邪魔になる」
こいつ。自分でそれを言うのか。
「自分のほうがメイに好かれてるって、そう言いたいのか? えらい自信だな」
「俺はそんな鈍感な人間じゃない。見てれば分かる。お前がメイに好かれたくて勇者になったことも」
「お前……」
火に油を注ぐかのように俺の怒りの炎を燃えあがらせてくれる。
ガルートは続ける。
「メイはいい子だが、俺はお前からメイを奪うつもりはない。お前は俺の友達だからな」
「……」
「俺は本当にお前からメイを取ることは考えていない。俺は格闘家適性Aだったが、勇者適性はSだった。本当は勇者になりたかったが、それはお前に譲ったんだ」
な、なんだと。
今、こいつはなんて言った。
俺の中で何が切れた。
「なんだよ、それどういうことだよ!? 俺のために勇者になることを諦めたってのか!?」
「ああ、お前とメイにうまくいってほしくてな」
「ふざけるな!!」
俺は叫んでいた。
「お前は全てお見通しで、それでも俺に勇者を譲るために、一番向いてる勇者になるのをやめて、格闘家で妥協したってのか!」
許せなかった。
俺が欲しいものを全てもっていながら、それに執着すらしない。
そんな、立派すぎるやつが心底許せなかった。
俺は俺があまりに惨めだった。
「よせ、ディル!」
気がつけば俺はガルートに殴りかかっていた。
だが、所詮非力な俺だ。
俺の拳は軽々と受け止められていた。
「くそったれが!」
だが、俺はかまわず拳を押し付ける。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
ガルートを殺したいという一心で睨みつけた。
「ディル……」
ガルートはそんな俺を哀れむような目で見ている。
俺はこいつに哀れまれるために生まれてきたんじゃない。
思えば、ずっと昔からこいつは俺の敵だった。最大最強の敵だった。モンスターが敵でもない。魔王が敵でもない。こいつが。ガルートがずっと俺の敵だったんだ。こいつを殺すしかないんだ。
そのことが今本当に分かった。
「ガルート、俺と戦え」
「ディル、何を言って……」
「お前を殺す」




