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35.モルモちゃん、新入りたちと改めてのご対面

 夏空の下、場所は美しい海が広がる浜辺。

 そこで今、私たちは、机と椅子を並べて座っている。

 混乱を防ぐため、モルモちゃんだけは一度私のポケットに入ってもらっているけど、あとはみんな簡易な屋根の下で、円になって座ってもらっている。

 ケビンさんの足元に隠れて出てこないマチュちゃんのことは一旦置いておいて、まずはモルモちゃんのことを知らない方々へ説明することにしよう。


「ケビンさん、ロキさん、ポポさん、それにザク君はもう知っていることなんですが……」

 私はまずはワンクッションと、前提を話して一拍置いた。

 すっかり落ち着いたキースさんと、ブッチ&サンダンス君に聞かせるように。

「先ほど天から降ってきたのは、私の知り合いです」

 知り合いと、それだけで済む話でないのは分かっているのだが、なるべく穏便に話すにはこの言い方が一番良さそうな気がする。

 ロキさんが小声で「モルモちゃん様の家族の白い男の子? 女の子? あの子は俺、知らないけど」って言っていて、それをポポさんが「後にしい」となだめてくれている。

 ポポさんにはあとで一口パンケーキをプレゼントだ。

 円滑な説明のために、ご協力感謝する。

 キースさんとブッチ&サンダンス君が話を聞いてくれているのを確認して、話を続ける。

 キースさんはなんとなく嬉しそうに微笑んでいるし、サンダンス君は好奇心に少し前のめりだ。

 そんなサンダンス君に座られているブッチ君も、未知の怖いものではないと分かったからかおずおずとサンダンス君の背中から顔を出して話を聞こうとしてくれている。

「それで、まあ、知り合いは神様でして。この子がモルモちゃん、あ、モルモティフ様で、そっちの子はモルモちゃんのお友達です」

 モルモちゃんの入っているポケットを撫でながら言うと、キースさんもサンダンス君も目がキラキラだった。

 サンダンス君は興味ありそうだったし、ポケットを見ながら目を輝かせていて分かるけど、キースさんはなんで目を輝かせて両手を組みながら、私の顔を見ているのかな?

 そんなことを考えている間にも、ブッチ君の呪縛を振りほどいたサンダンス君が立ち上がり、机に両手をついて身を乗り出した。

「それってそれって! あの可愛い白いほうの子は教会の絵の神様ってこと!? もっかい見たい! もっとちゃんと見たい!」

「おい、サンダンス、ちょ」

 ブッチ君は慌てて、またサンダンス君のズボンを掴んでぐいぐい引っ張っている。

 もうそこに取っ手とか付けてあげればいいんじゃないかな。

 それで、サンダンス君はズボンがずり落ちないように、サスペンダーとか付ければいんじゃないかな。

 先ほど、モルモちゃんとマチュちゃんが二人でわちゃわちゃしてるとき、兄ズも彼らもその様子を見ていると思っていたけど、ブッチ君があれだけ取り乱していたのもあって、サンダンス君もろともちゃんと見ていたわけではなさそうだ。

 セツさんと初めに挨拶を交わしたときに見ていたけど、それは空から降ってきたセツさんも含めて興味津々だっただけらしく、セツさんに抱っこされていたモルモちゃんのことは視界にはっきり映っていなかったとのこと。

「まあ、私もちゃんと、双方に紹介できるのが一番だと思っているんですが……」

「「思ってるんですが……?」」

 ブッチ&サンダンス君は、私の言葉を復唱してごくりとつばを飲み込んだ。

「あんまり間近で見ると、モルモちゃんが、かわいすぎてびっくりするんじゃないかと」

「「かわいすぎてびっくり……?」」

 不思議そうな二人は、顔を見合わせて同じ方向に首を傾げていた。



 そして



「無理! 無理すぎるんですけど!! 無理ィ!」

「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」


 こうなった。

 まあ、予想はできていたさ。

 モルモちゃんも、奇怪なその様子を見ても、今回は実害がなさそうなので割と余裕があるほうだ。


 + + +


 先ほど、私の話を聞いても、神様というものにもピンと来ていなかったブッチ&サンダンス君には、いっそモルモちゃんとしっかり対面してもらうことになった。

 割とモルモちゃんをしっかり視認していたキースさんも平気そうだし、一気にやらかしてしまおうと思ったのだ。

 モルモちゃんに出てきてもらいますと言ったら、ロキさんとポポさんは慣れたもので、腕を組んで椅子に座っているケビンさんを机から離れた場所へ移動させ、二人もケビンさんのそばに佇んだ。

 ザク君は私のそばに来て、隣に立ってくれている。

「ザク君、何があるか分かりませんから、机から離れていたほうが安全ですよ?」

「何があるかわかんねーから、ヨウのそばにいる」

 ザク君は私に並んで正面を向いたままで、間髪入れずにそう答えてくれた。

 ちょっとキュンだ。

 これくらいの年の男の子って、こんなにしっかりしてるんだなあと、なんだか嬉しくなる。

 仲良くなって、ちょっと慕ってもらえているかもとは思っていたけど、危ないかもしれないからそばにいてくれるなんて、ちっちゃな騎士様(ナイト)だ。

 ぶっきらぼうなところがまたポイント高い。

 可愛かったので私はザク君を一撫でして、それから机の席についたままの三人を見る。

 ブッチ&サンダンス君は、やっと一人一つの椅子に座って、ちょっと緊張しているみたいだけど、期待って感じの顔をしている。

 キースさんは相変わらずの微笑みだ。

 冷静だし、イケメンだし、親切だし、悪い人ではないんだけどなー。


 私は、ポケットのモルモちゃんに話しかけた。

「ちょっと流れで、新しく知り合った三人にもモルモちゃんを紹介したいんだけど、いいですか?」

「プイ」

「あー可愛いねえ、なんか久しぶりのポケットモルモちゃん染みるな~」

 私は、相貌を崩してデレデレになる。

 単純に、私のポケットからこちらを見上げているモルモちゃんが可愛い。

 小さなお手てをひょいと上げて請け負ってくれる様は、本当にこのまま連れて歩いてどこへだって連れて行ってあげたくなってしまう。

 そういえば、と、私は自分のポケットにモルモちゃん仕様の魔法をかけた。

 すっかり忘れていたけど、前にかけたラグジュアリーで快適なくつろぎスペースを提供する空間魔法さんは解除されてしまっていた。

 私もすっかり忘れていたから仕方ない。

 魔法さんは今回もしっかりお仕事をしてくれて、私のポケットの中は以前と変わらぬ落ち着きがありながらも広くて柔らかそうな、可愛らしいお部屋へと変貌を遂げた。

 もちろん、モルモちゃんお気に入りの熊さんだっている。

「プイプイプイプイ」

 ご機嫌なモルモちゃんは、熊さんに挨拶してからそのお腹の上を一度通過した。


 私は、三人に改めて向き合って、心の準備をしてもらう。

「では、机の上に出てもらおうと思いますが、何点か注意事項があります」

「注意事項?」

 キースさんが不思議そうにしているけど、この手の注意はされ慣れているブッチ&サンダンス君は普通に受け入れ態勢だ。

「まず、登場するキャスト(モルモちゃん)には、許可があるまでお手を触れないでください」

「はい」

「それから、応援の声援は送っていただいて構いませんが、攻撃的な内容や、敵意ある発言はお控えください。キャスト(モルモちゃん)は私たちの味方です」

「はあ」

 ちょっとキースさんが怪訝そうにしている。

 でも、これは必要な注意なんだ。

 実際、「命懸けでこいつを止める!」をしてしまったレックスのアニキの例がある。

「最後に、これから登場するキャスト(モルモちゃん)とのひと時をお楽しみください。それでは、グッドラック」

 そう言って私は、なるべく優美に見える所作で立ち上がると、ポケットの中のモルモちゃんを両手で包み込んだ。

 そのまま机の上に両手を出すと、三人の視線が集まっていることを確認する。


 ゆっくりと、両手を開いてモルモちゃんを机の上に登場させた。


「プイ」


 ガタガタガタガタガターンッ


 椅子をひっくり返して、ブッチ&サンダンス君が立ち上がった。

 私は魔法で二人をその場で拘束する。

「ぐえ!?」

 変な声を出したのは二人のうちのどちらかわからないけど、苦しくはしていないはずだから大丈夫なはずだ。

 暴れられるのは阻止したい。

 魔法の使い方もこなれてきた私は、結構実力行使に躊躇がなくなってきていた。

「Be Cool、ビークールですよ二人とも!」

 私は二人にヒ・ヒ・フーと、なぜかラマーズ法で呼吸を促した。

 落ち着くのは私が先かもしれない。

 モルモちゃんのとびきりの可愛さも知っているし、この世界の人の可愛さへの耐性のなさも知っているので、ちょっと浮足立ってしまうのは相変わらずだった。

 私の促すままに、ヒ・ヒ・フーと呼吸を整えた二人を見て、私はキースさんはどうかとそちらを向いて驚いた。

 キースさんは、椅子に座って微笑みのままで、首を机にもたげてめちゃくちゃローアングルでモルモちゃんを見ていた。

 じーーーーっと、穴が開いちゃいそうなくらい見ている。

「キースさん?」

「目の前にすると、とんでもないお可愛らしさですね……。平伏したいのに、目が離せない……」

「ああ、だからそんなにローアングルに」

 キースさんは、頭を下げようとしたものの、やっぱり見ていたいという思いが勝ったらしい。

 机にへばりつくようにしながらも、じっとモルモちゃんを見ているキースさんは、やはり冷静そうに見えるけれどモルモちゃんの魅力にメロメロなことに変わりはないらしい。

 そして、問題は、激しめの衝動を見せたブッチ&サンダンス君だ。

「ヒ・ヒ・フー」

「ヒ・ヒ・フー」

「あ、もういいよ、ごめんね」

 二人は素直で、呼吸法を実践し続けてくれていた。

 これで出産に臨むときも大丈夫、いや、本人たちは産まんだろうけども。

 素直ないい子たちだな、もう!

「二人は、先ほどの注意事項を守れますか?」

 コクコクコクコクと、二人は頷いてくれている。

「キャストには?」

「「手を触れない」」

「応援はしても?」

「「敵意を向けない」」

「では、キャストとのひと時は?」

「「楽しむ!」」

「よろしい」

 私は二人のいい笑顔を見て、魔法の拘束を解いた。

 モルモちゃんも、机の上でバッチコーイと待ってくれているしね。

 二人はそろってしゃがみこむと、机の高さにひょっこり頭を出して、机の上のモルモちゃんに目線を合わせるようにかぶりついて見始めた。

「かわいい~! 無理ぃ!」

 サンダンス君は、目の中にハートが見える気がする。

 ニヨニヨとモルモちゃんを見て、小さく手を振ってアピールしている。

 アイドルのライブを見ているファンみたいだ。

 それにモルモちゃんももちろん気づいているけど、変なところで硬派なモルモちゃんから、そう簡単に軟派なファンサは返ってこないぞ。

「ブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 その隣で、サンダンス君と同じ体勢のブッチ君は、笑顔でもないし、まだ怖いのかと思ったんだけど、何か小声で呟いているみたいだった。

「おい、ヨウ」

 ザク君が、私を引き止めようと怒ったみたいな声を出した。

 ブッチ君が何言ってるか気になるから、ちょっと近づこうと思っただけなのに、ちっちゃい騎士さまは過保護属性があるらしい。

「大丈夫」

 そう言って、ちょいちょい移動してブッチ君の側まで行くと、小声で呟いている言葉が耳に届いた。

「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」

「えっ、怖!!」

 私は飛びずさって、ちっちゃい騎士さまの後ろに隠れた。

 呪詛か!?

 ブッチ君、こわ!


なんとこの度、この作品のイラストをいただいてしまいました!


詳細は活動報告にも記載しておりますが、以前、当作品のスピンオフの短編の扉絵をくださった『珠音ギスキ様』が描いてくださったモルモちゃん(&ヨウとザク)(ちょっとイラストのモルモちゃんが可愛すぎて贔屓してしまう)です!

(前回いただいた素敵作品をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらから『【短編】転生主人公が料理チートをしている世界で、猫科モブ獣人の少年二人が幸せになる話』https://book1.adouzi.eu.org/n4904gu/の挿絵もチェックしてみてください)


モルモちゃんたちの可愛いイラストは、本作のプロローグの次、『1.社畜、可愛いモルモットと出会う』にも許可をいただいて掲載しています!

モルモちゃんが実在するのではと思ってしまうほどの、高クオリティのモルモちゃんを、ぜひみなさまもバッチリくらってくださいませ!

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