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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
75/153

50年後の勝利






 深夜、帝都ヨシュアの路地裏にて。




「夜分遅くにすみません。」


「いえいえ! 気にしないでください。これがわたしの仕事ですから。」




 他の世界と繋がる、異界の門を前に。フェアリー族の受付嬢シャナと、彼女に呼ばれた陰陽師の”ユリカ”。そして、付き人の”シュラマル”がやって来る。


 異界の門への対処法は、未だに帝都でも普及しておらず。専門家であるユリカが、直々に対処に当たっていた。




「ユリカちゃん、いけそう?」


「うん。門を閉じるだけなら、大きさ的にも問題は無さそうだけど。」




 ”今回の件”に関しては、そう単純に解決することが出来ない。




「向こう側に、人が居るんですよね?」


「はい。これを知らせてきた冒険者の方々によると、少なくとも3人、向こう側へ渡航しているとの話です。」


「ふーん。ならまずは、そっちの問題をどうにかしなきゃだけど。」




 シュラマルが、異界の門へと腕を突っ込み。すぐに引っこ抜く。

 その手には、向こう側の”砂”が握られていた。




「完全に”埋まってる”ね、向こう側。」




 何故、そうなったのか。彼女たちには到底理解できないものの。向こう側が砂に埋もれて、渡航不可能なのは明らかであった。




「Sランクの、イーニアさんを呼びましょうか。」



 この問題に対して、シャナはイーニアに解決を依頼しようと考えるも。

 ユリカはそれに難色を示す。



「他の世界だと、アビリティカードの力が使えないので。”それ抜き”で、強い人を呼ばないと。」


「魔法使い、ですか?」





「……ううん。強いて言うなら――”氷使い”。」








◆◇








「ふぅ。」




 砂漠の真っ只中、デラックスワゴンの車内から。”魔導式スナイパーライフル”を構えたミレイが、スコープ越しに遠方を見つめる。


 遥か彼方、旧アメリカ空軍基地を。









「あれ、こいつら動かねぇぞ?」




 半ば、廃墟と化した基地にて。


 少年2人が入った檻を、1体のロボットが叩く。

 檻の中の少年2人は、ぐったりと横たわっており。”犬の餌入れ”に入った食べ物も、手つかずで残っていた。




「ヤバいんじゃないか!?」


「おお、普通にヤベェ。このままじゃ死んじまうぜ。」




 檻という、劣悪な環境で捕らえておきながら。不思議とロボットたちは、少年たちの状態を気にしている。




「どうするんだ! ”繁殖させて金儲け”じゃなかったんか?」


「知るかよ! 人間の飼育なんて初めてなんだからよ。」




 彼らカーメルに、人間の命を尊ぶ感情など存在せず。

 ただ単純に、”珍しい生き物”として扱っていた。


 檻の周りで、2体のロボットが揉め合っていると。そこにもう2体、別のロボットが近づいてくる。




「スケアクロウの奴が、もう一匹を探しに行ってんだろ? 多少死んでも大丈夫だろう。」


「そうそう。活きの悪いのは捨てちゃおうよ。」




 揃いも揃って、彼らは人間を下等動物扱いしていた。




「それもそうだな!」


「おう! あのクソが帰ってくるの待つか。」




 そのスケアクロウが、砂漠で討ち取られたとも知らず。

 少年たちの入った檻のそばで、彼らは笑っていた。










「……マズいな、普通に4体いる。」



 スコープを覗きながら、ミレイがつぶやく。




「当てが外れたわね。」



 1~2体ならまだしも。こちらと同数の敵を相手にするのは、流石に分が悪かった。




「でも、来て正解だったかも。」


「どういう意味?」


「ティファニーちゃんの友達、すぐに助けないとヤバそうだ。」




 スコープ越しながらも。少年2人が危険な状態なのは明らかである。

 命を最優先に考えて、奪還のタイミングは今しかない。


 ライフルの実体化を解いて、ミレイは車から降りる。





「キララ、大丈夫?」


「うん。屋根でちょっと寝れたから、平気だよ。」




 車の屋根の上で、キララは伸びをする。すでに戦闘準備は完了していた。





「行くわよみんな!」


「「「おおー!!」」」




 子供たちを救うため、決死の作戦が始まる。















「あ、そうだ。小さめの頭蓋骨が欲しかったから、どっちか解剖したいな。」




 そうつぶやきながら、1体のロボットが、少年たちの入った檻に手を置く。

 少年たちは、震えることしか出来ず。その仕草に、ロボットは更に愉快な気持ちになる。




「フフ。」




 その暴挙を止めるものは、周囲にはおらず。より恐怖を与えるように、檻を指先で引っかく。

 そんな、さなか。



 空間が軋むような、刹那の音が聞こえ。






「――あっ。」






 そのロボットの胸部に、”大きな穴”が空いた。


 急所を射抜かれたことで、その瞳から光が消える。






「アーチがやられた! 狙撃手がいるぞ!」



 襲撃を認識し、ロボットたちが戦闘行動に移行する。










――細い奴が射撃タイプだ。真っ先にそいつを狙ってくれ。



 ブラスターボーイの言っていた言葉を頼りに、射撃タイプと思われる敵を狙撃し。

 砂漠の丘の上で、キララは1人、静かに息を吐く。




「もう1発、いけるかな。」



 攻撃の手は緩めずに。再度の射撃を行うため、キララは弓に魔力を込め始めた。











「どこの誰かは知らんが、ぶっ殺してやる!」




 狙撃を行ったキララのもとへと、残る3体のロボットたちが向かっていく。

 それにより、基地はもぬけの殻となり。


 ミレイと九条の2人が、車を消して徒歩でやって来る。他のロボットたちに見つからないよう、あくまで慎重に。




「あそこの檻に入ってる!」


「ええ。」




 少年たちの入れられた檻を見つけ出し。

 九条が髪の毛を使い、檻を力ずくでひん曲げる。


 すかさず、ミレイが少年たちのもとへと駆け寄るものの。




「か、体がめっちゃ熱いんだけど。」


「こんな環境で放置されてたんだもの、当然だわ。」




 少年たちは、意識も朦朧としており。その体は、とても正常とは思えないほど熱を発していた。今すぐに、適切な治療を施さなければ危ないほどに。




「車に乗せて、逃げましょう。」


「うん。」




 カードを起動し、再びデラックスワゴンを召喚する。

 子供たちを後部座席に乗せて、シートベルトを締め。急いで離脱しようとする。


 だが、





「――危ない!」



 九条のみが、”それ”に気づき。

 咄嗟に髪の毛を操作し、車を防御する。




「くッ。」



 巨大な”弾丸”を、その髪の毛で受け止めるも。

 衝撃を受け止めきれず、九条は吹き飛ばされる。





「瞳ちゃん!」




 ミレイは、驚きをあらわにし。

 そこへ不穏な影が飛来する。





「おとり作戦ってやつか〜?」





 キララのもとへと向かったはずの1体が、基地へと戻ってきていた。

 その左腕は、リボルバーのように変形しており、銃口からは硝煙が漂っている。




「俺の目を誤魔化そうったって、そうはいかねぇぜ?」




 続いて、ミレイと車に向かって銃口を向けるも。


 建物を足場に、跳躍したブラスターボーイの拳が、ロボットの顔面に突き刺さる。


 渾身の一撃を受け、ロボットは地面に激突した。





 髪の毛で、瓦礫をどかし。

 立ち上がった九条は、体についたホコリを払う。




「ミレイ、運転をお願い! わたしはこっちに加勢するわ!!」



「……わかった!」




 心配事は多々あるものの、何を優先するべきかを考え。

 ミレイは車の運転席へと座る。




「サフラ、足元お願い!」


『了解した。』




 しっかりと、前を見て運転するために。真っ白い触手が伸び、ミレイの代わりにアクセルを踏む。



 デラックスワゴンが、基地より離脱した。















 こちらへ向かって飛んでくる、敵対する2体のロボット。

 徐々に近づくそれを見つめながら。冷静に、キララは弓に魔力を込める。




(もう1体、倒せれば。)




 迫りくる、凶悪な殺戮の機械たち。その脅威に臆することなく、ギリギリまで、魔力を溜め続け。



 接近する直前に、解き放つ。



 敵を貫くに足る、十分な魔力を込めた一撃であったが。僅かに、軌道をずらされ。



 片方のロボットの、腕一本を切断するに留まった。





「くっ。」



 狙いを外し、それでもキララは冷静に地面を蹴り。敵との距離を取る。


 全力で宙を蹴り、出し得る最高速度で空を飛翔する。

 仕留めきれないのなら、なるべく敵を基地から引き離すために。


 だがしかし。ジェットによる推進力を持つロボット相手に、速度で対抗するのは分が悪く。

 すぐさま、追いつかれてしまう。




「死んでしまえ!」




 片腕をもがれたロボットは、残ったもう片方の腕を”剣状”に変形させ。キララを突き刺すべく振りかざす。


 キララは超人的な反応速度を持って、その攻撃を危なげなく回避し。



 そのまま、縦横無尽に飛び回る。



 最高速度では敵わなくても、俊敏性と小回りを利用し。2体のロボットを相手に翻弄する。




「こいつ、本当に人間か!?」




 片腕をもがれたロボットは、腕を剣に。もう一方のロボットは、拳を”ハンマー”のように変形させるも。キララの動きに、まるで反応することが出来ない。


 それを、好機と考え。キララは宙を飛び回りながら、魔法の矢を2体のロボットに浴びせる。

 だが、敵の装甲は非常に強度が高く。生半可な魔力では敵わない。




(わたしの速さじゃ逃げられないし。魔力を集中させないと、攻撃も通じない。なら――)




 激しい攻防のさなか、キララはそれ以上の速さで思考を巡らせ。魔法の矢に細工を施す。


 それを放つと。

 命中した箇所が、瞬時に凍りつく。


 だが、氷は表面に薄く張った程度であり。すぐに砕かれてしまう。





(氷はダメ。……ううん。わたしにも、フェイトちゃんくらいの力があれば。)



 生半可な小細工は通用せず。キララは自身の実力不足を痛感する。




(もっと、考えないと。)




 ただでさえ、ミレイの事が心配で仕方なく。焦りを感じながらも、キララは敵の倒し方を考える。


 そんな中で、




(あれ、なんだろう。)




 キララは、腕のもげたロボットに注目する。正確には、もげた腕の断面から生じる、微かな”放電”の輝きに。




(……光? 魔力じゃないよね。)




 それは一体何なのか。彼らは、何をエネルギーにして稼働しているのか。機械に疎いながらも、キララは冷静に思考し。



 それに、気づくと同時に。






「「――がああぁぁぁ!!」」






 2体のロボットを貫くように、凄まじい量の”電撃”が放たれる。


 それを成した張本人、キララは。

 小悪魔のような笑みを浮かべていた。




「貴方たちって、”ビリビリ”が苦手なんだね。」




 敵の構造を理解し。それに干渉するための手段を、瞬時に魔法で再現する。


 何よりも速く、そして強く。”進化”していくように。



 天性にして魔性の狩人は、弓を構えた。















「俺の名前は、”ザンダーキリング”! 冥土の土産に覚えとけや!」




 基地に残ったロボット、ザンダーキリングは空を飛びながら。左腕のリボルバーで、地上にいる九条たちに銃弾を浴びせる。


 すでに崩壊している建物等を隠れ蓑に、九条とブラスターボーイはなんとか攻撃を回避し。

 それでも、飛行能力を持つ相手に攻めあぐねていた。




「ブラスターボーイ、なんで貴方は飛べないのよ!」


「すまない、修理をする手段がなかったんだ。」




 敵の銃弾から身を隠しながら、2人は対抗手段を考える。




「君は、魔法のような力で飛べないのか?」


「まだ”習ってない”のよ!」




 ソルティアやキララなど、異世界の強者と接し。魔法の存在自体は認識しているものの。

 九条はそれを教えて貰う前に、このような面倒事に首を突っ込んでしまった。




「貴方こそ、その残った左腕を武器に変えられないの?」


「”手術”が怖くて、武器に改造したのは右腕だけだったんだ。」


「貴方たち、そういう仕組みなの?」




 そんな話をしながら。

 2人は敵の攻撃を必死に耐える。




「あいつもスケアクロウと同じで、そのうち弾切れを起こすはずだ。」


「ええ。そうしたら、もう一度”砲丸作戦”で行きましょう。」





 ただ、勝つために。

 その機を待ち続け。





「――あぁ?」



 ついに、ザンダーキリングのリボルバーが、全ての銃弾を撃ち尽くす。





「行くわよ!」


「ああ!」




 銃声が鳴り止んだ隙きを見計らって。九条が自身の髪の毛を操作し、自分ごと”黄金の毛玉”へと姿を変える。

 それを掴んだブラスターボーイは。ザンダーキリングへ向けて、思いっ切りぶん投げた。






――それは、スケアクロウにも存在した”油断”。



 人類が滅びて50年。敵対するセルシアス達も大半が撤退し。”旧幹部クラス”であった彼らは、砂漠と化したこの星で退廃的な日々を送っていた。


 娯楽と言えば、僅かに生き残った動物を狩ったり、スクラップを漁ったりなど。

 そんな彼らが、武器のメンテナンスなどを行っているはずもなく。ましてや、他の存在に命を脅かされるなど、夢にも思わず。



 その油断が、この戦いにおいては決定的となる。






 だがしかし。

 左腕のリボルバーが弾切れになっても、ザンダーキリングは動揺することなく。




「へへっ、一刀両断だぁ!!」




 もう片方の腕を、”剣”の形に変形させ。迫りくる黄金の毛玉めがけて、刃を振り下ろす。


 完全に、芯を捉え。

 その中身ごと、黄金の毛玉を真っ二つに斬り裂くために。



 だが、その刹那。





「――とんだ”なまくら刀”ね!」




 髪の毛を変形させた九条が、ザンダーキリングの刃を受け止める。


 50年も放置され、錆だらけになったサーベルなど。

 ”異世界のサムライガール”と比べれば、天と地ほどの差があった。




「わたしの髪の毛も、”変幻自在”なのよ!」




 ザンダーキリングの体に絡みつきながら。九条は自らの髪の毛を、より強力な形へと。

 高速回転する、2本のドリルへと変形させる。




 正真正銘、”金髪ドリル”の完成である。







 50年もの間。


 ブラスターボーイは、敵の情報を片時も忘れることはなく。

 武装をしっかりと把握し、厄介な射撃タイプも最初の狙撃で無力化した。




 彼らの敗北要因が、油断だとしたら。

 こちら側の勝利は、”堅実さ”によるもの。






「や、やめろおおお!!」






 2本の金髪ドリルが、ザンダーキリングに襲いかかった。









◆◇









 ザンダーキリングの体に風穴を開け。

 見事に勝利を収めた九条と、彼女を肩に乗せたブラスターボーイが、砂漠の道を歩く。


 彼らの向かう先には。白いワゴン車、デラックスワゴンが停まっており。


 そのそばに立つミレイが、笑顔で手を振っていた。





「2人とも凄かったね〜。わたしも援護しようと思ったけど、全然必要なかったかも。」



 彼らの勝利を、ミレイは素直に褒める。




「確かに、わたしたちは勝てたけど。キララのほうが心配だわ。」


「ああ。2体を相手に、上手く逃げ切れてればいいが。」




 勝利の余韻に浸る間もなく。

 彼らは、囮役を買ったキララのことを心配する。


 だがしかし。




「え? キララなら、もう帰ってきてるよ?」


「……へ?」





 ミレイの言葉を聞き、デラックスワゴンの車内に目を向けると。


 涼しい顔で、少年2人に治癒魔法を施すキララの姿があった。



 九条の視線に気づき、こちらに振り返る。




「あっ、ごめんね。1体そっちに行っちゃったかも。」


「……だ、大丈夫よ。」




 こっちは、2人がかりがようやく1体を倒したというのに。



 九条は苦笑し。

 より強くなるため、自身も魔法を習おうと決心した。













 ミレイたちのいる場所から、遥かに遠い場所。

 そこに、キララによってズタボロにされた2体のロボットが打ち捨てられている。



 体中の回路が焼き切れ。

 命が途切れる、その間際。



 どこかへ向かって、謎の信号を送っていた。






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