表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

人面獣 Ⅶ

 「04!!! 今すぐ撃てえぇぇぇぇ!!!」 


 ――Daboom(ズゥン)!!!

 カウントダウンも警告も無しに、84mm無反動砲(カール・グスタフ)が発射される。

 ロケットブースターで二段加速されるFFV551の飛翔速度は300m/秒近い。


 対爆姿勢を取る暇もなく風圧に引き倒された直後、甲高い爆発音がヘッドセットの防音機構を貫いた。






 #########






 『……こちら04……05を保護……心肺停止状(CPA)態!!』

 耳鳴りの中、骨伝導スピーカーを通して、嗚咽混じりの報告が直接頭蓋を叩く。

 

 俺達(チーム)の修羅場は去ってはいない。

 対装甲砲弾であるFFV551の効果は今なお不明。

 爆風を伴わないため視界悪化は随分とマシだが、それでも回廊には燃焼ガスと塵埃とFFV756に削られた石畳の細片が漂い、《人面獣》の大部分を覆い隠しているからだ。

 

 「04は救命処置に専念!! 絶対に持たせろ!」

 

 《02(マッチョ)》だけでなく《05(双子姉)》まで倒れた今、この機に乗じて一目散に遁走する目論みは潰えたと言っていい。


 回廊を半ば封鎖する輪郭(シルエット)を睨みつけても、焦燥が募るだけ。もどかしげにバックパックから弾薬ボックスを取り出そうと悪戦苦闘していると、不意に背後から声を掛けられた。


 「手伝いますよ」 ―― 誰かと思えば、ベッタリと顔中を埃で汚した《03(小太り)》だ。


 なまじ《第三の腕(アシストアーム)》に加え、両下肢と左腕にまで《強化外骨格(パワースケルトン)》を装着している所為でイマイチ器用さに欠ける俺に替わり、《03》が12.7mm弾100発が収まった重量14kgの弾薬ボックスを引っ張り出し、手際よく重機関銃(M2HB)に固定していく。


 「02の容体はどうだ?」

 「あの02(ゴリラ)が死ぬと思います?」


 こんな状況だからこそ、身も蓋もない《03》の言い草に思わず口元が緩む。


 「それでも、ボディアーマーに挿入されたセラミックプレートは粉々……被弾時の凄まじい衝撃を物語っています。《小治癒(ヒール)》を施しましたが、未だ昏倒中。文字通り戦力外です」


 ”《02》が生きてるだけでも御の字か……”


 「分かった……次は05の治療に」と言いかけた所で、普段は糸目で柔和な笑みを浮かべている《03》が真剣な表情で、俺の顔を直視しながら訊ねる。

 

 「01、貴方も気づいてますよね?」


 「あぁ(Yeah)」そう短く返した俺は一旦間を置き、現状を招いた決定要因を口にする。


 「人面獣(アイツ)は《魔術》を行使する」


 《魔術》―― 非常に陳腐な響きだが、《迷宮》の出現以降、世界中で周知され始めた超常物理現象をそう呼ぶ。

 その発現には《魔力》と仮称される観測不能のエネルギーが介在していると考えられ、実際《迷宮》内には任意に《魔術》を行使可能な連中が徘徊している。厄介なソイツらを相手取り、最も間近で《魔術》に接し、多数の死傷者を出しているというのが俺達《探索者》の日常であり現実だった。


 「03(アンタ)と違って《魔力》を可視化できない身でも、流石に()()で気づくさ」


 俺は湧き上がる自虐心を抑えきれず、スンスンと鼻を鳴らす。


 「《遣い手》はある程度の知性を有する人型 ―― そんな先入観に囚われ過ぎていた。俺こそ、《迷宮》を舐めていた。《指揮者(アルファ)》失格だよ……」

 「で? 使われた術は《(アロー)》に《障壁(ウォール)》ってトコか?」

 

 「仰るとおりです! ですが、術に込められた魔力量が桁違いのせいか、矢ではなく《攻城弓(バリスタ)》、障壁と言うよりは《装甲(アーマー)》と呼ぶべきでしょう!」


 しきりに興奮しながら弾薬ベルトを引き出す《03》を尻目に、持ち上げた指先を回復しつつある視界に向ける。


 「なら、上手くハマったかもな……見ろよ」


 ――《人面獣》の巨躯が再び倒れ込み、四肢が痙攣を繰り返していた。

 背中と呼ぶべき胴部上面は炭化、嫌らしい笑みごと頭部は焼け落ちている――


 どうやら軟標的には信管不発を起こすことが多いFFV551が《障壁》相手に正常起爆し、超高温・超高速・超高圧の流体金属メタルジェットを成形して貫通、そのまま3000℃を超える温度で魔獣に降り注いだのだろう。

  

 アイデンティティと呼ぶべき頭部を失った《人面獣》のフォルムは、非現実的で何処か滑稽でさえあった。


 次第に血と肉が焼ける臭いが漂い始め、周囲の悪臭が増大していく。

 俺は魅入られた様に身動ぎしない《03》の手から弾薬ベルトをもぎ取り、機関部に押し込んで恐ろしく重いコッキングハンドルを二回引く。


 「チャンスですよ! 詠唱無くば《魔術》は発動しない! その原則は変わらない筈!」

 ようやく意識が帰還したらしい《03》の歓声をバックに給弾作業が完了するが、今度は一転して呻き声が聞こえ出した。

 

 「あ……あッ……そんな!?……」


 悪い予感を半ば確信しながら視線を戻せば ――

 魔獣の黒く炭化した肌が、徐々に本来の皮膚へと修復されていく。まるでビデオの逆再生のように。しかも、頭部があった辺りには、頸部と思しき隆起すら発生しつつある。


 「《再生(リジェネ)》……相当な高位魔術……いや、ひょっとして?!」


 「道理でな……おかしいと思ってたんだ。《障壁》を展開できるのに、大人しく機関銃や手榴弾を食らい続けた理由がコレかよ」


 ”もしかすると、最初から遊ばれていたのかもな……”

 そう内心でうそぶいた俺の肩を、切羽詰まった口調の《03》が揺らす。


 「聞いて下さい、01。アイツは只の《魔獣》なんかじゃありません! おそらくは◎◎◎や△△△や□□□といった邪神の類から《()()》を得た存在です!」


 発語さえ覚束ない神々の名前を並べ立てられるが、知ったこっちゃない。

 今、俺がこの場で知りたい事は一つだけだ。


 「教えてくれ。どうすりゃアイツを()()()()()


 「……心臓です。コチラの世界では違うかもしれませんが、心臓こそが生死を司どる唯一無二の器官。ソコを破壊できれば……」


 「了解した。嫌な役(ババ)を押し付けて悪いが、指揮権を移譲させてもらう」


 スマートフォンサイズの《本部》直通無線機を《03》に押し付ける。


 「まさか独りで?」

 「あぁ、適材適所ってヤツだ。再生前にトドメが刺せれば俺達チームの勝ち、……そうでない場合は《本部》に撤退(ポータル)要請を出せ。法外な違約金を踏んだくられるが全滅よりはマシだろ?」


 ゴチャゴチャ議論を尽くしている猶予は無い。最良(ベスト)ではない次善策(ベター)であったとしても、とにかく行動を起こすべき局面なのは間違いなかった。


 「05の事を頼んだ!」

 「分かっています! 死なせませんよ!」


 互いの目を覗き込んで意思確認し終わった俺達は素早く立ちがって、逆方向へと駆け出す。

  

 「戦神(Yeliem)の導きを!」 異界から来た《僧侶(03)》の祝福を背に、後ろ腰に佩いた《小剣》を引き抜いて重機関銃の肉厚の銃身(ヘビーバレル)へと固定。即席の銃剣 ―― チーム内外から《(セント)ブローニングの槍》と揶揄される近接格闘武器を抱えて、俺は魔獣相手に突撃を敢行する。

 

 ”果たして、俺一人で殺し切れるか? 否か!”


 恐怖や義務感や闘争心といった感情を抱えた身体に、武者震いが走った。

《本部》直通無線機

迷宮内での無線交信は階層を隔てた場合は勿論、同一階層であっても数百m程度で不通となってしまう。そんな環境下でも、地上の《本部》と交信可能な唯一の通信機器。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] HEATが効いたと思えば再生持ち...... こんなの絶望しか無いじゃないですか......! それなのにM2ブローニングに銃剣を装着し立ち向かう姿を想像しただけで滾ります。 どうしてこ…
[良い点] マッチョや姉妹が先に戦線離脱して小太りが残る展開好き! [一言] 魔力の可視化とか化物とかのファンタジーと近代兵器がこれからどう絡んで激突するか楽しみです。
[一言] おぉ、異界側人類との混成チームなんですね。 ファーストコンタクトが友好的だったのかとか 異界側人類勢力にも興味が湧きます。 食べ物とか価値観、女の子は可愛いかとかw 続き楽しみにしてます!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ