【Farewell Grim Reaper③(さらばグリムリーパー)】
パラシュート降下したハンス率いるLÉMATの3分隊のうち、2分隊を洞窟内の攻撃に当て、残りの1分隊で敵の残存兵の捜索に当たらせた。
それぞれの指揮はニルス少尉とマーベリック少尉に任せ、自身は気になることがあり戦果の後を調べていた。
気になる事。
それは怪我をしたモンタナ達から聞いたトーチカでの話。
モンタナや他のメンバーが連射して敵を撃退している中、ナトーは殆どの場合単発の“狙撃”により、連射よりも遥かに高い効果をもたらしたと言う話し。
モンタナは”さすがはナトー軍曹!”と讃えていたが、何か腑に落ちない。
いくら銃弾を節約しなくてはならないと言っても、四方を敵に囲まれた状況の中で、冷静さを必要とする狙撃は精度が低くなるから俺ならしない。
いや、出来ない。
もし、その様な状況で俺がするとすれば、少しでも安全な場所を探して全力で撤退するだろう。
確かに、この近辺に転がっている多くの死体は、1発で額に穴をあけられて死んでいる。
さすがにナトー。
と、言いたいところだが、はたしてその様な事が本当に可能なのだろうか?
四方八方から敵の集中攻撃を浴びながら、たった1発で敵を絶命させてゆくなんて……。
尋常ではない。
過去に、その様な事が出来たかも知れないスナイパーは“白い死神”と呼ばれたフィンランドの狙撃手『シモ・ヘイヘ』しか知らない――いや、もう一人。
そのシモ・ヘイヘよりも凄腕の狙撃手を俺は知っている。
そいつの名は『グリムリーパー』
かつて中東で何度もグリムリーパー包囲網を築かれ、それを物ともしないで逆にこちら側の意図をあざ笑うかのようにエース狙撃手を次々に撃ち殺していった男。
兄の親友だったアメリカ軍デルタコマンドの狙撃のエース『ジョン』が“グリムリーパー包囲網作戦”で遣られ、その後”グリムリーパー暗殺作戦”で7組の狙撃班を組織して、その隊長の任に着いた俺の兄『ローランド』も又ヤツに葬られた。
この状況を見る限り、まるでグリムリーパーが、こちら側に居たような惨状ではないか。
“グリムリーパーが、こちら側……”
“グリムリーパーは、男ではなかったのか?”
“いや、そんな、まさか……”
崖の上にMi-24を降ろしたユリアが双眼鏡を覗き込んでいる。
「あっ、居た居た!」
丁度トーチカの下にある森の周囲を、苦虫を噛み潰した様な顔で歩いているハンスを見つけた。
「少しの間、下に降りて来るぞ!」と、前席のガナー(射撃手)に声を掛けて崖の下に降りた。
下に降りると、見つけたはずのハンスが見当たらない。
“上からだと、直ぐに見つけられるのに、まったく歩兵って大変ね”
しばらく探し回り、ようやくハンスを見つけて声を掛けた。
「ハンス大尉、暫くです」
「ユリア中尉、今回は応援感謝する。何か用か?」
コンゴであった時に比べて、明らかに機嫌が悪いと言う感じ。
まあ死体だらけの中で陽気に振る舞われても、それはそれで戸惑うので、ナトーから依頼された用件を伝える事にした。
「ナトー軍曹から伝言を預かっていますので、お伝えします」
「伝言?」
「はい。秘密の抜け穴を見つけたので、これから侵入するとのことです」
「まさかナトーひとりで入って行った訳じゃないだろうな」
「いいえ、ブラームを先頭にキース、ハバロフの3人が先に入りました」
「ブラームを先頭に……」
ハンスの顔が更に暗くなったのを見て、ユリアは、どうしたのか聞いた。
「何故それを無線で伝えなかった?」
ハンスが睨むような眼で言った。
「ナトー軍曹が、無線を傍受されると危険だから、直接伝えるようにと……」
ユリア中尉が言っている意味が分からなかった。
ナトーなら秘密の抜け穴を見つけたなら、駄目だと命令しても自らが最も危険な先頭を行くはずで、決して病み上がりのブラームを先頭にするようなことは無い。
それに無線にしてもナトーなら暗号や日本語モールス信号などのように、こっちの能力を試すような難解な問題をまるで遊びのように使ってくるはずだし、緊急を要する場合ならハバロフを外に残し突入後に無線連絡をさせるはず。
だから、敵の傍受など関係ない。
それなのに何故?
「ユリア中尉、悪いがナトーから指示を受けた時の状況を詳しく教えてくれ」
俺はユリア中尉から、その時の状況を詳しく聞いた。
「――すると、ナトーはブラームたちに指示を出した後、離れた所に居たユリア中尉に秘密の抜け穴から突入することを伝えに来たと言うわけだな」
「そうです」
「と言うことは、君はナトーがブラームたちに、どのような指示を出したかについて直接は聞いていない。間違いないね」
「はい。間違いありません」
「とりあえず、その秘密の抜け穴のある場所に行ってみよう。案内できるか?」
「勿論です」
ユリアの先導で、俺はナトーが入ったと言う秘密の抜け穴に行ってみることにした。
「ここです」
確かに通風孔の様な狭い穴が開いていた。
そして、よく見ると、その抜け穴から南東方向へ少しだけ草が倒れていた形跡がある。
「ユリア中尉が来た時も、草はこんな感じだったのか?」
「すみません。そこのところはよく注意して見ていませんでした」
おそらく敵がここから抜け出した跡だろう。
人数は10……いや20か……。
「ところでナトーは、ここまでバイクで来たと言っていたが、そのバイクはどこにある?」
「ヘリの着陸ポイントのすぐ近くです。案内します」
ユリア中尉がヘリの着陸ポイントに走って行き、俺もついて行く。
歩いて行くのが普通なのに、走って行くと言う事は、彼女も俺と同じ不安を感じているに違いない。
「無い!ハンス大尉、バイクがありません。確かにここに有ったのですが」
サイドスタンドが土に埋もれた後がある。
確かにバイクが、ここに止められていたのは間違いない。
それが無いと言う事は、誰かが乗って、どこかに行ったと言う事。
それがナトーなのか誰なのかは分からない。
だがそれがナトーだとした場合、何故味方を騙してまで1人で追う必要があったのか。
敵は20人。
普通なら、ブラームたちと一緒に追うはずなのに、何故1人で……。




