二十九杯目
久しぶりに書いたから書き方を忘れてしまったでござる
「なあ、本当に大丈夫なんだよな」
行き電車を降りて数分歩いたのち、孝が心配そうな口調で、飽きもせず、オレに話しかけた。飽きもせずというのは、同じようなセリフを何パターンにも分けてほざいてくるからであって、決してオレの反応が淡泊だからという訳ではない。ないったらない。
このジメジメとした空気のように肌に纏わりつく視線をさりげなく孝でガードしつつ、オレは孝を白い目で孝を睨んだ。
「孝が過保護すぎてそろそろ鬱陶しい件」
「過保護にならざるを得ないほど、危ないのはどこのどいつだ」
「それにしても、多い。あんまり聞かれるとそれはそれで悲しくなったりならなかったり」
オレはそこまで孝に信用されてなかったのかって情けなくも、恥ずかしい。
三回目くらいまでは笑って許せたけど、もう、無理。子供扱いされてるみたいで、形容しがたい怒りが胸を渦巻く。精神的に不安定っていうのは間違ってないかもだけど、それを引き起こしたのは孝っていう本末転倒っぷりがワロエナイ。
孝は指折り数えていたのか、あっけらかんとした顔つきで言い放った。
「まだたった10回目だろ?」
まだ、と言う言葉はかくも主観的である。
「その返しは予想していなかった」
茹だるような熱と、粘つく視線に辟易とする。ただでさえ気分悪いっていうのに、気色悪いったらありゃしない。
「お前は心配し過ぎなくらいが丁度いいんだよ」
探していた言葉が見つかったとでも言うように、孝はやけに満足げに呟いた。幸いにも、オレはそれを否定できる材料を持ち合わせていないため、下降していく気分に合わせて口を閉じた。
なんかもう面倒くさくなったのである。心配されてるのが嫌だって、それもそれで子供みたいだし。
それにしても、なんだってこの町は歩道を白いタイルで舗装してしまったのかしらん。太陽光が反射して、眩しくて真っ直ぐ前を向けないんだけど。
……ああ、なるほど。朝っぱらからやけに注目されるなと思ったら、そういう理由なのかも。
「孝、孝、オレの髪の毛見てみ」
「いつもより数倍輝いて見えます」
「すげーだろ。黒に染めよう」
「リリムが全力で止めると思うぞ。それこそどんな手を使っても」
「神は死んだ」
「リリムが神様」
「オレは神殺しになってみせる」
「厨二乙」
なんにせよ暑い。とにかく暑い。やたら長い髪の毛に熱がこもって、こもって……黒ならきっともっと暑いと気がついたオレは行き場のない怒りを覚え──
「そもそもリリムがオレを女にしたのが全ての元凶」
「そうだな。その通りだ。ところで身体は大丈夫なのか?」
「このタイミングで11回目のループに入りますか」
オレ達は端から見たら暑さに頭をやられた可哀想な子の会話を繰り広げながら、学校へと歩を進めていった。
「ああ、そういえば。寝ている最中は精気とやらを消費しないから、昼までは確実に持つってリリムが言ってた」
「時間的には夜から朝まで大分あるから、朝っぱらから暴走もありえるって滅茶苦茶心配していた俺の優しさを返せ」
「説明ありがとう。言うの忘れてただけ」
「覚えてろ。少しでも暴走の兆候が見られたら喉の奥に無理矢理流し込むからな」
「いやん、孝のエッチ。そんな喉の奥に無理矢理流し込むなんて」
「カレーをだ、カレー! バカなことを言うな!」
「顔真っ赤」
「うっせえ!」
そんな孝が少しかわいいと思えてしまうオレはかなり末期かもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
教室の扉を開けて、教室に入る前に言い放つ。
「本日カレー断食につき、私にカレーを見せる、嗅がせる、むしろ認識させたらぬっ殺す」
「ああうん。いいから早く病院行ってきなさい。先生には私が言っておいてあげるから」
安西さんが本気で心配してますって顔で言ってきた。驚くほどのスピードだったぜ。
他のクラスメイトも安西さんほど露骨じゃないにせよ、少なからず頭の心配をしてくることから自分の立場を思い知ったぜ。
そうですか、そんなにオレはカレーキャラですか、そーですか。
「千里ちゃん。何があったの? もしかして、イジメ?」
「孝に命令されて」
静観決め込んでさっさと席に着きやがった孝は「はぁっ!?」って叫びながら振り向いたぜぃ。なんだろう。すごく快感。はっ! これが半淫魔の業!?
「はあ。あんたらのくだらない遊びね。はいはいわかったわ」
「そ、そうなんだ。がんばってね」
安西さんが呆れ顔、濱屋さんが困った顔で退散した。
待て。それはおかしい。
他のクラスメイトもうんうん頷きながら、興味を無くしたように各々の話しを始めて、関心すら払ってもらえなくなったし。
腑に落ちないものを感じ、頻りに首を捻りながら渋々席に着いた。孝がしらけた視線を送ってくるが、知らん顔である。
「孝、どうしてだと思う?」
「俺にはお前の頭がどうかしてると思うが」
「仕方がないね。そればっかりは」
やれやれと肩を竦めれば、孝がうぜぇとボヤいた。
「ま、それだけアホ言えるなら暫くは大丈夫そうだな」
「んむ。だいじょーぶだ」
オレは口元を緩めて言った。孝が苦笑する。
なにしろ昼までは持つとリリムが言ってたからな。その言を信じるのみである。
「むしろオレとしては提出物が目下の悩みだったり、今思い出したり」
「は、へ? なんかあったか?」
「数学のプリント貰った気がす」
そういえばと口に出せば、孝の顔が固まった。青染めていくあたり、孝もやってないんだろうな、と予想する。
「何時間目だ」
「一時間目だ」
「やったか」
「やってるわけない」
ふむん、孝のプリントを見せて貰う作戦を密かに考えていた身としては、頼られても困る訳ですよ。
孝がこの世の終わりとばかりに絶望している。そんなに宿題を忘れるのはいやなのか。
……仕方がないね。そんなに忘れたくないなら。
「……なら、一緒に「あ、あの千里ちゃん、孝君。よかったら見て、いいよ」……う」
「お、おおう! ありがとう、濱屋さん」
孝が感激していつの間にか近づいてきていた濱屋さんにお礼を言っている。濱屋さんの手に握られているのは数学のプリント。
恥ずかしそうに手渡す姿はどうみても、うん。
「ありがとう絵里ちゃん! 大事に見させてもらうね! むしろ私だけで見るくらい!」
孝を押し退け濱屋さんからプリントを奪い取るように回収した。濱屋さんが呆気に取られているが、頬を染めてうん、と頷き自分の席に戻っていった。
押し退けられた孝が不平そうに見てくる。
「おい、千里。当然、俺も……」
「オレが絵里ちゃんから受け取ったものだから仕方がないね! うん、誰にも見せないって言っちゃったしね、うん。約束は守らないと」
「ちょっ!? ふざけんなし! 俺にも見せろ」
プリントを抱え込んで、完全ぼーぎょである。孝には見せないのだ。
無理矢理奪おうにも、抱え込んでいるので奪い取るにはどうしても身体に触らなければいけない。奥手な孝には至難であろう。
「ことわーる! オレが写したやつだったら見ていいから」
「せめて理由を言え!」
あ、う……孝が珍しく怒ってる。よく考えたら嫌がらせでしかない行為だったのを自覚し、おそるおそる孝を覗き見た。
でも、理由を言えって言われたって……
「ぅぐっ……むむ……だ、だって、……なんか、やだった……」
自分の感情がよくわからなくて、蚊の羽音のような小さな声で呟いた。
「聞こえん」
憮然とした声で孝が言う。
勇気がいった行為だったので、自分でも驚くほどムカついた。
「……う、うるさい! どーでもいーだろそんなこと! オレが写したの見せるから!」
「わけわかんねぇよ! 理由を言えって言ってるだろ!」
カァーっと頭に血が上るのを感じる。自分でも小っさいのはわかっているけど、どうしても気に入らなかった。
「孝に言ってもわかんないよ!」
「なんだと!」
「なんだよ!」
ぐぐぐ、むむむ、と顔を向き合わせるがどちらも引かず。
「「フンッ」」
と、互いに顔を逸らし、オレが性転換して初めての喧嘩が始まってしまった。
「ど、どうしよう安西さん……」
「放っときなさいよ。どうせすぐ仲直りするわ」
始まってしまったのだった。
展開が早すぎる気がしないでもないこともないような気がしないでもないけれど、急展開
二人とも、きっと鬱憤がたまってたんです。たぶん
……明日あたりに書きなおすかも




