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二十七杯目

「うまっ、うまっ、うまっ、うまー!」


 んっく、オレの答えのなにが気に食わないのか、暴れるリリムを宥めすかしてカレーを貪ること早三十分。オレが暴走したら問答無用で襲って良いとリリムに約束したが、カレーを食べてる現在その兆候すら見られなかった。

 孝は対面ですでに食べ終わり苦笑しながらオレを見ていて、リリムは頑なにカレーを食べることを拒みベッドの上で不満そうに胡座をかいている。


「わかったから、もっと静かに食べなさい」


 呆れながらお母さんみたいなこと言うなし。


「カレーへの迸るパトスがオレに叫ばせることを止めさせないのです!」

「外見とのギャップがいい加減見慣れてきたな……」

「銀髪美少女がカレーを食べながら叫んではいけないと誰が決めた、否、決めていない!」

「美少女って自分で言うなよ……」

「残念ながら厳然たる事実であり、過ぎたる謙遜は嫌味にしかならないのだよ明智くん!」

「過度な自己主張も身を滅ぼすけどな」


 ……あむっ、あむっ、あむっ、あむっ、あむっ、あむっ、あむっ、あむっ、あむっ……


「こ、こいつ聞かなかったことにしやがった……」


 ナンノハナシ。


「──ど、どうして千里は暴走しないのじゃ!」


 リリムがベッドをばたんばたんと叩いて駄々をこねていた。まるで意味が分からない。しかしカレーを食べるオレに死角はなかった。どんな意味不明な光景だろうと、オレはカレーを食べることによってスルーが出来るのだ!


 あむっ、あむっ、あむっ、あむっ──


「あの渡した量なら絶対に暴走するであろうと踏んでいたというのに!」


 んっく、


「おいそこのロリ淫魔。ちょっとお兄さんと話をしようか」

「しまったのじゃ!」

「……お姉さんだけどな」

「君のお口にカレーをフォーユー」

「イヤじゃイヤじゃイヤじゃイヤじゃーーー!」


 頭を掴んで口を無理矢理開かせてからーの、


「衝撃のファーストブリットぉぉおおお!」

「あぐっ……ぬぁっぁああああ! 辛い辛い辛いーー!」


 喉の奥にカレー入りスプーンを差し込んでみた。危険なので絶対に淫魔以外には真似しないようにしましょう。

 

「え、えげつねぇ……」

「撃滅のセカンドブリット!」

「待てそれカレーじゃなくてただのこぶあぐぅぁぁあ!」


 ふぅ、邪魔者はいなくなった。これで静かにカレーとのアバンチュールを楽しめるぜ。


「「おい待てこの野郎」」

「どうやら抹殺のがくらいたいようだ」

「「イエナンデモアリマセン」」

 

 ならばオレが食べ終わるまそこで指をくわえて待っているといい。ふぅぁぁーーーはっはっはっはっはっはーーーげほっげほっ……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ご馳走さまーー」


 手を合わせてカレーに感謝をし、食器をとりあえず流し台に水を張って入れておく。生活スペースに戻ると、胡乱な目で見られた。


「千里、なにか言葉はないのかな」

「カレーを食べているとハイテンションになって気がついたら孝とリリムを衝撃的に撃滅していた。今は反省している。後悔はしていない! なぜなら私は常に未来を見ているからだ!」

「千里」

「そも、後悔と言う言葉が──」

「千里」

「だ、だって──」

「千里」

「ごめんなさい」


 孝の目線と静かに呼ばれる名前に耐えられなかった。


「そうじゃ! スプーンを突っ込むのはやりすぎじゃ! 突っ込むならもっと──」

「だがリリム、てめえは駄目だ」

「なんでじゃ!?」


 リリムが涙ながらに訴える、が。


「リリムが変なこと画策していたのがバレたのがことの発端な件。ゆえに孝には謝るがリリムには謝らない」

「娘がグレたのじゃ! はっ! これは暴走のせいに違いないのじゃ! せーんりちゅわーーーん!!」

「せいっ」

「あべしっ」


 ルパンダイブをかましてこようとしたので、普通に避けたらそのまま地面にダイブした。ザマァの後に草むらを生やしたいと思いましたまる。


 地面に倒れ伏したまま、リリムは顔だけ起きあがらせた。


「ヒドいのじゃ!」

「淫魔に人権はない」

「淫魔、淫魔連呼するでないわ! これでも神様じゃ! しまいには泣いてしまうぞ! 」

「突っ込むにあれだけ反応したらな……」

「仮にも幼女が言うなし」

「妾はリリムなんじゃ! 高貴でどんな男も手玉にとれるリリムなんじゃぞ!」

「だから淫魔じゃねえか」

「孝を手玉にとろうとしたら穴という穴にカレーを突っ込むのであしからず」

「うわーーーーん!」


 あ、泣いた。

 流石に泣かれると見た目が幼女なだけに罪悪感がマックスハート。孝と顔を見合わせて、オレが慰めることに決まってしまった。視線で会話するというあれである。実際にできてしまって心臓がバクバク。


「リリ──」

「千里!」

「隙ありなのじゃーー!!」

「うぇっ!?」



 リリムに近づいたら押し倒されました。二度とリリムの涙に反応しないことを心に誓いました。

 

「ふぁっ!? お、おいまさかこの場で胸をもみゅぁぁ!?」

「意地があるんじゃよ妾にはーー!」

「ひぃうっ!? おいバカそこはぁああ!?」

「精気を流し込めば……え?」


 オレを弄ぼうとしていた手が止まる。跨っていたリリムが呆けることによって。

 横に顔を向けると孝が両手で顔を隠しておきながら、指の股で覗いているのが印象的だった。男の子だもんね、仕方がないね。


「は…ぁ…はぁ……んっ、く……どいて、邪魔」


 リリムを退かそうとすると、抵抗もなく床に転がった。すぐにベッドまでリリムは戻ったが、その顔はなにか信じられないものを見た、知ったという顔で。さきほどまでの好色な面持ちはどこにもなくなっていた。


「せ、千里。大丈夫か?」

「親友が今まさに犯されようとするのに見捨てようとした孝じゃないか」

「銀髪美少女と銀髪美幼女の絡みを止めようとするなど、男にあるまじき行いだ」

「仕方がないね」


 さも当然のように言われてしまっては反論する気も失せるわ。なんにせよ、リリムを見る限りシリアスパートに入ろうとしているようだ。ならばそれに見合った格好をするべく、オレは座椅子まで立ち上がり戻った。

 内心、ものすごく文句を乱発したかったが。特に孝。


「……精気が回復しておる」

「足りなくなるとオレがヤンデレになるやつか」

「足りなくなると千里がエロくなるやつか」

「おい」

「大体認識は合っている」

「ああ、その通りじゃ」

「まじか」


 で、オレが倒れてケチくさいリリムがちょびっとだけ回復させた状態でオレが起きた、と。


「なら何で全回だし」


 孝も難しい顔して考えている。リリムでさえ、口元に手を当てて思案していた。


「それは知らぬ」


 リリムは無駄に自信たっぷりにキッパリと言い切った。いっそ清々しいその言動に感嘆もとい呆れ返っていると、リリムは腕を組んで言った。


「じゃから、起きてからなにをしていたのか言って欲しいのじゃ」


 起きてから、か。孝とリリムと会話してるときに、て、て、手を握り合って、それから──


「「カレーを食べたな」」

「それ以外じゃ」

「「カレーを食べた以外なにもないな」」

「それ以外じゃ」

「「だってカレー食べたし」」

「それ以外じゃ!!」

 

 孝と示し合わせたように同じことを何度も言う。別に、ねぇ。手を握りしめ合ったことを隠したい訳じゃないよ。

 うん。それに。


「オレって昼飯カレーじゃないんだよね」

「だからなんだというのじゃ!」

「千里が女になってから、男の時以上にカレーに対して執着心をもってる気がする」

「ふ、ふん。我が娘は実に物好きのようじゃな!」

「昨日の辱めの前もカレーを食べてた気がす」

「た、たまたまじゃ! たまたまなんじゃ!」


 リリムがいやいやと首を振る。人生って、往々にして認めたくないものがあるんだよね。でも、それを認めないと成長できないんだ。

 だから、オレと孝は一緒にリリムの両脇を固めるように座って、肩をぽんと叩いた。


「お、お主ら……」

「「(ふるふる)」」


 ただ、静かに首を振った。

 あ、リリムの表情が凍り付くように固まった。


「……み」

「「み?」」

「認めぬぅぅぅぅううううう!! カレーなどという刺激だけの食物ごときで精気が手に入るはずがぁべしっ!!」

「カレーを侮るなかれ」

「……おまえ、本当にえげつないな……」


 カレーを馬鹿にしたリリムに軽いチョップをお見舞いしただけじゃないか。なんでそんな冷や汗を額に垂らして言うんだい。ただちょっと頭にめり込んだだけなのに。


「……認めぬぅぅ~~……カレーでなぞ……認めてなるものかぁぁ~~……」


 …………


「やめろよ」

「ちぇっ」


 構えたスプーンは密かに下ろされた。


えっとですね、作者の諸事情により更新が遅れるかもです

すみませんm(__)m


べ、別にスランプとかじゃないんだからね!(本当ですよ?


ごほん


あと一話だけ更新して、ちょいと止まります


一か月もかからないで再開しますから見捨てないでくださいね(汗

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