二十一杯目
リリムが神様になった理由
ちょっとだけ
「ふへへ。でけたでけた」
「カレーで極上の笑顔になる娘ってどうなんじゃろ……」
「もちろんお母さんも食べるよね」
「当然じゃ! はっ!?」
「一人分多く作っちゃったから、オレが二人分食べよっと♪」
レトルトカレーの袋を三つ持って、机の上にお皿を用意。ご飯はチンするご飯でいいよね。リリムを座椅子に座らして、コップはもう用意してあるから牛乳をついで。るんるん気分で着席、あとはご飯ができるのを待つだけ。
ふへへ、良いかほりが漂ってきているぜ。
「うぐっ……もうカレーを見るのも嫌じゃが……しかし娘の頼み……むむむ……」
どうしてこんな美味しいもの前にして顔をしかめて唸っているのだろうか。わけが分からないよ。
「食べながら欠片について話してもらう」
「行儀が悪い、却下じゃ」
「なら今から話す。ハリーハリーハリー」
「むう……そんな気安く話すものでもないのじゃが」
「ハリーアップ」
「はぁ……いたしかたない。話そう、お主が女になっている原因を」
想像通り、と言えば想像通り。オレはそう言われてもあまり驚かなかった。祠の前でもそんなことを言っていた気もするしね。
リリムは厳しい表情を崩さない。
「妾がお主に埋め込んだのは、妾の力の欠片じゃ。つまり、リリムの一部」
リリムというのはやはり種族名なのだろうか。それにしては、名前と言っていたような。
「お主も気付いているように、リリムはサキュバス、淫魔、夢魔の類の上位種じゃ。じゃが、あのような下賤なモノと一緒にするでないぞ。あのような男であれば何でもよいというモノと、妾のような高貴なモノには隔絶すべき壁があるのじゃ──それになんの因果か妾は神格を手に入れとるしの」
どうして大陸で空想上の魔物と呼ばれるモノが、この小さな町で神様なんてやっているのか。オレの疑問が顔に浮かんだのだろう。リリムはそれに答えてくれた。
「なに簡単なことじゃ。海を渡る技術ができたその昔。面白半分でこの日の本の国にやってきた妾は、暇つぶしに素直になれない地主とその幼馴染の身分違いの恋を応援しておった。そうしたら気が付いたら奉られておったよ」
なるほど。それで縁結びの神様、と。
「ま、奉られるというのも中々難儀なものでな。信仰が続く限り、妾のような元魔物ではその地域、神域を出ることは叶わなかったのじゃ」
そして誰からも忘れ去られ、とリリムは自嘲気味に言った。
「名もない元魔物の神様ではそうなるのも当たり前じゃが。皮肉なことに、そのおかげで外へと繋がる道をあの商店街のどこへでも繋げるようになった。まだ、その時は外に出ることはできなかったんだがの」
そんな折に、オレは迷い込んできたそうだ。そしてせっせかとなぜか掃除をしていき、変なことを願って去っていったとか。我ながらヒドい話だ。そして女に変えられた理由がまだ不明瞭な件について。……べつに信じてないわけじゃないけど。
なるほど、あの道はリリムが作ったものだったのか。そして、いつでもどこでも商店街の中なら繋げられると、質量保存の法則はどこいったし。
いやさ、神様が出てきた時点で、女になった時点でそんな常識はどこへなりとも捨て去るべきか。
ってか、どうして場所を変えたし。焦っただろうが。
「お、お主からした独特の匂いを追っただけじゃ」
「どうしてすぐにオレと気付かなかったし」
「……寝ぼけとった」
「おい」
冷ややかな目で見ると、リリムは下手な口笛を吹いて誤魔化した。誤魔化せるわけないけど、可愛いから許す。
「で、欠片の話になるわけだが……」
「ちょっと待った」
「なんじゃ?」
「レンジが鳴った。カレーライスの時間だ」
「普通こっちを優先するじゃろうが!?」
なにをバカなことを言う。カレーライスよりも優先事項が高いものなぞあるわけがなかろう。あ、少し口調が移った。
レンジからご飯を取り出すと、お皿の上に出し、カレーをかける。この瞬間がオレにとって一番好きな時間だ。一気に香しい匂いが鼻孔をくすぐり、視界が喜ぶ。
なんにせよ。
「いただきます」
「……や、やはり食べねばならぬか……?」
まずはカレーライスを食べよう。話はそれからだ。
「そういえば、そんな小さいのによくリリムなんてやれてたね」
「……ニーズはあったのじゃ」
ロリペド野郎を死すら生温い。
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罰当たりにもうげぇと嫌そうな顔をした神様に無理矢理カレーライスを食べさせ、オレはすでに二杯目突入。じっとリリムがこっちを見ている。もしや、
「……あげないからな」
「いらぬわ!」
なんだ、違うのか。こんなに美味しいのに。
待たせてはいけないと思い、惜しみながらもカレーライスをさっさと完食した。
「……幸せというのはきっとこういうことなのだろう」
「よくぞかように刺激の強い食物を食せるな……」
むぅ、カレーの美味しさをうまく伝道出来なかったか。ごめんなさい、カレーの神様。仕方がないね。
「で、欠片の話をプリーズ」
「その前に食器を洗わぬのか?」
「はっ!」
せっせっじゃばじゃばきゅっきゅっふう。
「で、欠片の話をプリーズ」
「早い!?」
「いいから疾く疾く教えやがれください」
大きな瞳をもっと大きくさせて驚く様は大変愛らしいけども。
……リリム抱っこ余裕でした。やわらかー。
「なぜ妾が抱かれておるのじゃ!?」
「可愛いというのは罪作り」
「答えになってないのじゃ!?」
「仕方がないね。欠片の話をプリーズ」
「仕方なくないのじゃぁぁああ!」
本気で抵抗しないのはきっと嬉しいからだろう。そうだろう。
それに今はいくら幼女を抱こうと変態呼ばわりされないのがとても素敵。女の子同士のじゃれ合いの延長線上だよ。たぶんね。
両腕でがっちりホールド。逃がしはせん、逃がしはせんぞー。
「そういえばリリムってエターナルロリータ?」
「娘に母とすら呼ばれず、ロリータ扱いとはの……」
ごめん、と心の中で謝ろう。さっきとか、何回かお母さんと呼んでるけど、すぐにこれは頭の中で決着がつけられるものじゃないし。
言葉に出す代わりに、泣きそうなリリムを精一杯愛でようと思う。髪の毛良い匂い。……あ、これオレの匂いと同じだ。のん。
「……さっきも言ったが、欠片というのは妾の力の断片のことじゃ」
諦めたのか、オレの腕の中で講釈が始まった。
「要するにサキュバスの力。これを埋め込んだことによりお主は女性へと性転換し、アルプとなった。姿は妾が多少弄くったがな。ちなみにアルプというのは男から女のサキュバスになった者の総称じゃ。厳密に言えば、お主は人間のままじゃからアルプとは違うのじゃが」
「女神と思ったら淫魔だった件。オレは精気を吸収しなければならないのだろうか。エロい意味で」
「──ほう、鋭いな。さすが我が娘じゃ」
冗談半分で言ったら感心された。オレの貞操がマッハでヤバい。
「二日もお主はなにも吸収しとらん。男を釣るフェロモンもなぜか使っとらんようだしの。まぁ、あやつに操を立てたいお主の気持ちも汲んでやらんこともない」
ちょっと待て。おい。腕の中の生物が怪しい動きを始めたぞ。というかその目、明らかに獲物を狩る者の目ですよね!?
逃げだそうと、再び捨てようと思ったら体が硬直してうまく動かない。待て。本気でピンチだ。
「ま、待っ、ひゃううっ!?」
ふと、太股撫でられた!? なっ、待っ、手が内側に進んで──
「ひゃわっ!? やっ! だめって! 止まれストップドントタッチミーにゃぁぁぁあああ!?」
そういえばオレ帰ってから着替えてなかった! スカートのままじゃん! 触られ放題とかわろえにょわぁあぁっ!? 手、服、内側ぁあぁ!?
「なに、天井の染みでも数えていたらすぐに終わる。安心して妾に身を委ねるがよい……ん?」
それ完璧に悪役のセリフですよね!?
「押し倒っ!? やぁあぁあ! んっく……はぁ……やら、ぁ……」
天地がひっくり返ったぁ……たぶん座椅子を後ろに倒されたと思われ。ああ、きっと今のオレはあられもない姿なんだろうな。銀糸が床に扇状にこぼれ落ち、上から光の滝のような銀色がいくらも身体に流れていた。
「……む、おかしい。どういうことじゃ……?」
「ひ、んっ……かららぁ……まさぐりゅなぁ……」
内股やお腹を脱がされながら馬乗りで幼女に犯されかけてるとか……頭はなぜか冷静だけど身体は動かない、言葉はすでにまともに紡げない、そしてだんだん感じてはダメなものが昇ってきているの三連コンボでオレのヒットポイントはもうゼロよ。
なにこれ詰んでる。リリムはやっぱり淫魔ってやぁぁぁあああ!!
むねっむにぇえぇぇぇえ!? さわっ、やっ、もみゅなあぁ!
「……すでにたまっている? ……なるほど……」
「なぁっ、ふぇっ? んくぅっっ!? もうや! もうやらからぁぁぁ!?」
ダメだって! もどってこりぇない! もどってこりぇなくなっちゃうかりゃぁぁぁ……!
むねと内股とお腹とぜんびゅう……ぜんぶやぁあ……おとことぜんぜんちがうぅぅ……
「お主……もしやあやつと交わったのかえ?」
「はぁ……はぁ……んっく……あえ?」
とま……止まった……? あともうちょ……いやいやいや! なにを考えてるんでしょうねオレはぁ!?
オレは馬乗りのままオレを見下ろすリリムを睨んだ。
「こ、こりぇはどおいうつみょりだゃぁぁ……」
……舌がまったく回らないのは……うん、仕方がないね。
そういえばリリムがなにか言っていた気がしあ。
「お主は食事ができぬと思い、精気を分けてやろうと思ったまでじゃ」
そいつは悪びれもせずに言い切った。くそぅ……絶対淫魔って呼んでやる。
手つきがエロいし、雰囲気が幼女のくせにやたら淫靡だし……サキュバスサキュバスサキュバスぅう……
……というか、精気を分けようとしたってことは、その精気はいわゆる食事をした結果なのでしょうか。
「……だれか、だりぇかとエロいことしたのぉ……?」
わ、我が声ながら鼻につく甘ったるい声だ。粘つくような声とも言う。
「妾ともなれば大気から精気を吸収することは造作もないことじゃ」
「つまりあいてぇがいにゃかったと」
「変なところはツッコむんじゃな」
散々遊ばれたんだからこれくらいの意趣返しは許してほしい。
「そんなことはどうでもいいんじゃ。で、あやつと交わったのかと聞いているんじゃ」
「まぐ、わった?」
すごく不穏な響きだけど。リリムの瞳に嗜虐的な光が宿った。
「つまり性交、SEXしたのかと聞いているんじゃ」
「ぶっ!」
オレが? 孝と? さっきはあんなこと言ったけど、ていうかそれがあり得ないことはリリムが一番よく知ってるじゃないか。
「りりむがいった。オレとするとたかしがこーかいするって」
……ふぅ……ようやく落ち着いてきたかな。まだ少し舌っ足らずな喋り方だけど、粘つくような声ではなくなった。
「わかっておる。言ってみただけじゃ。それなら、ほかの男とは」
「それこそ、ありえない」
オレが男に抱かれるだって? 想像するだけでも気持ちが悪い。うへえ。孝ならいいのかって、まあ、それも問題だったりするわけだけども、うん……
「ま、当然じゃな。もしもしておったら今からあやつを殺しに行かねばならぬ……ならばこれは一体どういうことじゃ……?」
「そろそろどいて。おもい」
リリムはおお、とワザトらしく驚いてオレの上からどいた。まさかリリムを抱きしめたらあんなことになるとは思わなかった。というか、見た目幼女に為す術なく犯されかけるってどういう状況だし。
特殊な性癖を持っていないので喜べない。悦びかけたけど……
オレはよっ、と声をあげて座椅子を元の形に戻した。逆さまだった天地が正位置になる。
……なんか据わりが悪い。こう、股間がなんか……くちゅっ……
「おふろはいってくる」
「濡れたんじゃな?」
「うっしゃい」
拝啓天国のお母様、お父様。あなたの息子は娘にされて新しい家族に貞操を奪われかけました。なにを言っているかわからねえと思うが、オレもなにをされたのかわからなかった。いいえ。犯されかけますた。
まあ、何はともあれ新しい家族は淫魔で神様です。
新しい家族を母と呼ぶ親不孝をどうかお許しください。
「せっんりーー! 妾が背中を流してやろうぞ!」
「ほぇああ!? 入ってくんなド淫乱淫魔が!」
「褒め言葉じゃ!」
「変態だ!?」
「それも褒め言葉じゃ!」
「最終鬼畜幼女!」
「よくわからないけど褒め言葉じゃ!」
「もうやだこいつぅ!?」
母と呼ぶには、所々妹のようだけど。時折老成したような姿を見せるからから手に負えません。
……どうして私は一応同性の家族から胸やら身体を隠さねばならぬのでしょうか。
あ、でも髪の毛洗うの上手い。
「それにしても感じ過ぎじゃ」
「元男になにを言うか」
「そういえばお主の身体は普通の女子の数倍の感度じゃったな」
「それなんてエロゲ」
「高貴たる妾の血が流れておるからの」
「なにそれ怖い」
「失敬な!」
……やっぱりオレ、色々ともうダメかも。
ノクターンに書ける技量なぞ存在せぬ。
批判が怖くて怖くて仕方がないww
この作品はあくまでも親友萌えの精神的BLです
リリムのこれは恋愛というより親愛なのでノーカンでおねしゃす




