10)謁見
ルートヴィッヒは、謁見の間で跪いていた。北の領地からの帰還の報告だ。途中で、村を襲っていた盗賊を討伐したことも報告した。
「して、ラインハルト侯、貴殿は何やら村から女を連れ帰ったそうだが」
貴族というのは、案外噂好きらしい。伯爵の一人がこちらを見ていた。
「竜丁として、雇う予定です。今の竜丁から、そろそろ自分は若くはなく、古傷もあるので、次を見つけろとせっつかれておりますので」
「女だそうだな。名は」
「調書にあるはずです。特に身元に問題はありませんでした」
「私に言えぬというのか」
「覚えておりませぬもので、申し訳ございません」
「は」
「あれを気に入ったのは、竜騎士団の竜達です。竜丁と呼べば返事をするので、何ら不都合はありません」
あっけにとられた貴族からは、それ以上の追求もなく、ルートヴィッヒは謁見の間を辞した。村から数日飛ぶ間に、互いの呼び名が決まったようなものだ。娘に名乗ったかどうか、ルートヴィッヒには記憶もなかった。
宿舎に戻り、着替えた頃、ゲオルグが部屋にやってきた。
「まぁ、色々、なんというか、あれだな、見たが、それでも信じられんな」
しばらく前にルートヴィッヒも経験したことだ。
「ご覧いただいたとおり、力仕事は、竜が勝手に手伝います。あなたの仕事も楽になるのではないでしょうか。あの娘のことは、細かいことはマリアに頼みたいので、紹介してやってください」
「女が竜丁とは、おどろいたが、なんとかなりそうだな」
ゲオルグの言葉に、ルートヴィッヒは微笑んだ。




