天ぷら
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「ということで……なあ小夜、本当に天ぷらで良かったのか?」
僕はリビングでお笑い番組を見ながら、のほほんとしている小夜に声を掛ける。
「うん、久しぶりにお兄ちゃんの天ぷらが食べたくなっちゃったの!」
「ならいいんだけど……」
結局小夜は、昨日のアリスとの一件が心配だということで、今日もうちの部屋にいる。
といっても、明日には帰ってしまうんだけど。
で、最後の晩ご飯に何が食べたいか尋ねたら、天ぷらをリクエストされたというわけだ。
「あはは、小夜ちゃんにとってのお兄ちゃんの味やもんね」
「こよみさんも天ぷらで良かったですか?」
「もちろん! 耕太くんのご飯は、ホンマに何でも美味しいし、それに、その……か、家族の小夜ちゃんのリクエストやし……」
……こよみさん、そんなこと言うの、反則ですよ。
僕はもう我慢できなくなり、こよみさんの後ろに回ると、そのまま強く抱き締めた。
「はわ……耕太くん、アカンよ……?」
「こよみさんがいけないんです……こよみさんが可愛いから……」
「耕太くん……」
「おーい、聞こえてるよー」
「うわ!?」
「はわ!?」
しまった、つい小夜がいることを忘れてた……。
だが妹よ、そこは聞いてないふりをするのが優しだとお兄ちゃんは思うぞ?
「あ、あはは、ほな真面目に料理しよか……」
「はい……」
そう返事してうなだれている僕に、こよみさんが背伸びしてそっと耳打ちする。
「(小夜ちゃんが帰ったら、その……いっぱいイチャイチャしよな?)」
その言葉に、僕は全力で首を縦に振った。
ああもう! また我慢できなくなりそうですよ!
……ふう、落ち着け僕。
とにかく、料理を始めよう。
まずはお味噌汁を作るか。
豆腐を小さく角切りに、オクラはヘタを取って三ミリ間隔で斜めに切る。
水を入れたお鍋を火にかけ、豆腐とオクラ、顆粒だしを入れて一煮立ちさせる。
そうしたら火を止めて味噌を溶いたら完成だ。
次は天つゆ。
醤油、みりん、お水を一対一対二の割合でお鍋に入れ、そこに顆粒だしを加えて一煮立ちさせたら完成。
おっと、天つゆに入れる大根おろしも用意しておかないと。
「こよみさん、大根おろしをすりおろすのをお願いしていいですか?」
「うん! 任しといて!」
ちょうど良い大きさに切った大根とおろし金をこよみさんに手渡し、僕は次に取り掛かる。
今日の具材のカボチャは薄いくし型、さつまいも、茄子は五ミリ幅の丸型に、ししとう、大葉はそのまま、しいたけは傘の部分に十字に切り込みを入れて……。
それと、玉ねぎをみじん切りに、ごぼうとにんじんを千切りにして、ど。
エビは背ワタを取って、六尾は節に切れ目を入れて、残り三尾は小さく切る。
そして、今日はスーパーで珍しく穴子とシロギスが売っていたので、めでたく入手したのだ。
穴子もシロギスも開きにして背骨を取り除いて……せっかくだし、穴子は一本まるごと天ぷらにしよう。
「耕太くん、大根おろしできたで!」
「ありがとうございます。そうしたら、軽く絞って水切りしてもらっていいですか?」
「うん!」
さてさて、具材も用意できたし、今のうちに油を温めておくか。
天ぷら鍋にサラダ油と香りづけのごま油を入れ、火にかけておこう。
そして、肝心の天ぷらの衣を。
小麦粉をボウルに入れ、そこへあらかじめ冷やしておいた水と氷を入れたら、ざっくりと混ぜ合わせる。
ん、こんなものかな。
さてさて、油の温度はどうかな……。
天ぷら鍋に菜箸を入れ、箸の周りに泡立つのを確認して、と。
よし、ちょうど良い温度になったな。
僕は野菜に次々と衣を付け、天ぷら鍋に投入していく。
「はわあああ……キレイな衣の色やなあ」
「今日は火の通りが早い具材ばかりですから、すぐにできますよ。はい」
僕はカラッと揚がったさつまいもの天ぷらを一つつまむと、こよみさんの口元に近づけた。
「えへへ……ん……はむ……」
こよみさんは、はにかみながらその小さな口でさつまいもの天ぷらをかじる。
「ん……メッチャ美味しい! 衣はカリッとしてて、さつまいもはサクッとして!」
「あはは、よかったです」
僕は他の野菜も、揚げてはキッチンペーパーを敷いた皿へと乗せていき、野菜については一通り揚げ終わった。
次は、シロギス、穴子、エビだな。
シロギスとエビは尻尾をつまんで衣を付けたら、差し込むようにゆっくりと油の中へ。
こうすれば、形よく揚がるからね。
「あれ? なんでエビが丸まらへんの?」
「ああ、縮んで丸まらないように、あらかじめ切れ目を入れてあるんです」
「へえー、耕太くんは何でも知ってるなあ」
「あはは、そんなことないですよ。はい」
フムフムと感心して褒めてくれるこよみさんに嬉しくなり、僕は今度は揚がったエビをこよみさんの口元へ。
「やったー! はむ……うん! エビもプリプリしててメッチャ美味しい!」
「あー! こよみお姉ちゃんだけずるい! 私も!」
あー、見つかっちゃったか。
仕方ないので、小夜にも揚がったばかりのシロギスを小夜の口元へ。
「はむ………うん、これこれ! これが食べたかったの!」
「あはは、いいけど、このままだと晩ご飯までになくなっちゃいそうだ」
「「あはは」」
僕の言葉に、二人が楽しそうに笑う。
うん……一時はどうなるかと思ったけど、二人がこんな関係になれてよかった。
これで、あとはこよみさんの……。
「耕太くん耕太くん! 穴子は揚げへんの?」
考えごとをしてたところへ、こよみさんが興味津々で穴子を指差す。
「もちろん揚げますよ。しかも一本まるごと」
「はわあああ……」
ということで、穴子も一本まるごと油の中へ。
綺麗に揚がったところで取り出し、見栄えもあるからこれは別の皿に盛っておこう。
さあ、次はいよいよ最難関、かき揚げだ。
ごぼうとにんじんの千切り、玉ねぎのみじん切り、小さく切ったエビをボウルに入れ、上から小麦粉を振りかけてから、冷たい水を入れ、ざっくりと混ぜる。
そして、混ぜ合わせた具材をお玉に乗せて、天ぷら鍋の縁に沿うように流し込んで、と。
うん、綺麗な形になった。
そこに菜箸でつついて穴を開けて、浮き上がってきたらひっくり返して、しっかり揚げたら完成。
「はわあああ……美味しそう」
「うん、よだれが出そう……」
「はいはい、二人とも。じゃあこよみさんはお味噌汁をよそって、小夜はご飯をよそう。で、テーブルに運んでくれるかな?」
「「はーい!」」
うん、二人ともいい返事だ。
さて、じゃあ僕も盛り付けた天ぷらと絞った大根おろし、温め直した天つゆを器によそって、と。
これでテーブルに全て出そろったかな。
「えへへ、耕太くん!」
こよみさんがキンキンに冷えた缶ビールをピト、と僕の頬に当てる。
「あ、ありがとうございます」
「あ、いいなあ」
「小夜は二十歳になってからな」
「ブーブー!」
「あはは、小夜ちゃんが二十歳になったら、一緒に飲みに行こ?」
「こよみお姉ちゃん約束だよ! 絶対だよ!」
うん、二人がそうやって楽しそうに話しているのを見ると、本当に嬉しい。
「さて、それじゃ小夜、またいつでも遊びにおいで」
「うんうん、いつでも来てな!」
「こよみお姉ちゃんも、正月はお兄ちゃんと一緒にうちに来てね! 待ってるから!」
「う、うん! 行く! 絶対に行くさかい!」
そっか、正月はこよみさんと実家か。
ちゃんと父さんと母さんに紹介しないとな。
こよみさんが、僕の……って、少し気が早すぎた。
だけど、そのためにも、僕はもっともっと頑張って、一人の男として責任が持てるようになったら、その時は……。
「耕太くん」
「お兄ちゃん」
「「早く食べよ?」」
おっと、また考え込んでいた。
「うん、それじゃ……」
「「「いただきます!」」」
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次話は明日の夜投稿予定です!
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