飯綱江①
ご覧いただき、ありがとうございます!
■由宇視点
「……あなた、どうしてここに……!?」
「……君は……そうか。ここにいたのだな……」
私は最大限に警戒しながら目の前の女性……怪人イタチソードと対峙する。
「……一体何の用? さしずめ、組織を抜けた私の粛清に来た、ってところかしら……?」
私はいつでも攻撃に移れるよう、左腕をいばらの蔦に変化させようとしたところで。
「おお! 飯綱くんよく来た! ちょうど良い、紹介しておこう。彼女は紫村由宇、優秀な私の教え子で来年四月からこの研究室に入ることになっている。で、紫村くん、こちらは四月から助教としてこの大学にやってきた飯綱江くんだ。主に私の助手を担当することになる……ん? どうした二人とも?」
私達の様子がおかしいことに、先生はキョトンとした顔をしている。
「……紫村由宇です……」
「飯綱江だ。よろしく」
「うむうむ。来年から同僚になるのだから、仲良くしてくれたまえ」
そう言うと、先生は満足そうに自身の研究へと戻った。
「……少し、外で話をしましょうか」
「ああ、構わない」
私達はお互い牽制しながら、研究室を出た。
◇
「……それで、どういうつもりなの?」
キャンパス内にあるカフェのテラス席で、私はイタチソードに問い質す。
「フ……別に他意はない。元々私は生物工学の専攻で、表の顔は大学や研究機関の研究員だからな。たまたま助教の募集があり、申し込んでみたら採用された。それだけだ」
少し口を緩めながらそう語ると、イタチソードはホットコーヒーを口に含んだ。
この暑い中、ホットコーヒーを飲む彼女を見て私は余計に暑さを感じ、思わずアイスラテを飲む。
「……それを信じろと?」
「信じる信じないは貴様の自由だ。だが、少なくとも私はこの姿でいる以上、危害を加えるつもりはない」
「へえ……だけど、私があなたを組織に売ったら?」
「その時はその時だ。だが、当然私も抵抗させてもらうがな」
……ダメ、色々探りを入れて聞いてみるけど、彼女の意図が読めない。
ひょっとして、本当にただ採用されて来ただけ?
念のため、もう一度だけかまを掛けてみる。
「ふうん……それで、あなたは私がこの大学にいることを組織に報告するの?」
「安心しろ、そのつもりはない。私だって、表の世界のことは干渉されたくはないからな。気持ちは理解できる」
とりあえずは監視の目をつけておく必要があるけど、今すぐに何かあるというわけではなさそうね……。
「……分かったわ。私も先生の手前がある以上、仲良くさせてもらうわ。表面上は」
「ああ、それでいい」
すると、イタチソードは立ち上がり、千円札をテーブルに置いた。
「ではな。私も来週から始まる集中講義に向けて仕事があるんだ」
そう言い残し、イタチソードは校舎内へと戻っていった。
「…………………………」
表の世界のことは、か……。
私は、彼女の背中を眺めながら、自分の立場に照らし合わせ、その言葉を噛み締めていた。
◇
■飯綱江視点
「一体“あの御方”は何を考えているのか……」
今年の一月、戦闘員から渡された手紙……それは、“あの御方”から私宛の手紙だった。
その内容は、『この大学で助教の募集があるから、応募して採用されろ』という指示だった。
その指示通り私は応募し、晴れて四月から助教として勤務しているのだが……。
「それ以降、“あの御方”からはなんの指示もない……“あの御方”は私に何を求めているのだろうか……いや、“あの御方”のことだ。何か考えがあってのことのはず。私はただ、その指示に従うのみだ」
そう言い聞かせ、私は自分の研究室へと戻る。
だが、その足取りは軽やかなものだった。
先程スオクインに言った言葉。
『安心しろ、そのつもりはない。私だって、表の世界のことは干渉されたくはないからな。気持ちは理解できる』
そうだ、な。
“あの御方”に対して不謹慎だと思いながらも、私は今の立場を、表の世界を楽しんでいる。
こんな日々が、このまま続けば良いのに……。
「いや……それはあり得ないな」
私はあえて口にしてその想いを否定した。
そうしなければ、私は今の自分に溺れてしまうから。
「……さあ、来週の集中講義に向けたテキスト作りと、受講する学生をチェックしておかないと」
私は雑念を振り払うように首を左右に振ると、パソコンを立ち上げてテキスト作りに没頭した。
◇
「うう……ん……」
すっかり夜になり、私は少し伸びをする。
とりあえず、テキストはあらかた完成した。
後は誤字脱字や内容に齟齬が生じていないか、推敲をするだけだ。
「うん。次は名簿、だな……」
私はおもむろに受講者名簿を手に取り、どんな学生かを確認する。
「ふむ……やはり集中講義を受けるような学生は、前期での単位取得が芳しくない学生が多いな……む?」
名簿の名前と成績を斜め読みしていたら、知っている名前を見つけた。
「上代耕太……彼も私の授業を受けるのか」
彼の名前を見つけ、私の心が少し弾んだ。
先日出会った時、彼女を連れて楽しそうに食事をしていたのが印象的だったな。
「ふふ……本町教授から聞いていた彼と、実際にこの目で見た彼とのギャップには驚いたな」
あの時のことを思い出し、私は自分でも気づかないうちに口元を緩めていた。
「来週から楽しみだ。私がしっかり彼を鍛えてやろう」
来週からの集中講義に想いを馳せ、私は引き続き名簿の確認を続けた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の朝投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




